第14話 草原から森へ
川近くの草原で眠ってから十日、昼間は川で洗濯し森で採取しながら寝床の探索をし、そして夜は草原で寝る、という生活を続けていた。
森で安全に寝れる場所はその間に見つからなかったが、通販スキルの変換の新たな用途を発見することが出来た。
それは、森で見つけたハーブや様々な野草をそれなりの量収納した時に、変換リストに町で買って来た葉物野菜の名前が表示されたのだ。
「ええっ!コレンナってほうれん草みたいなあの野菜だよね?そんなの森に生えてなかったし、採った記憶もないんだけど……。しかもいきなり黒文字だし」
どういうことなのだろうか?と変換リストのコレンナの文字を押してみると、材料には森で採取したハーブと野草が表示されたのだ。当然ハーブの名前も野草の名前もコレンナとは違う。
えっ、ど、どういうこと……?もしかして、他の植物から野菜へ変換できる、ってこと?そ、それって凄いことなんじゃ!?
それは、もしかしたら土や岩を収納すれば、粘土や砂鉄に変換できるかもしれないし、それが出来たら更に磁器や鉄、鉄の加工品まで変換出来てしまうかもしれない、という可能性がある、ということに他ならないのだ。
「うわっ……たしかにチート能力だけど、でも、やっぱり通販スキルじゃないよね?変換スキルで良かったんじゃないの?」
通販スキルでイメージする異世界の物を取り寄せ、は最初から無理だと断られてはいたが、今のスキルだとスキル名が通販である意味が全く分からない。
「もしかして通貨をチャージポイントに変換できたから、それでも変換出来るようになるのかな?でもそれだって変換レシピに載っている品物としか交換できないなら、通販ってやっぱり違う気が……」
まあそれでも、そこら辺に生えている野草から野菜が変換出来るのなら、変換した野菜を市場に流したら十分チート能力となるのだが。それでもその変換には魔力も伴うのだから、市場の流通量に影響が出る程の量をこのスキルで変換出来るとは思えない。
……やっぱりこんな中途半端な能力なら、結界の能力一つでお父さんとお母さんが生きててくれた方が何倍も良かったのに。
通販スキルの代償が大き過ぎて、どうしてもその想いが頭から消えないのだ。
それもこれも自分があの場で思い浮かべてしまったからだ、という自分のせいだと思うとさらにやりきれなく、ずっと直視していたらこれから何年もこんな生活を送る気力さえも無くなってしまう。
フウ、と重いため息を一つつくと、頭を振って今出来ることを考えることにする。
「とりあえず収納しても時間経過はあるから、ハーブをそのまま乾燥させてハーブ塩でも作ろうかと思っていたけど、スープを作る分はコレンナに変換することにしよう。それにそれ以外も変換できるようになるかもしれないしね」
毒があるかどうかが分からないから、食べられるのはハーブと知っている野草しかないと思っていたが、もしかしたら森に自生している芋を見つけたら、町で買って収納した芋に変換出来るかもしれない、ということだ。
収納している小麦粉が無くなったらパンも変換できなくなるし、その後の食料をどうしようかと思っていたから、少しだけ先行きが明るくなった。
今日は芋スープじゃなくて、久しぶりにコレンナ入りのスープを作れる!とウキウキと森から出ようと草原に向かっていた時、草をかき分けるかすかな音と複数の気配を感じた。
うわっ!すっかり油断しちゃってたっ!!とりあえずその木の陰で結界を張って様子を見よう。
物音を立てないようにそろりそろりと斜め前にあう太めの木の方へ向かい、しゃがんで草に隠れるように気配を殺して結界を張る。
「……だ……さ…。いる……わけ……って」
「いや、でも……あたりなら……可能性はあるって」
そうして耳を澄ましていると、かすかに人の話し声が聞こえて来た。
こんなところに人がいるなんて!もしかしてギルド員だろうか?
この森には薬草もそれなりに生えているので、採取に来た可能性もあるにはある。ここ十日は一度も人影を見かけたことが無かっただけに、そのまま警戒して身を潜めて様子を伺うことにした。
「でも、もうその雑貨屋の娘だっけ?いなくなって十日だろう?町から出たこともない女の子一人で、いくら草原だからって生き残れると思うか?」
「まあ、そうなんだけどさ。それでも遠くから草原に人影を見たっていうヤツが何人かいたしな。結構薬草も集まったし、また明日も来てみるだけ来てみようぜ」
「そうだな。薬草採取依頼のついでにならいいか。依頼を受けていなくても、見つけて連れていけば依頼料をくれるっていう話だもんな」
……見られていたのっ!人がいたなんて、全く気付かなかったのに。……もしかしてこのままずっと鍬でテントをたてて寝ていたら、見つかる可能性があったってことだよね?それにーーー。
やっぱり私はテムの町で、人探しの依頼を出されているのだ。それも恐らく町長やナタリーおばさんのように心配して探してくれている訳ではなく、叔父が討伐ギルドへ依頼として出しているのだろう。
……私を探しているのは、店のお金と私自身が目的で間違いないだろうね。絶対に見つからないようにしないと!
この十日。草原で眠れてそれ程危険な目に合わずに暮らして行けたことで、この場所でなら暮らせるかも、と甘い考えになっていたことを改めて思い知る。
食料が切れても、何があってももう、絶対にテムの町へ戻る訳には行かないのだ。
そう覚悟して出て来た筈なのに、やっぱり心のどこかに甘えがあったのね……。もう、草原へ出るのは止めよう。見晴らしがいいから、いくら草が姿を隠してくれるとはいっても、人に見つかる危険を冒すことは出来ないし。……やっぱりザッカスの街の方へ森の中を進むしかない、よね。ザッカスの街なら、ほとぼりが冷めれば私の顔がバレるということはないだろうし。
浮かれていた気持ちは全てマイナスとなり、これでしばらく温かいスープも飲めないかもしれない、と気持ちが沈む。でも、ここで諦める訳にはいかないのだ。
唇を引き結び、ぐっと不安を飲み込むと、完全に二人の気配が無くなったのを確認してから草原から見えない場所へと進む。
今から移動するには危ないから、とりあえず今晩は暗くなってから森の入り口付近で夜明かしして、早朝に森の中をザッカスの街の方へ移動しよう。ザッカスの街の周囲は国境の山になってるから、奥に行きすぎないように街道から一定の距離を歩かないと危ないよね。
ただその分、依頼に森に入るギルド員に見つかる可能性はかなり上がる。だから移動しつつ、どこか森の中で隠れられる場所を探して、そこで人探しの依頼が取り下げられるのを待つのが選択肢としてはベストだろう。
ある程度ほとぼりが冷めれば、人に見つかっても逃げずにすむ、よね?ただ森の中に子供が一人、っていうのは不審だから、結局人には用心する方がいいに違いないけど。
今後のことを色々と考えながら落ち込みそうになる気持ちをごまかし、その日は藪の中でうつらうつらしつつ夜を明かしたのだった。
ーーーー
もふもふ登場まではもうちょっとだけお待ち下さい。今日でカウントダウン2です!
明日は夕方と夜に更新します。どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます