第45話 「一人になるとダメだった」
「疲れたーーー!!」
夕食後、バタッと自室の真ん中に敷いた布団の上に倒れこむ。
「水遊びって楽しいけど疲れるよね」
陽葵もやや疲れた顔で一緒に布団にへたり込んでいた。
川辺で、思う存分遊んで体力の残量はもうすっからかんだ。
「今日はぐっすり寝れそう~」
お布団が良い感じに気持ちいい。
枕に気持ちよさそうに顔をうずめていたら陽葵が声をかけてきた。
「春斗くん膝枕してあげようか?」
布団の上で女の子を座りをしていた陽葵が、こっちおいでとぽんぽんと自分の膝の上を叩いていた。
「いいの?」
「どうぞー」
陽葵は寝る前はいつもショートパンツを履いている。
と、なると陽葵の生足の上に頭を乗せる形になる。
気恥ずかしいのもあって、ためらい気味に陽葵の膝の上にポンっと俺の頭をのっけてみる。
「きゃーー! 一回やってみたかったんだー!!
陽葵が嬉しそうに俺の頭を撫で撫でする。
……。
……楽しそうな陽葵には大変申し訳ないんだけど、正直あんまり気持ちよくない。
頭の場所の収まりが悪くて、非常に寝づらかった。
陽葵に頭を撫でられるのと、生足の感触は気持ちがいいんだけど。
「どう、春斗くん気持ちいい?」
「……気持ちいいよ」
「むー、あんまり気持ちよくなさそう」
「なぜ分かった!!」
「春斗くんはすぐ顔に出るんだから!」
とりあえず、一旦膝枕はやめようとして頭をあげようとするが陽葵に顔を押さえつけれれて起き上がれなかった。
「私が気持ちがいいからこのままがいい」
「ひ、陽葵がやりたかったんじゃん」
「えへへへ」
陽葵がまるで子供をあやすように優しく俺の髪を撫でていた。
そういう母性を感じさせるような仕草が本当にサマになる子だと思う。
きっと、将来いいお母さんになるんだろうなぁとかついつい考えてしまった。
「なんか、学校行きたくないなぁ」
「うちに戻ったらすぐ学校だもんな」
「春斗くんいないし、つまんないもん学校」
「友達はいるだろ」
「そうなんだけどさぁ」
つんっとつまんなそうに陽葵は唇を尖らせてしまった。
「……俺さ、スマホずっと電源切ってたじゃん」
「ホント! 全然つながらなんだもん!」
「ごめんって! 履歴見るとさ、陽葵からもいっぱい連絡きてたんだけど、昔なじみの友達からも結構連絡来ててさ、やっぱり嬉しくてさ」
「……女の人?」
「違うつっーの! そういう話じゃない!!」
ぎろりと陽葵が上からにらみつける攻撃をしてきた。
俺の髪を撫でていた手には力がこもっていた。
「じゃーどんな話?」
「友達っていいなって話! 俺、省吾くんと雅文さんとも友達になれるかな?」
「えー! もうとっくにみんな友達じゃないの!?」
「だといいんだけどさー」
一人だと、もやもやしてしまっていい考えにならないことが多かった。
からかってくれる省吾くんみたいな人がいればもっと気がラクになったかもしれない。
後ろでフォローしてくれる雅文さんみたいな人がいてくれればもっと仕事を頑張れたかもしれない。
ぐいぐい引っ張ってくれる佳乃さんみたいな人がいれば、もっと前向きになれたかもしれない。
一人になるとダメだったのだ。
特に俺は一人になるとすぐへこたれてしまう!
「だから陽葵も友達大切にしてほしいなぁなんて思ってさ」
陽葵は、高校を卒業したらこれからもっともっと色んな人付き合いができてくると思う。
それを大切にして、陽葵には俺みたいな失敗をしないでほしかった。
「……春斗くんがそう言うなら学校も友達も頑張る」
「けど、陽葵に男友達はなんかやだ!」
「えーーどっち!?」
「男友達はやだ!!」
「……もー、しょうがないなぁ」
陽葵が俺を膝枕したまま上半身をかがませて、俺の唇にちゅっと優しくキスをしてきた。
「これで分かった?」
「……全然わかんない」
「もー……」
陽葵が膝枕をやめて、俺にそっと身を寄せてきた。
俺はもう一人じゃないから、きっとこれからはもっとうまくやれるような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます