第26話 「レッツ! 流しそうめん!」
「そんなに怒らないでくださいよー」
「てめぇが俺の代わりに、雅文の言う事を聞くんだったら許してやる」
朝食を終え、何度目から分からない謝罪を省吾くんと雅文さんにする。
これからは、省吾くん×雅文さんのカップリングネタはできる限り禁止にしよう……。
冗談で流してくれればいいのに!
あんまりガチで怒られるとますます怪しい……とは口が裂けても言えない!
「じゃ雅文さん、俺が省吾くんの代わりに言う事聞きます……」
「……じゃ、何させるか考えとく」
やむを得ないので、雅文さんにそう声をかける。
不本意すぎる結末だが、自分が調子に乗ってしまった結果でもあるので受け入れよう……。
勝手に賭けの材料にされ、その賭けにされた本人が罰ゲームを受ける。
……なんか色々おかしくない?
「マサフミはハルトになにさせるんだ?」
その一部始終を聞いていた、佳乃さんが突如参戦する。
「……何か面白いことさせようかなと」
「ふーん、面白そうだから私も一緒に考えようか?」
待て待て待て待て!
この流れは絶対ロクなことにならない予感がする!!
「……じゃお願いします」
「おーう!!」
案の定、雅文さんは佳乃さんの申し出を快諾する。
絶対そう言うと思った!
この人たちは、基本的に佳乃お姉さまの提案に反論することはできないのだ!
「本当にお手柔らかにお願いしますね……」
祈りを込めて二人にそうお願いすることしかできなかった。
※※※
「暑いなー、また川でも行くかー」
俺と
朝食から少し時間が経っていたが、今日は珍しく一階の和室で全員集合の状態になっていた。
「……あねご、今日は仕事いいんですか?」
「昨日、大体片づけたから大丈夫」
「……カワハ、コノマエイッタカラ、チガウコトガヤリタイナー」
省吾くんが、棒読みでそんなことを言っていた。
相当、川に行くのが嫌らしい。
「ほら、春斗と陽葵ちゃんも今勉強してるし、あんまり連れまわすの可哀想では?」
「あー、確かになぁ」
省吾くんが俺たちをだしにして、川での遊泳を回避する。
そんなに、嫌がらなくてもいいのに……。
今度は水着でちゃんと泳ぎたいなぁ。
「じゃあ、今日は何する?」
「何もやらないって選択肢はないんですね……」
「どうせ、ショーゴもマサフミも暇だろ」
佳乃さんが二人に残酷な現実を突きつける。
それを言われてしまうと、省吾くんも雅文さんも何も言えないようだった。
「ハルトとヒマリが勉強してるから、ここでできるやつにするかー」
「例えば?」
「流しそうめんでもやるかー。レッツ! 流しそうめん!」
「……それはいいですけど、あの装置は誰が組み立てるんで?」
「ショーゴとマサフミだろ」
「はぁ……」
がっくりと省吾くんが肩を落とした。
※※※
「おぉおおおお、何かかっこいい!!」
正午をまわる時間になり、シェアハウスの庭には竹でできた立派な流しそうめんスライダーが出来ていた。
「こういうの、昔から好きだよね春斗くん」
陽葵が茹でたそうめんを持って、スタート位置にスタンバイする。
「このセットってどこかで買ったんですか?」
「なわけねーだろ、去年俺と雅文が作った」
「……それはすごいですね」
竹の通路は、目測で10メートル以上はありそうなほど長かった。
「去年は、一日どころか二日くらいずっとこれを作ってた気がするわ、捨てないで倉庫に残しておいて良かった」
きっと、去年も佳乃さんの思い付きでこれを作ったんだろうなぁ。
ご苦労お察し申し上げます。
「じゃあ、流しますよ――!」
「おーーー!」
陽葵が号令をかけると、佳乃さんが楽しそうにそれに答える。
竹の通路には佳乃さん、雅文さん、省吾くんの順でそれぞれが箸とつゆを持ってスタンバイをする。
……俺? 俺は陽葵と一緒に水を流す係です。
ペットボトルに入れた水をジャーと竹の通路に流していく。
それと一緒に陽葵がそうめんを投入していく。
シャーーっと白い麺が流れていく。
ひょい、ズルズルズル。
ひょい、ズルズルズル。
佳乃さんが器用にそうめんを箸でキャッチして美味しそうにズルズルと食べている。
——先頭のお姉さまが器用に取るものだから、省吾くんと雅文さんに流れていくのは数本の麺だけだった。
「……あねご、あねご」
「んっ?」
「片っ端から取っていくと、俺たちまで流れてこないんですけど」
「あぁ、ごめんごめん。つい楽しくなっちゃってな」
佳乃さんがこちらに手を上げる。
「おーーーい! ヒマリ、ハルト! 麺どんどん流してっていいぞーー!」
「はーーい!」
陽葵が元気よく、佳乃さんに返事をする。
陽葵も勢いよく、どんどんそうめんを流していく。
「なぁ陽葵、これってそんなに勢いよく流して大丈夫なの?」
「ちょ、ちょっと私も心配になってきた……」
な、なんかあんまり勢いよく流していくものだから竹の通路がミシミシいってるような……。
「ヒマリ―!もっともっとー!」
「はーーい!」
「もっとーー!」
「は、はーーい!」
「もっともっとーーー!」
佳乃さんに煽られて、陽葵があわあわしながらそうめんを投入していく。
陽葵がひと際大きな麺のかたまりを竹の通路に投入する。
白い麺は勢いよくシャーーと流れてい………かなかった。
竹の通路の接合部分がボキっと重さに負けて折れてしまっていた。
※※※
「流しそうめんやりたかったなぁ……」
俺がそうぼやくと、佳乃さんがあっはっはと豪快に笑っていた。
「ごめんごめん! ショーゴとマサフミが作った竹の通路がそんなにもろいと思わなくてさ!」
「ぜってー言うと思った!! 今日のはあねごが悪いですからね!!」
省吾くんが額に青筋を立てて、佳乃さんに反論する。
せっかく時間をかけてこの通路を組み立てたのに、省吾くんと雅文さんが少し可哀想だった。
……ただ、今日の一番の被害者は陽葵だった。
そうめんの流し役という大役をまっとうできなかったので責任を感じてしまっている。
「ご、ごめんなさい! 私がいっぱい入れすぎちゃったので」
「……陽葵ちゃんは悪くないよ」
雅文さんが陽葵のフォローにまわっている。
まぁ、こういうのも夏の思い出になると思ってポジティブに考えることにしよう……。
「ダメだぞー、ショーゴもマサフミもやっつけ仕事はー」
「去年はこの竹でうまくいってたでしょうが!!」
佳乃さんと省吾くんがなんやかんやと言い争いをしていた。
あっ!
仕事という言葉で、あることを思い出す。
「省吾くん! 省吾くん!」
「ん? なんだよ春斗」
「ちょっと聞いてみたいことがありまして!」
「なんだよ聞いてみたいことって」
「省吾くんって仕事とか今まで何やってた人なのかなぁって。何か参考になればと思いまして!」
「……」
俺がそう言うと、省吾くんの顔が急に曇った気がした。
あれ? 思ったのと反応が違う。
「お前と違って、俺は○○やってるんだぞーって!」って、言われるのを覚悟していたのに。
「……お前には関係ないだろ」
省吾くんはそう言って、シェアハウスの室内に戻っていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます