第44話 春 九歳に
「ノア、九歳、おめでとう!」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「ウォンッ、ウォンッ!!」
雪が消え、新芽がどんどん芽吹き出して毎日森へ出かけては薬草や野草、芋などを採って過ごしていた。ボアの行動も活発になったようで、ウィトもかなりの頻度でボアを狩って来たので、毎日豪華なご飯を食べている。
そうしてどんどん暖かくなり、そろそろ山の頂上の雪も消えてランカを採りに小川の上流へ遠征しよう、と話し出した頃、私は九歳になった。
「はい、これは僕から。一応頑張ったけど、来年はもっといいのを渡せるようにがんばるよ」
「お姉ちゃん、これは私から!私だけだとお料理してもお姉ちゃんみたいに美味しいの作れないから、プレゼントの用意、頑張ったの!」
「グルグルル……ウォフッ!」
そんなある日、昼食を食べると皆に「おめでとう」と祝って貰えた。
まあ、確かにまだリサちゃん一人だと、料理を作るのは不安だものね。それに私が気づくから、サプライズは無理だしね。でも、プレゼントなんて……。すっごくうれしいな!
「みんな、ありがとう!とってもうれしいよ!」
ラウルから貰ったのは、私用の櫛だ。最初に作って貰ったのは大きかったので、ウィトのブラッシング専用となっている。なので私用に私の手に合う大きさで作ってくれたらしい。それに、よく見ると花の模様が掘られている。
ナイフ一本で細工までできるなんて!ラウル……恐ろしい子!本当にラウルは器用だよね。
リサちゃんがくれたのは、リサちゃんが自分で織った布で作った肩に下げる小さめな鞄だった。たどたどしい縫い目が愛おしい。
そしてウィトからのプレゼントはーーー……。
「ウィト?……なんか動いていない?」
ウィトがくれたのは、もふもふな手触りのいい、ウサギ系の魔物の毛皮だった。恐らくラウルが協力してこっそり解体して毛皮も鞣しておいてくれたのだろう。
そのキャメル色の毛皮の中心が、何やらもぞもぞと動いているのだ。
そのもぞもぞとした動きを見つめ、じっとウィトの顔を覗き込むと、明らかに目が泳いでいる。
「ウィトーー?ねえ、これ、何が入っているの?ちゃんと私の目を見て答えて」
なんとなくバツが悪そうなウィトの逃げる目を追って行くと、もぞもぞと動いていた毛皮の中心からぴょこんと小さなベージュ色の頭が飛び出した。
「え、なに?」
ぴょこぴょことあちこちを見回す小さな頭には丸い耳が、それに毛皮から抜け出すと大きくてふさふさな尻尾があった。
こ、これは……リス?いや、でも尻尾はリスに似ているけどもっと大きいし、それに体が長くてまるでプレーリードッグのような?
じーっと見つめると、ビクッと飛び上がり、毛皮の中に頭から潜ってしまった。その瞳の色はキレイな緑色をしていたから、動物か魔獣の子なのだろう。
「ええと、ね。この毛皮を獲りにウィトと二人で小川の向こう側の森まで行って来たんだけど、ちょうど魔物を狩った時に、木の枝からこの子が落ちて来たんだ」
小川の向こう側は、しばらく森が続き国境となっている山脈の山に突き当たるので、一気に森が深くなって強い魔物や大型の魔獣の生息域となっているのだ。
不思議と小川からこちら側はそこまで強い魔物はいないのだが、だから私はウィトにもラウルにも小川の向こう側に行くことは止められていて、あちら側の薬草はウィトとラウルが二人で見回りに行った時に採って来てくれている。
「え?落ちて来たの?じゃあ、怪我をしていたんじゃないの?」
「うん。ノアが持たせてくれている傷薬で手当てしてあるから大丈夫だよ。この子はかすり傷だけだったし。ただウィトとその周辺を探ってみたんだけど、この子の家族の姿が見当たらなくて、まだ生まれてそれ程経ってないから連れて来たんだ」
かすり傷だけだったのなら良かったけど、もしかしてこの子も家族を亡くして独りぼっちになっちゃったのかな?
「……でも、離れた場所に逃げているのかもしれないよね?」
「ううん。ああ、この子は魔獣だから、ウィトが魔獣の気配を探って確認したから、この辺り一帯にはこの子のような小さな魔獣は居ないって」
こんなに小さな子でも魔獣なのね。もしかして成獣すればもっと大きくなるのかな?でも、この子も独りぼっちになっちゃったのか……。
刺激しないようにそっとしゃがみ、毛皮に手を掛けて呼びかける。
「ねえ、あなたもお父さんとお母さんを亡くしてしまったの?ここにいる皆もそうなんだよ。ねえ、私たちと一緒に暮らす?それともウィトに頑張ってあなたの同族を探して貰った方がいいのかな?」
小さいけれど魔獣なら、恐らくなんとなくでも話が通じるだろうと思って見つめていると、またもぞもぞと毛皮の中心が動くとぴょこんと頭が出て来た。
それでも動かずにじっと見つめていると。
「……チッ。チチチッ」
私を見つめ、私の差し出した手を見つめ、そして上を向いてウィトの方を見つめると、おずおずと毛皮の中から出て来て私の指先にそっと触り、小さな声で鳴いた。
かっ!かかかかか、かわいいーーーーーーっ!今、ちょっとだけだったけど、ホワッてしたよ!くう、大きなもふもふワンコも大好きだけど、小さい子もなんてかわいいのーーーっ!!
うっきゃーーーっと内心で悲鳴を上げていると、それを察したのかラウルの呆れた視線が刺さる。
い、いいの!かわいいもふもふは、萌えなんだから!仕方ないのよ!
ゆっくりと指先を動かすと、ふんふんと匂いを嗅いでいた小さな子が、ちょこんと小首をかしげて「チュッ」って鳴いた。
「グルゥ!グルルルルゥ、ガルゥ!」
そんなかわいい仕草に悶えていると、ウィトが低い声でうなり声を上げた。その声にビクッと飛び上がり、おびえるように私の手のひらから腕を伝い、肩の上へと乗って私の三つ編みにした髪の中に隠れるように身を潜ませた。
ふおおおぉお!か、軽いっ!ほとんど体重なんて感じなかったよ!でも、首筋に当たるふわふわな感触がたまらんです。でも……。
「ラウル、ウィトはなんて言っているの?なんとなく拗ねているような気がするんだけど」
じとーーーっとウィトを見つめると、もう大型犬よりも大きくなったのにウルウルと瞳をうるませて私をじっと見つめて来る姿は、もうなんでも許してしまうくらいにかわいいけれど!
つい気づくと伸びていた手がウィトの両頬を挟んでうりうりと撫でまわしてしまった。
「ええと……。あの、ウィトは、成獣したら俺がノアと絆を結ぶんだから、絶対に先に契約したらダメだからな!って」
「ええっ、ウィト、成獣したらすぐに私と絆を結んでくれるの?獣人じゃない、人族の私とでいいの?」
「ガウウッ!!ウォフッ!!」
「フフフ。ありがとう、ウィト!私、すっごくうれしいよ!これからもずっと一緒だね!」
私がいい、って吠えてくれたのが分かった、うれしくてつい両手でもうギリギリになってしまった首に抱き着き、頬に頬すりをした。
ペロペロとこれまた大きくなった舌で顔を舐めまわされ、くすぐったくなってそのまま全身でウィトにのっかるように抱き着いてもふもふ撫でまわす。
そのまま満足するまでじゃれあっているうちに、気づくと私の首にいた小さな子は、いつの間にかラウルの手の中にいたのだった。
うん、ごめんね。ちょっとウィトの可愛さに久しぶりに興奮しちゃったから。もう、うちの子、本当にかわいすぎるよね!
「そ、そうだ。ラウルはその子の言葉も分かるの?」
「この子は魔獣でもまだほんとうに小さいから、片言みたいな感じだけどね」
赤ちゃん言葉みたいな感じってことかな?でもこんなに小さいのに、魔獣は知性があるんだね、やっぱり。
「じゃあ、この子に私達と一緒に暮らすか返事を聞いてみてくれるかな?」
「ええと……」
「……チィチィ、チチチッ」
「うん、ウィトは優しいから大丈夫だよ。ウィトがいいなら、ここで一緒に暮らしたいって」
お、おおおおっ!小さなもふもふゲットだぜ!……いや、テンションがおかしいからここら辺で一度落ち着こう。フウ。
「ウィト、この子も一緒でいいよね?」
「ウゥ……ウォフッ」
「いいって言ってますね。じゃあ、ノア。この子に呼び名をつけてあげて。呼び名がないと不便だし、家族になるなら名前がないとね」
「チィッ、チィッ!!」
おお、これは分かる。うれしい!って言ってるね。
ラウルの手の上でうれしそうにクルクル回る姿に癒されつつ、呼び名を考えてみる。
「あ、でも私が考えていいの?ラウルとリサちゃんもなんかいい名前とかあるんじゃない?」
「んー?その子、ウィトお兄ちゃんがお姉ちゃんのお祝いに連れて来た子だもん。お姉ちゃん、がつけてあげなきゃ!」
え?もしかしてプレゼントの毛皮の中にいたのって、そういう意味だったの?……いや、違うよね?たまたま出会ったのが今日だっただけだよね?まさか三日前からこそこそ匿ってたとかないよね?
じーーーっとウィトを見ると、チラチラッとこちらを見ながら目線を合わせない姿にまさか、と思いつつ。
……まあ、もう済んじゃったことだし。とりあえず名前を考えよう。わくわくしながら待ってくれてるし。
クルクル回ってはこちらを見上げ、またクルクルと回るかわいい仕草に、いい名前を考えなきゃ!と気合を入れると。
んーー。リスのようなプレーリードッグのような……。ああ、見れば見る程しっぽがふっかふかでかわいい。そうだ。
「プーリ。プーリってどうかな?」
ーーーーーーーーーーー
新しいもふもふの子が登場です!(この後増えるかどうかは検討中です)
まだ生まれて半年くらいの子供です。名前は……音の響きです!(名前考えるの苦手なので)
今のところは、体長(尻尾除く)約二十センチくらいです。(胴が長めなので)
この子が活躍するのはまだ後になりますが、どうぞよろしくお願いします。
明後日で投稿一か月ですがストックが絶滅危惧です(ヤバいです)
良かったらフォロー、★、♡で応援をお願いします<(_ _)>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます