三十六話

 異世界人の男との会話を思い出してダニエルは、ライゴウとハヤテを睨みつける。


(そうだ。考えてみれば当たり前のことだ。ロボットに乗っている奴はともかく、俺達みたいな何の力もない奴らを元の世界の情報を話すだけで手厚く保護? そんなうまい話があるわけねぇだろうが……!)


 そこまで考えてダニエルはこちらを見ているトウマに視線を向ける。


(俺はライゴウとハヤテがトウマを動かすための『餌』……その一つにすぎないってことかよ、ふざけやがって! トウマの野郎……ロボットに乗れるようになってから調子に乗って……!)


「え……? ダニエル?」


「オイオイ、今まで何処に行ってたんだ? 友成も双葉ちゃんも心配していたぜ?」


「っち! 何処でもいいでしょうが」


 トウマが自分を睨んでくるダニエルに戸惑い、アレックスが声をかけるとダニエルは一つ舌打ちをしてこの場から離れようとする。


「ん? 今度は何処に行くんだ?」


「屋敷に戻るんですよ」


 ダニエルはアレックスに短く答えると、振り向くことなくライゴウの屋敷に向かう。ダニエルの中には今、はらわたが煮えくりそうな怒りがあったが、彼はそれを必死に抑えていた。


(落ち着けよ、俺。正直な話、トウマもライゴウ達もブチ殺してやりたいくらいムカつくが耐えろ。今は元の世界に帰る方法を探すのが先だ。あの異世界人の話だと、ライゴウの屋敷に元の世界に帰る方法があるはずだ。まずはそれを探す……!)


 あの会話の後、異世界人の男は結局最後までダニエルに名乗らなければ素顔を見せることもなかった。しかし百機鵺光という理不尽な出来事、そしてトウマやライゴウ達に対する怒りに心を支配されているダニエルは、異世界人の男の言うことが正しいと信じて疑わないようになっていた。


「ダニエル君、一体どうしたのでしょうか? トウマ君は分かりますか?」


「いえ、僕にもさっぱり……」


 ダニエルと異世界人の男の会話は本人達しか知らないが、それでもダニエルの様子がいつもと違うのは明白だった。だからハヤテはトウマに何かあったのか聞いて他の者達も怪訝な表情をするのだが、その中でライゴウは猛烈に嫌な予感を感じていた。


(あのダニエルの顔……アニメの『裏切りイベント』の時の顔じゃないか?)


 ロボットアニメでのトウマ達は、新型の機体であるドラグーンを地球軍の本部に送り届けるためにワール達や宇宙軍を相手に戦いながら逃避行をしていた。ダニエルは逃避行によるストレスと、今までずっと見下してきたトウマが皆の中心となっていく光景にやがて耐えられなくなり、仲間を裏切って宇宙軍にドラグーンの情報を流すという展開がアニメにあった。その時の顔が先程のダニエルの顔と同じだったのだ。


(今のダニエルが俺達を裏切ってどうするかは分からないけど……それでも警戒はしておいた方がいいかもな)


 勿論ダニエルが裏切るかもという考えは、ライゴウが前世で見たロボットアニメの情報による憶測でしかない。しかし今までそのロボットアニメの情報と同じような展開が起こっているため、ライゴウはこちらに背を向けて歩いていくダニエルを見て警戒心を持つのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る