第70話
フィーリアの訪れから、しばらく考え込んでいたアベルだが、突然ケルトの来訪を受けて驚いた。
「叔父さん、急にやって来るなんてどうしたの?」
「ああ。ちょっと相談したいことがあってな」
「なに? 急に相談て」
甥に勧められるまま、ケルトはソファーに腰掛けた。
「さっきフィーリアが来ただろう?」
「あ、うん」
「フィーリアから聞かなかったか? 今リアンがどうしているか」
「聞いたよ。俺のほうからも叔父さんに相談に行こうと思ってたところだよ。俺のせいでリアンが心を病んでたなんて」
「あまり気に病むな。今回のことは誰も悪くない。そなたの立場的には仕方がない処置だったのだから」
「でも、フィーリアに言われたんだ。どうして嫌いじゃないなんて曖昧な断り方をしたんだって」
「アルベルト」
「叔父さんには裏切りに聞こえるかもしれないけど、俺さ、リアンのこと本当に嫌いじゃなかったんだ」
「それは裏返すとひとりの異性として好きだったという意味か?」
「勿論レイやレティのことも好きだよ? でも、リアンのことも同じくらい好きだった。ただ家のことを考えると受けてはいけない気がした。だから断っただけで、好きだったからこそ、嫌いだからだとは思われたくなかった。結局俺の傲慢さが招いた事態なんだよ、これは」
「ハーレムを否定していた割には、随分柔軟に受け止めていたんだな、本当は」
「選べないっていうのが、本当のところなのかもしれない。優柔不断すぎたかな」
「選べない3人の中で、意思表示が許されたのがレイとレティというわけか」
それはまあハーレムも受け入れるわけだ。
断って誰かを傷つけるより、ハーレムを受け入れるほうが、優しいアベルには簡単な選択肢だったのだろうから。
そんな中でどうしても受け入れるわけにいかなかったのが、公爵家の後継問題の中心にいるリアンだったと言うところか。
どんなに好きでも、家絡みで断るしかなかったと。
まあリアンに対する印象を聞いた時点で、こうなる予感はしていたが。
だから、くどくなるほど公爵に釘を刺したし、アベルが自覚しないことを願ってもいた。
なのに人生そうそう上手くはいかないものだな。
「リドリス公爵からリアンをアルベルトのハーレムに入れてやってほしいと打診があった」
「え? じゃあ公爵家はどうするんだ? 養子縁組したとはいえ、直系のリアンがいるんだ。フィーリアには継げないだろ?」
「だから、異例中の異例として、妃としてではなく側室としてだ。早い話が愛人としてハーレムに入れてほしいそうだ」
言われて暫く考えてから、アベルは疑問を口に出した。
「側室の産んだ子には、確か王位継承権は」
「そう。持てない。リドリス公爵の言葉を借りるなら、そういう扱いにすることで、リアンの子供は王族ではないから、リドリス公爵家に引き取ることで、正統な受け継ぎが可能になるそうだ」
「そういう手段でも使わないことには、リアンの気持ちは認められないってことか」
「で。今アルの気持ちも聞いたし、リドリス公爵からの提案は、きちんと伝えてる。アルはどうしたい?」
「リアンの病状を思うと、受けるしかないんだろうなと思ってる。ただ俺にも条件があるよ」
「なんだ?」
「リドリス公爵家に養子に出せるのは男子二名のみ。令嬢たちや三男が産まれた場合は、俺が育てる。継承権はなくても俺の子なんだから」
「まだ続きがありそうだな」
「うん。あのさ、叔父さん」
「ああ。なんだ?」
「今日フィーリアからリアンのことを相談された。そのときフィーリアからも告白されたんだ」
「え?」
驚きすぎて声が出ないらしいケルトに、アベルは迷いながら自分の気持ちを口にした。
「フィーリアのことは大事だと思ってる。どう思ってるのかは正直わからないんだ。でも、俺が断ったら、フィーリアは好きでもない男と婚約させられると思ったら、物凄く腹が立った。何故腹が立って仕方なかったのか、わからないんだ。でも、断りたくないと思ってる」
ここまで一息に言ってから、アベルは首を傾げて、叔父に問いかけた。
「どう思う? 叔父さん? 俺軽率かな?」
「フィーリアのことだが、ズバリ聞く。ひとりの女として抱けるのか? 妹ではなく女としてだ。どうだ?」
「わからない。でも、他の男を想像すると、やっぱりムカつく。それが答えじゃダメかな?」
妹という認識は、やはり大きく簡単には変えられない。
でも、妬いていることは隠さない。
ただ嫉妬は兄代わりでもする。
妹に近付く男に嫉妬する兄は多い。
年齢が離れているほど、それは顕著になる。
アベルとフィーリアとの年齢差は、恋愛に発展しても不思議のない微妙なものだ。
フィーリアが成長したこともあって、今の彼女なら女として見ることも可能だろう。
ケルトは段々頭が痛くなってきた。
アベルのハーレムにもっと人数をという嘆願は前からあった。
リアンを側室にアベルが望むなら、フィーリアを妃に迎えても、まだ足りないくらいだ。
だから、問題ないと言えばないのだが。
新婚生活を夢見ている娘たちが、可哀想だと思うのは父親だからだろうか。
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