第35話 冬の始まり

 初雪が降った後、私たちは大急ぎで冬の準備に駆け回った。


 山向こうとは言え、同じように森の麓の集落に居たというラウルに改めて雪がどのくらい降るか聞いてみると、やはり一メートルを越えるようなドカ雪が降ることは滅多にないが、何日も降り続けると子供の腰くらいに積もることがあったという返答が返って来たのだ。


 家があるのは崖のすぐ下にある岩場だが、笹の葉が生い茂っている分雪崩はないかもしれないが、それでもそうなった時の準備も必要だった。


 住み始めてから何度か本降りの雨が降った時には雨漏りはなく、そのことに安堵して屋根にした岩はそのままにしておいたが、ラウルに登って様子を見て貰い、隙間などには石をつめた。崖に置いた屋根石の根元も改めてしっかりと岩と石で固めて雪の重みでも動かないようにした。


 屋根に積もった雪は、その傾斜で崖の方に滑り落とすように計算していたが、その崖から更に雪が落ちると入り口が埋まってしまう可能性があるとラウルに指摘され、結局扉を作れずに隙間となっている出入り口を改装することになった。



「この際だから、雨期に雨がどれだけ降っても家の中に入らないように、入り口をせめて腰ぐらいまであげよう。その分階段を作れば出入りは問題ないからね」

「そうね。なら、隙間も扉で閉められるようになんとか出来ないか考えなきゃね。ええと、木の板があれば、扉はラウルが作れるのよね?」

「家の補修は、全部自分でやってたからね」


 なんともラウルが頼もしい。まだ七歳だというのに。その何でも出来ることが逆に痛ましいとも前世の感覚だと思ってもしまうが、ただ生きることだけで大変な世界なのだ。やれることが多くないと生き残れないのだ。


 久々に通販スキルの出番なのがちょっとだけ複雑だが、まず家を造る時に切って貰った石をいくつか取り出す。一番大きかった岩山を屋根の傾斜の為に切り取った岩をウィトに入り口の隙間に合うように斜めにカットして貰う。


「うわ……。この家って、そうやってウィトに岩を切って貰って造ったんだ」

「ウィトお兄ちゃん、凄い!私も魔法、使いたいなぁ!」


 岩をピッタリなサイズに器用に風魔法で切断したウィトを、他の全員で凄い凄いと褒めると凄い勢いでブンブンと尻尾を振っている。そんな可愛いウィトの背にこれまた可愛いリサちゃんが飛び乗って抱き着くと、もう萌え画の出来上がりだ。


 もう、うちの子、なんて可愛いのーーーっ!ああ、本当に皆が家族になってくれて良かった!


「リサはまずは飲み水と種火から練習しないとダメだぞ。一気に魔力を使おうとすると、倒れるからな」

「わかってるよ、お兄ちゃん。また夜にでも、魔法の使い方を教えてね、お姉ちゃん!」

「勿論よ、リサちゃん。さあ、続きをやろうか。ウィト、お願いね」


 ウィトに切って貰った大きな石をラウルがウィトの風の補助で運び、入り口の隙間に置くと少しだけ大きくて入らなかった。

 その分をウィトに切って貰い、再度入れると今度はピッタリと隙間の中央に嵌った。また皆でウィトを褒めてから次は外と室内と両方に上り下りする為の階段だ。


「じゃあ適当に石板に変換したのを取り出すからお願いね」


 タブレットを出し、チャージポイント数を見ながら小さめの石を選んで石板(中)に変換し、次々と出して行く。

 通販スキルのことを変換するスキルと説明した時に、タブレットも出して見えるかどうかラウルとリサちゃんに試したが、何もない場所から物が出て来た、と二人で声を揃えて言ったのでどうやら見えていないようだった。


 ラウルとリサちゃんが獣人だから見えないのか、人族なら見えるのか、それとも魔力が高い人に見えるのか、まだまだ通販スキルに関しては疑問は多いが、とりあえず外では人前では絶対に使わないと決めている。


