第44話 出前はSF
火曜日の午後6時。
今日は遅くなるから夕飯は食べて帰ると先ほど
また、
「竜一君、今夜は2人しかいないから出前でもいいかな?」
「え、ええ。良いですけど……出前ですか? 宅配ピザとかじゃなくて?」
竜一が(今時出前なんて……)と思っていたらニュースのCMに出前サービスのCMが流れ始めた。
「……何か出前のCMみたいだね。何で出前のCM流すのか謎なんだけど」
「出前」と聞くと竜一にとっては「町の中華屋のオヤジやせがれが「おかもち」片手に届けてくれる」という光景を想像させるのだが、
なぜわざわざCMを打ってでもその出前の宣伝をしたいのかが分からない。
「ああ! これこれ! これで注文したのよ。時間がたったからもうすぐ着くと思うんだけど……」
それに咲夜が反応する。どうやらこのサービスを使ったそうだ。
「これは出前を代行してくれるサービスなのよ。普通の個人店から契約を取って出前サービスを代行する代わりに店から売り上げの一部をもらってるそうよ」
「へぇー出前サービスねぇ。でも出前なんて店の人間がやればいいのに何でわざわざここに頼むんだ?」
「ちょっと手数料は取られるけど出前用に人を増やさなくてもいいから店側としては有難いそうよ。私の親戚に飲食店をやってる人がいるけど結構売り上げが増えて便利みたい。あとコロナが流行して気軽に店に寄れなくなって、出かけるよりも出前をして自宅で食べる習慣がついたのよ」
「へぇ、そういう事か。みんなマスク付けてるしコロナは何もかも変えちまったなぁ。マスクしないで生活できるのはいつになる事やら……」
竜一がコロナに対して文句を垂れていた時に……。
ピンポーン
「こんばんわー。出前屋でーす」
その出前が届いた。咲夜が玄関を開けて注文した品を受け取る。
「はーい」
「では税込み880円のラーメンが2つで1760円になりますね」
「はい。おつりはいらないわ」
「はい。1760円ちょうどになりますね。ありがとうございました、またご利用ください」
出前をしてくれた兄ちゃんは営業スマイルをしながらカネを受け取り、去っていった。
「さ、冷めないうちに食べちゃいましょうか」
咲夜に言われるがまま、竜一が自分の分であるラーメンの容器を持ってリビングに行こうとしたその時……!
ガッ!
リビングと玄関をつなぐ段差につまずいて転び、容器を落としてしまう!
「うわっ!」
「!! 竜一君! 大丈夫!?」
先にテーブルにいた咲夜は容器を置いて竜一の様子を心配そうに見る。
「だ、大丈夫です。かすり傷にもなりませんよ。それよりラーメンは!?」
自分の身体よりラーメンが心配なのか……咲夜は少しだけ呆れながらも辺りをキョロキョロと視線を動かす。
すぐに容器は見つかった。丁度逆さまになるように落下していたが、スープは漏れていない。
「!? な、何だ!? 逆さになってもスープがこぼれないぞ!?」
「今の出前用容器にはひっくり返しても簡単に汁がこぼれないような造りになってて、ラーメンとかもこぼさずに済む、って聞いてたけど本当にこぼれないわね!」
「ス、スゲェ! 使い捨ての容器がここまで進歩してるとは思わなかったぜ!」
竜一の考える「使い捨て容器」としては考えられない画期的な事だ。彼は恐る恐る容器をもって上下を元に戻すが、その最中でも1滴たりともスープはこぼれなかった。
気を取り直してふたを開けてみるとスープからは湯気がふわりと立った。湯気が立つほど熱い! というわけだ。
「な、なんだ!? 出前なのに熱々だぞ! どうなってるんだ!?」
「確かそのあたりも改良されてて冷めにくい容器になってるって聞いてたけどこれも本当らしいわねぇ。良くできてるわね」
「へースゲェなー。30年で使い捨て容器がここまで進歩するとは思わなかったなー! こういう地味な進歩はSFじゃ描けないからいいなー! 科学の進歩ってスゲェんだな!」
意外なところで科学の進歩を味わった竜一はしばらく感動してから出前で頼んだラーメンに口を付けた。
【次回予告】
メイドインジャパンな世界食、カップ麺。30年も経つとカップラーメン業界には新規参入できなくなってしまうのでは?
と思っていたが実際はそうでもないらしい。
第45話 「カップ麺はSF」
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