第24話:ゴブリン族襲撃

帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年8月20日・ロディー視点

ロディー15歳


 俺には2カ所の拠点がある。

 1つは西ロマンティア帝国の残党が築いていた砦跡を増改築した城。

 1つはエルフ族の里だったところを増改築した城。

 どちらも大切で、1カ所を放棄するような事はできない。

 特に酒を造り貯蔵している最初の城は絶対に放棄させてもらえない。


 前世で読んだ漫画に『ワインと豆腐には、旅をさせるな』という言葉があった。

 遠方の有名な豆腐店の豆腐を時間をかけて持ってくるよりも、地元で作った出来立ての豆腐の方が美味しいという意味だ。

 ワインの方は、ちゃんとした温度管理ができているなら別だが、高温多湿な場所や扱いの悪い者に運ばせると劣化するという意味だ。


 酒に異常な執着を見せるドワーフ族なら、温度管理も扱いも完璧だろう。

 1の城から世界樹の城まで酒を劣化させる事なく運んでくれるだろう。

 酒さえ移動できるのなら、1の城から世界樹の城に移住する事に問題はない。

 サンマロたちとの縁を切るなら移住するべきだ。

 だが、夏場の今は季節が悪すぎる。


 それに、世界樹に護られた城の中は完璧な安全が保たれるが、移動は危険な大森林を徒歩で歩く事になる。

 人間族の中でも1番弱い年老いた寡婦と幼い孤児を護りながらの移動だ。

 何より、俺が死んだ後もドワーフ族が人間を平等に扱ってくれるとは限らない。

 ドワーフ族は世界樹の城に住み、人間は1の城に住むのが1番かもしれない。


 そんな事を考えると、強制的な移住などできなくなってしまった。

 だから、俺が死んだ後でも人間の領民が生きていける方法を考えた。

 本丸二ノ丸に加えて、三ノ丸を造った。

 当然だが、三ノ丸を護る城壁と空堀を造った。

 城壁はエルフの里を襲った時に切った魔樹を使ったので、石造りよりも堅固だ。


 二ノ丸と三ノ丸には畑作地と果樹園を造った。

 畑作は麦を中心にしたが、前世の麦翁の農法を指導した。

 麦翁の農法なら、この世界の麦づくりと比べると15倍の収穫が見込める。

 同時に、ノーフォーク農法と呼ばれる六圃輪栽式農法を指導した。

 これなら連作障害が防げるし、肥料が手に入らなくなった時にも困らない。


 将来の事も考えて、果樹は収穫が可能な所まで一気に成長させた。

 以前にも言ったが、俺の基本は1反10アールである。

 それも、前世日本で食べた事のある最高の味の農作物だ。

 食べた事がない農作物は、日本で最高に美味しい物と願って創り出した。

 ドワーフも領民も泣いて喜ぶくらい美味い農作物だ。


 しかも、収穫量も前世日本基準だ。

 害虫や病気に対する耐性は、俺が願った事で健康な作物になっている。

 結果がどう出るかは創造神しだいだが、俺の御供えを心から楽しみにしている創造神なら、害虫に食べられる事も病気になる事もないと信じている。

 本当に信じているからな、創造神!


 俺が主食に考えている小麦は1反当たり474kg収穫できる

 陸稲は1反当たり535kg。

 酒の材料になる品種、酒米もほぼ同じだ。

 同じように酒の材料にするサツマイモで2300kg

 ブドウで1300kgが収穫できる。


 米だけで考えるなら、大人の人間を3人、1年間食べ繋ぐことができる量だ。

 ドワーフ族は大飯喰らいなので、1人分か2人分になるだろう。

 最低でも陸稲を作る畑が526反必要になる。

 周りを王国軍に囲まれて籠城する最悪のケースも考えておかなければいけない。

 できる事なら、領民を果樹園の果物だけで養えるだけの量を成長させておきたい。


「騎士殿、ゴブリンの卑怯者どもが世界樹の城を攻撃しやがった!」


 サンマロが1の城に現れてから20日ほどしたある日。

 俺が一生懸命三ノ丸を造っていると、ナイルが報告に来てくれた。

 ゴブリン族な卑怯な行動に、頑固な刀鍛冶であるナイルは激昂している。

 ゴブリンたちは自分たちのやった事に激しく後悔する事になるだろう。

 なんと言っても世界樹の城には俺がナイルに与えた火酒が貯蔵されているのだ。


 ドワーフに酒の事で恨まれるほど恐ろしい事はない。

 少なくとも俺にはドワーフと結んだ酒の約束を破る度胸はない。

 戦って勝てないというのではない。

 約束を破った負い目を抱えて狂信化したドワーフとは戦えないのだ。

 俺は自分の強みと弱みを十分理解している。


「そうか、俺には世界樹の城にそれほど思い入れはない。

 どうせ元はエルフ族の里だったのだ。

 俺は向こうに行かないから、ドワーフ族の好きにすればいい。

 いや、またこんな事があったら、向こうに蓄えている物を奪われてしまう。

 勝っても負けても世界樹の城は放棄する。

 世界樹にはそう伝えておいてくれ」


 同時に、ドワーフ族や世界樹の事もある程度理解しているつもりだ。


「そうか、任せてくれるのなら手加減なしに戦える。

 ドワーフ族が酒の恨みを忘れない事を、ゴブリンどもに思い知らせてやる。

 騎士殿がここを護ってくれるのなら、全ドワーフでゴブリンを皆殺しにする!」


「「「「「おう!」」」」」


 世界樹の城に酒を貯蔵していたのはナイルだけではなかったようだ。

 まあ、恐ろしいほど酒が好きなドワーフ族だ。

 世界樹の城を護る当番に当たった時にも大量の酒が飲みたかったのだろう。

 俺を残して全てのドワーフがゴブリンを皆殺しにすると誓って出て言った。


「騎士殿、世界樹が戻ってきてくれと懇願しているのだが、どうする?」


 10日ほどして戻ってきたジェイミーが困った表情を浮かべて聞いてきた。


「戻ってくれと言われても、俺の本拠地はここだ。

 それに、世界樹は公平中立で、俺たちの味方はしなかったのだろう?」


「ああ、当番だった奴に聞いたが、どちらの味方もしなかった」


「だったら無理をして世界樹の城を護る必要などない。

 ドワーフ族も大切な酒を奪われたのだろう?」


「あの日世界樹の城にいた者は必死で自分の酒を護り抜いたが、ここにいた者の酒はゴブリンどもに奪われるか甕を叩き割られて失われてしまった」


「世界樹が味方しない限り、また同じ事が起こる。

 どれほど頼まれようと戻る気はない。

 それよりも憎っくきゴブリンどもは皆殺しにできたのか?」


「世界樹の城を襲ってきたゴブリンどもの集落には逆撃をかけた。

 20以上の部族が連合を組んで襲ってきていたようだ。

 総勢1万ほどだったと思われる。

 エルフどもがため込んでいた富を奪いたかったのだろう。

 半数の部族の里は壊滅させて奪われた富は奪い返した。

 残り半数の里も数日のうちに壊滅させてやる」


 ゴブリンの普通種は大森林に住む部族の中では最弱に近い。

 上位種であるホブゴブリンでも戦闘職のない人間と同等だ。

 ゴブリンにはハイやエンシェントと呼ばれるような上位種はいないと聞く。

 上位種は魔獣のようにビッグやヒュージと呼ばれているらしい。

 これはゴブリンに対する他部族の差別意識からきているのかもしれない。


「そうか、別に奪われた富は取り返さなくてもかまわない。

 ただ、襲われた報復は必ずやると他の部族に教えなければいけない。

 そうすれば、もう2度と襲われないだろう。

 これまで通り、殺したゴブリンの首は晒してくれ。

 女子供をどうするかはドワーフの掟で決めてくれていい」


「酒を奪われた連中の怒りは誰にも止められない。

 既に女子供関係なく皆殺しが行われている。

 エルフに続いて卑怯な宣戦布告なしの夜襲を行ったのだ。

 他部族も何も言ってこないさ」


「そうか、好きにすればいい。

 これは慰労のために用意した5年エイジングの清酒だ。

 甕でエイジングして輸送のために木樽に詰め替えた。

 戦地で皆に振舞ってやってくれ」


「騎士殿はドワーフの気持ちを分かってくれているな。

 これだけしてもらったら、世界樹の戯言など誰も相手にしないだろう」


 ジェイミーはそう言って戦地に戻って行った。

 10頭の輓馬が牽く10台の馬車一杯に清酒を載せて。

 火酒だとどうしても蒸留の手間がかかってしまうが、清酒なら俺の魔力で発酵醸造させてからエイジングすれば、それだけで極上の熟成清酒ができあがる。


「騎士殿、世界樹が次は必ず味方するから戻ってきてくれと懇願している」


 更に10日ほどして戻ってきたジェイミーが困惑の表情を隠さずに言ってきた。

 俺の駆け引きは成功しているようだ。


「世界樹の言葉など無視すればいいと言ったはずだぞ!

 それより残りのゴブリン族は皆殺しにできたのか?」


「半数ほどの里はほぼ皆殺しにできた。

 ただ、残りの半数は里を放棄して逃げていた。

 遠くのゴブリン族を頼って逃げて行ったようだ」


「ドワーフ族に任せたのだから、追撃するか見逃すかは好きにすればいい。

 だが、見逃せば、遠くに逃げれば大丈夫だと他部族に思われるだろう。

 それに、最初に皆殺しにすると言っていたのに、4分の1ものゴブリンを逃がしたとあっては、戦勝祝いなどとてもできないな」


「な、それは、10年エイジングの火酒が飲めないという事か?!」


「いや、火酒だと蒸留に手間がかかるから、慰労に渡した清酒を、今度は15年エイジングさせて渡そうと思っていたのだが、これで魔力を使わなくてすむよ」


「まて、マテ、待て、待ってくれ!

 これまでの戦いを評価して少しは振舞ってくれないか?!」


「これまでの戦いの慰労として、10年エイジングの清酒を渡した。

 宣言通りにできなかった戦争にこれ以上の褒美は必要ないだろう。

 現実問題として、世界樹の城は放棄する事になった。

 はっきり言えば、ドワーフ族が城を護りきれずに負けた戦だぞ」


「いや、いや、いや、いや、世界樹の城が必要なら今度こそ護りきるぞ!」


「ドワーフ族が護るのは自分の酒だろう?

 あの場に人間の領民がいたら、見殺しにされていたはずだ。

 それがドワーフ族だと分かっているから、俺は何も言わない。

 ただ、大切な俺の領民を世界樹の城には住ませられない。

 いや、俺がいない場所には住ませられない。

 それに、そもそも世界樹が信用できない。

 だからこの城ではなく世界樹の城を放棄する!」


 俺の言葉にジェイミーは何も反論できなかった。

 さて、ドワーフ族と世界樹はどう反応してくれるかな?

 俺の思い通りに踊ってくれればいいのだが……


『ロディー騎士領』

領主:ロディー

家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)

  :ハイドワーフ    ・74人

  :エルダードワーフ  ・112人

  :ドワーフ      ・497人

家臣:人間        ・1人(アルフィン)

小作:人間男       ・24人

  :人間女       ・24人

  :人間子供      ・35人

  :人間寡婦      ・53人

  :人間孤児      ・59人

馬 :軍馬        ・1頭

  :輓馬        ・10頭

  :牛         ・38頭

  :山羊        ・35頭

  :羊         ・14頭

  :豚         ・25頭

  :鶏         ・200羽

『ロディー』

種族:ホモサピエンス

神与スキル:農民  ・レベル7621

     :自作農民・レベル6543

     :開拓農民・レベル35526

     :地主農民・レベル5412

     :武装農民・レベル7621

 付属スキル:耕種農業レベル7621

        耕作  レベル2514

        種蒔き レベル1981

        品種改良レベル1981

        農薬生産レベル3416

        農薬散布レベル3416

        選定  レベル4912

        収穫  レベル 896

        剣鉈術 レベル7621

        戦斧術 レベル7621

      :工芸農業レベル212

        木工  レベル212

        紡績  レベル212

        織物  レベル212

      :自作  レベル6543

        燻製  レベル68

        酒造  レベル6543

        発酵  レベル6543

        陶芸  レベル225

        料理  レベル1984

      :開拓  レベル14253

        伐採  レベル5327

        建築  レベル1293

        石工  レベル  21

        魔力生産レベル35526

        魔力増幅レベル35526

      :地主農民レベル5412

        領民指導レベル5412

      :武装農民レベル7621

        剣術  レベル7621

        槍術  レベル96

        戦斧術 レベル7621

        弓術  レベル195

        石弓術 レベル9

        拳術  レベル9

        脚術  レベル9

        柔術  レベル9

        戦術  レベル9

        馬術  レベル633

        調教術 レベル633

 一般スキル:生産術レベル1298

        木工 レベル1293

        絵画 レベル9

        習字 レベル9

        算術 レベル9

        料理 レベル1984

        刺繍 レベル9

        裁縫 レベル9

        大工 レベル1293

        石工 レベル21


「基本能力」

HP:16042732

魔力:13882619

命力:10088234

筋力:967787

体力:865553

知性:752312 

精神:731133

速力:648085

器用:627230

運 :627230

魅力:627230

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