 次々と私の目の前に石板が出て来るのを、リサちゃんが私の隣で不思議そうに眼を輝かせて見ている。


「いいなー、お姉ちゃん。私も何か魔法のスキルが欲しいの!」

「だからそれには、飲み水と種火からだって。魔力の扱いを覚えないと、魔法系のスキルは何も覚えないぞ」

「もう、分かってるもん!」


 リサちゃんは私の説明はあんまり分かっていなさそうだったが、魔法のスキルということで納得したらしい。

 この国、ランディア帝国では八歳で洗礼を受け、生活魔法を得てからしか子供は魔法を使うことはないが、隣国のリンゼ王国では、大体五歳くらいから親に教わってまず飲み水と種火から教わるのだそうだ。


 お父さんもお母さんも、町の人も皆八歳の洗礼で生活魔法を使えるようになる、としか言わなかったから、まさか生活魔法もスキルの一種だと思わなかったよね。しかもスキルがなくても魔力を使えるなんて……。


 つまり、確かにその人の持つ才能によって生まれつき持っているスキルがあることはあるが、それは適性があるということで、適性が無くても毎日訓練していれば剣術でも、魔法でも、調合などの職人のスキルでも得ることが出来るのだそうだ。


 このことをラウルに説明されて聞いた時は、ランディア帝国が人族至上主義国家で、権力は王侯貴族が独占しているということを実感として納得した。

 生活魔法が八歳で洗礼を受けて誰もが使えるようになるのは、周囲の大人を見てそう思い込んでいるからスキルとして授かっていたにすぎなかったのだ。


 ……しかも洗礼の時、教会の前の台で手を置いてスキル名が表示された水晶のような光る板は、本来なら誰もがいつでもスキルを確認する為の物だったってのがね。それがこの世界が出来た時からある、って聞いて、あの神が!と思うとかなり複雑だけど、そんな重要な物をわざわざ教会と国と結び付けて運用しているだなんて、知らなかったけどこの国はろくでもないね。


 その、国民なのに知らなかった、ということがそもそもの問題なのだ。

 ランディア帝国は人族至上主義を掲げている為、周辺の国とは最低限の国交がなく、その為に他国の情報がほとんど入って来ない為に一般庶民には何の情報も入らない、ということなのだ。


 リンゼ王国だけでなく、他の国の人だってそんな面倒そうな国はそりゃあ避けるよね。しかもへたしたら罠にはめられて奴隷にされるかもしれないんじゃあ、私ならそんな国、絶対行かないもの。


 リンゼ王国やその他の国ではあの水晶のよう光る板は数量の問題から、基本的にそれなり以上の人数が住む街に設置されているそうで、そこに行けばいつでも使うことが出来るみたいだ。

 でも別に確認しなくても、練度を越えてスキルを習得すると格段に効率が良くなるから本人は分かるので、スキルを調べるのは確認の意味だけなんだとか。


 スキルの意味さえそこまで認識が違うとは思っていなかった。生活魔法の検証、とか、なんだか恥ずかしいかも……。まあ、お陰で向いている向かないはあるみたいだけど、もっと魔力の使い方を訓練すればもっと魔法が使えるようになれる、ってことが分かったことは良かったと思うしかないけどね!!



「ノア、最初の段になる少し大き目のも出せるかな?幅とかはウィトに切って貰うから大きくても大丈夫だし」

「あっ、そうだよね。じゃあ、大きさが違う石板も出して行くね」


 つい考え込みながら無意識に次々と場所を移動しながら石板(中)を出していたらしく、幅や長さがそれぞれ違う石板が私を中心にあちこちに出現していた。


 うわ、出し過ぎちゃった……。ま、まあ、何かには使えるよ、多分、うん!


 ちょっと引きつった照れ笑いを浮かべながら、慌てて場所を家のすぐ近くに移し、石板(大)を出した。

 こうして出した石板で無事に階段は出来上がり、明日は木枠と扉を作ってみよう、ということになったのだった。










ーーーーーーーーーー

家の隙間がやっと塞がります( ´艸`)

入り口は軒下に斜めに壁が出来ている感じなので、階段を斜めに外と部屋の中に跨って造りました。

次で扉を作って行きます。どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>

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