第23話 サブスクはSF

 夕方になって仕事が終わった竜二りゅうじは、仕事でも使っているパソコンで映画を見ていた。

 もちろんリモート会議に使うソフトは終了し、その上でログアウトしている事は十分確認したうえでだ。プライベートの姿を見られないようにチェックは欠かさない。


「ただいま。竜二、何してんだ?」


 そこへ学校が終わって友人と一緒にハンバーガーショップでポテトをつまみながらおしゃべりした後、家に帰ってきた兄の竜一りゅういちが顔を出した。

 彼が弟のパソコンの画面をのぞいてみると、何かの洋画と思われるシーンが映っていた。竜二は映画の再生を止めて竜一と話をしだす。




「仕事が終わったんで映画を見ていたところさ。最新作ってわけじゃあないんだがな」

「へー、レンタルビデオって奴か? 今はビデオテープじゃなくて「DVD」とか「ブルーレイ」とかいう奴で見れるようになっているらしいとは聞いてるけど。

 メディアが違ってもビデオっていう言葉は残るもんなんだなー」

「違うよ、これはMamazonママゾンプライムだよ」

「? 何だそれ?」


 聞きなれない言葉に竜一は疑問に思う。何だそれ? 弟はとまどう兄のために軽く説明を加えた。


「Mamazonプライムって言って、会員になれば月500円でWEB上で映画、アニメ、ドラマ、マンガや本が見放題で、音楽も聴き放題なんだよ」

「!? ええ!? たった500円で音楽聞き放題!? それにアニメ、ドラマ、映画にマンガや本も見放題!? どういうことだよ! そんなんで経営成り立つのか!?」


 弟からの衝撃発言で兄は大いに驚く。

 前に寄ったネットカフェでもネットはもちろん、マンガや雑誌が見放題でソフトクリームも食べ放題だったが、今回はそれをさらに上回る凄さだ。


「Mamazonは世界最大規模のサイトだからできるわけだよ。

 難しい言葉で言えば「規模の経済」っていうものがあるんだよ。

 会社の規模が大きくなればなるほど製品の単価を下げられて、そのおかげで安価で質のいい商品を提供できるようになるわけなんだ。その一例がMamazonプライムなんだ。

 極端な話、1人当たりの単価が月500円でも「10億人」から集められれば『月商だと「5000億」の稼ぎで、年商だと「6兆円」の儲け』になるから商売としては十分成り立つわけなんだよ」


 竜二は「極端な話」だと断ったうえで理論上での会社の収益についてそう説明した。


「じゅ、10億!? 10億人相手に商売ができて年商が「兆」の単位まで行く時代なのか!? ス、スゲェ! パソコン通信、いや今はインターネットだったか? そいつは本当に世界を変えたんだなー。ドラゴンキューブのパワーインフレも真っ青の世界だなー」

「まぁ30年前には想像もできなかった世界だってのは確かだろうなぁ。俺にはその辺よくわからないんだが」


 文字通り「けた外れ」で「天文学的数値」の人数相手の商売や、それからの儲けを叩き出せる現代のインターネット技術に竜一はある種の感動すら呼び起こしていた。




「それにこのサブスク……正式には「サブスクリプション」って言うんだが今じゃマンガ雑誌の出版社もやってるし、別にMamazonが特別ってわけでもないんだがな」

「へーそうなんだ! って事はマンガもその「サブスク」と言ったか? それに加入すれば見放題なのか! いやー30年前では考えられねえ凄さだよ。

 10億人だぜ? 日本人の10倍の人数相手に『兆』単位の売り上げを出すなんて今でも信じられねえよ。スゲェ事になってるなー令和は!

 生き返って正解だった! 素晴らしい世の中だ!」

「相変わらず兄貴は楽観的だなぁ。まぁそこが兄貴らしいって言えば兄貴らしいんだが」


『科学の力』という物に対し純粋に良いものだと思っている竜一の事を、竜二からしたら兄であるはずなのにどことなく好意的な「少年の心が残っている」子供だと感じていた。

 自分が何十年も前に捨てたものを持っている。それを少しだけうらやましいとは思っていたが、決して口にはしなかったという。




【次回予告】

 竜一が生きていたころには2020年代にもなればスペースコロニーが出来て誰もが当たり前に宇宙で暮らしている時代になる。

 未来予想図ではそう描かれていたが今のところはそれは現実にはなっていない事に竜一は不満を抱いていた。

 それでも宇宙産業は発展しつつあり、まだ時間はかかるがこれから花開くという頃だと彼は感じていた。


 第24話 「宇宙産業はSF」

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