第25話 3DはSF

 竜一りゅういち竜也たつやの部屋で一緒に遊んでた時、部屋の隅に携帯ゲーム機が置かれてあった。

 ホコリをほんのりとかぶっており、普段からあまり触れてはいなさそうに見える。それを見た竜一が部屋の主に声をかける。


「なぁ竜也。このゲーム機はもう使ってねえのか? 触っていい?」

「あーそうだね。もうそれは旧式になっちゃったからソフトは結構持ってるけど最近は使ってないなー。良いよ触っても」


 持ち主である竜也の許可をもらい、竜一はゲーム機を起動させた。




「へぇ、30年後の携帯ゲーム機はこんな小型なのにフルカラーなのか。俺が生きてた頃とはえらい違いだな。まぁスマホがあんなんだからゲーム機もそうなるとは思ってたけどな」


 竜一の時代は携帯ゲーム機を始めとして、ポケベルなど携帯できる電子機器は白黒表示が当たり前の世界。フルカラーなどというのは一部の「時代を先取りしすぎた」例外を除いてほぼ無かった。


「あ、そうそう。そのゲーム機には3D表示機能があるけど見てみる?」

「!? 何ぃ!? 3D表示機能だと!? で、出来るのか!?」


 竜一はゴールデンウィークの時に見た新宿猫を思い出しながら竜也にそう問う。


「出来るよ。あまり近すぎるとうまく表示できないから離してみる必要があるけどね。やってみなよ」

「お、おう……!? うおおおお!!」


 竜一の目に飛び込んできたのはゲーム選択時の画面が「立体感をもって飛び出して」見える光景。

 実際にはただの平面なディスプレイなはずなのに現実の風景と同様に奥行きのある立体感が感じられた。

 思わず飛び出して見える画面をつかもうとするものの届かない。という3Dに慣れない人がやりそうなことを竜一もやっていた。


「こ、これも3Dなのか!?」

「そうだよ。新宿猫の3D技術とは違うけどね」

「ス、スゲェ! こんな携帯ゲーム機で3D表示ができるなんて思ってもみなかったよ! いやー技術の進歩ってスゲェんだな! SFの世界でもなかなか無いぞこんなのは! もっとでっかい端末なら3D描写だといっても納得いくけどこんな小さな携帯ゲーム機で3D表示が出来るのか!? とんでもない大革新だぞこれは!」

「昔は誰もかれも3Dって言ってた時代もあったそうだけど結局定着はしなかったそうだよ。俺が物心つく前の話だからあくまで伝聞だけどね」


 一昔前「これからは3Dの時代だ!」と言われて3Dが時代の寵児ちょうじともてはやされる時期があった。

 TVに映画館、それに竜一が持っているゲーム機もその時代の熱い流れに突き動かされて産まれたものだ。

 今となってはただの一過性いっかせいの流行に過ぎず、定着することはなかったのだが。




 そんな事情は気にせずに竜一はゲーム機にダウンロードされているゲームソフトを起動する。開発メーカーや開発機材のロゴが何個か表示された後、タイトル画面が映る。だが、ボタンを押しても反応しない。


「? 何だ? ボタンを押しても反応しないぞ? 壊れてるのか?」


 竜一はボタンの故障を疑うが、その直後下の画面に何か英単語が表示されていることに気づいた。


「何だ?「Tap To Start」だって? なぁ竜也、この「Tap To Start」って何だ?」

「あーそこからかー。下の画面がタッチパネルになってるからそこを触ればゲームが始まるよ」

「へぇ! タッチパネルかー! スマホに搭載されているのと同じ奴なんだな!」


 竜一は言われるがまま画面を触ると、ゲームが始まった。


「へぇタッチパネルか! スマホと一緒だな!」

「銀行のATMもずっと昔からタッチパネルが使われているし、タッチパネル自体はそんなに珍しいものじゃないんだけどね。

 まぁ伯父おじさんの言う通り携帯ゲーム機でも使える位に小型化して、子供が乱暴に扱ってもすぐ壊れないように頑丈にするのに時間はかかったけどね」

「へぇ! スゲェな! 近未来SFでコンピュータ端末を操作するのと同じ事が出来るのか! 進んでるなぁ!」


 竜一はタッチパネルと3D描写の融合という、SFの世界でも中々無い組み合わせに大興奮だ。

 しかもこのゲーム機はまだまだ竜一を驚かせる機能を搭載しており、さらに竜一を驚愕きょうがくさせる事になる。




【次回予告】

 携帯ゲーム機なのに3D機能を備えている事に大興奮の竜一。

 その上でそれにはさらに彼をあっ! と言わせる機能がまだ他に備えられていた。


 第26話 「AR(拡張現実)はSF」

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