第3話 「先にお風呂入っちゃったら?」
夕食後、
「えへへ、一緒に寝るの久しぶりだね」
「そうだなー、子供のときは毎日一緒に寝てたもんな」
陽葵がうきうきで布団を運ぶ。
「布団別に一枚でもいいのに」
「やだよ、くっついて寝るの暑いし」
「えー! 昔みたいで楽しいじゃん!」
お泊りするのが楽しいのか浮かれた様子を見せる陽葵。
部屋の真ん中にどかっと布団を敷いていく。
6畳ほどある部屋なのだが、さすがに二人分の布団を置くと手狭に感じてしまう。
「あとは私が準備しとくから、春斗君先にお風呂入っちゃったら?」
「えー、もうちょっとゆっくりしてから入るよ」
ご飯を食べたあとでお腹がパンパンだった。
まだ半端に敷いてある布団の上にどかっと横になる。
「ん~、布団きもちいいぃい幸せ」
「もー、春斗くん邪魔でちゃんと布団敷けないし」
「いいよ、いいよ。先に陽葵が風呂入っちゃえって」
「私、恥ずかしいから一番最後でいいよ……」
「……すんません、気が利きませんでした」
そう言えば、陽葵ももう女子高生だったんだ。
そういうところ気にするあたり普通の女の子なんだなぁと思った。
そういうところは俺も少し気にしてあげないといけないのかもしれない。
「布団敷くから早くそこどいてよ」
キリっと言い渡される。
……ふ、普通の女の子?
まるで今の言い方はうちのオカン……。
オカン時々普通の女子の天気具合で今日の陽葵ちゃんはお送りします。
※※※
「はー、さっぱりした」
陽葵の機嫌が悪くなる前に素直にお風呂に入ってきた。
思ったよりもずっと新しいお風呂になっていて浴槽も広々としていた。
外観は古いが、中身の整備はすごく行き届いていてすごく綺麗だ。
「あ、おかえりー。お風呂どうだった?」
「おー、めっちゃ綺麗で思ったよりも広かった」
布団を敷いてパジャマ姿になっていた陽葵が布団の上で寝っ転がって本を読んでいた。
……布団は2セット、部屋のど真ん中に川の字で敷いてあった。
「もう誰もいないからお風呂入ってきたら?」
「んー、そうしよっかな」
よいしょっとタオルを持ってお風呂に行こうとする。
「あっ、春斗くんちゃんと歯磨いた?」
「……磨きました」
「先に寝ちゃってたら怒るからね」
「なんでや!」
思わず、関西弁になってツッコむ。
陽葵は笑いながらお風呂に向かっていった。
「はぁ……疲れた」
何か今日一日色々あったような気がする。
そもそも移動だけで、相当な時間だったものだから疲れるのも当然だ。
布団で横になってるとうとうとと眠気がやってくる。
まずい……このまま寝ると陽葵がご機嫌がナナメになってしまう。
それは何とか避けないと。
……一年ぶりだったかな陽葵に会うの。
昔は、すごく泣き虫でいつも俺の後ろを追いかけてきたっけ。
ちょっと見ない間に変わったなぁ。女の子らしくなったというか可愛くなったというか。
性格はあんまり変わってなかったけど……。
「ただいまー!」
「……」
「どしたの春斗くん?」
「早くない?」
時間にして10分少し過ぎたくらいだったろうか。
女の子の入浴にしてはやたら早い気がする。
「あははー、春斗くんが待ってると思ったら何かもったいなくてすぐ上がってきちゃった」
「なんだそりゃ、意味が分からん」
「いいからいいから、髪乾かしてよ」
洗面所からドライヤーを持ってきたらしく、それを俺に渡す。
「なんで俺が……」
「昔よくやってくれてたじゃん!」
「それは子供のときに一緒にお風呂入ってたからだろ」
「いいからー! おねがいー!」
「しょうがないなぁ……」
ブォォオオオオ!
ドライヤーのスイッチを入れ陽葵の髪を櫛で乾かしていく。
「あははは! 何か懐かしいなぁ」
「なんか今日のお前変だぞ」
「そう?」
「テンション高いというか何ていうか」
「――だって春斗くん私のこと一年間かまってくれなかったじゃん」
「……そりゃ仕事がなぁ」
「知ってるよ、だから仕方ないじゃん」
何が仕方ないのかよく分からなかったが、髪を櫛でとかしてると陽葵が気持ちよさそうな顔をしていたのであまり気にしないことにした。
※※※
電気をパチッと消して布団に入った。
冷房が効いていて、室内の温度は丁度いい。
「ホント懐かしいね春斗くん、昔は一緒の布団だったけどさ」
陽葵も布団に入って、俺に声をかけてきた。
「私、あのとき楽しかったなぁ。春斗くんについていって野球やったり秘密基地作ったりしてさ」
「……お前ホントどこでもついてきてたもんな」
「あのときはお兄ちゃんがいるみたいで嬉しかったんだもん。――でもいつからかさ」
陽葵が何かを言いかける。
「いつからか?」
「……わっわわっ、ごめん何でもないよっ! 眠くなっちゃって変なこと言ったかも」
暗いけど、目に見えて焦りだす様子が分かる。
今日のこいつは本当に変だ。
「はぁ、俺はもう寝るぞー」
「えー」
「眠くなったんじゃないのかよ」
「一年ぶりだよ? もっとお話ししようよ」
「これからいつでもできるだろ」
「あっそうか! えへへへ」
陽葵が嬉しそうに笑う。
「ねー春斗くん、昔みたいにそっち行っちゃダメ?」
「ダメ。暑いし、俺たちもう大人だし」
「ちぇーケチー」
さすがにもう瞼が重くなってきた……。
目を開けていられない。
「――私ね、本当に春斗くんのこと心配だったんだよ。だからこうしてまた会えて嬉しくて……っ」
何だか急に陽葵が声を詰まらせてるように感じた。
「ぐすっ……本当に元気そうで良かった」
陽葵がぼそぼそと何かをしゃっべっていたが、俺はそのまま眠りについてしまった。
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