第13話 WEB小説投稿サイトはSF

「2023年の現実世界には既にバーチャル歌手がいて彼女のライブまで行われていた」


 さらには


「2025年に軌道エレベーターが着工し、2050年には完成する」


 という竜一りゅういちはSFの世界でもそうそう見かけない超展開の嵐に大興奮しまくった日から数日。学校のクラスメートとも馴染んできた頃だ。




「なぁ竜一、聞いたぜ? お前SFが好きなんだって?」


 竜也たつやの知り合いである他クラスの生徒が昼休みの時間に竜也に会うついでに訪ねてきたのだ。


「ああ。そうだけど」

「だったら『ヨムカク』とか詳しいか? あそこにはSFが結構あるって聞いたからな」

「?? 何だそれ? 新しい雑誌か何かか?」

「ああそうか、わからなかったのか。いや悪かった聞いて。SF小説読んでると思ってたけど違うのか」

(? 小説? 今時動画もYouTubeならタダで見れるっていうのに)


 竜也の知り合いの思わせぶりなセリフが竜一の頭の片隅に残ることになった。

 午後の授業が始まるまでまだ時間はある。竜一は竜也に聞いてみることにした。


「なぁ竜也、小説がまだあるって聞いたけど本当なのか? 今時動画もタダで見放題なんだろ? だったら小説なんて完全に廃れてるんじゃないのか?」

「いや、小説も案外馬鹿にできないよ。今でもラノベ、ライトノベルって言って小説が本屋で普通に売ってるし。

 それに今はWEB小説って言って、パソコンやスマホがあれば誰でも小説書けたり見せられるようになってるから、結構盛り上がっていると思うよ」

「WEB小説……? なんだそれ?」

「出版をせずにネット上にアップロードされている小説の事だよ。それらを投稿するサイトがいくつかあって「小説家になれるよ」とか「ベータ・ポリス」とかいろいろあるよ。

 そういえば竜一はSF好きだったよね? だったら「ヨムカク」とかだとSFが結構あるよ」

「ふーん。で、いくら?」


 おそらくはSF雑誌のようなものだと思ったのだろう、価格を聞いてくる。その答えはあまりにも衝撃的だった。




「お金はいらない、タダで読めるよ。

 まぁプロからアマチュアまでぐちゃぐちゃに混ざってるから質はピンキリあって選別する能力が要るし、エタるって言って、作者が途中で更新しなくなったりもするけどね」

「な、なにぃ!? ってことは、ってことは! SF小説がタダで読み放題って事なのか!?」

「ま、まぁそう言う事になるね」

「ス、スゲェ! SF小説がタダで読み放題なんて価格破壊もいいとこだぜ!? でも何で無料なの!? まさかボランティアじゃないよね?」

「広告を出すことでそこから広告料が出ているからそれで無料で利用できるんだよ。

 テレビやYouTubeみたいに宣伝したいスポンサーから資金を受け取って、そこから番組制作費や維持費を得ている代わりにCMを流すのと一緒だよ。

 あとは賞を企画して公募したり、人気作を書いている作家に直接連絡を取って書籍化したり、漫画化コミカライズして売ってそれで収益を得ているんだ」

「へーそうなんだ! もう人気作になれば何かの賞に応募しなくてもプロデビューできるのか! 時代は変わったな。

 俺の頃は雑誌に賞の募集が告知されててそこに応募して受賞しないとプロ作家になれなかったもんなー」


 今でこそWEB小説から書籍化という流れが当たり前になったが、竜一が生きていた30年前では小説家になるには賞に応募して受賞する以外には道がほぼなかった。

 竜一の時代ではまだまだ小説家というのは「狭き門」で格式の高いものであったが、娯楽の面でもここまで革新的な動きがあったのか!

 竜一は驚きを隠せない。

 早速スマホを取り出し検索をかける。出てきた「ヨムカク」のSFジャンルを選んだところ……。



 キーンコーンカーンコーン……。



 まもなく午後の授業が始まるのを告げる予鈴よれいが鳴った。ほかの生徒も残念そうにスマホをしまい、教科書やノートを取り出す。




「あっちゃーもう休憩終わりかー」

「大丈夫だって。サイトは逃げないから学校終わってからでも見れるから」

「そりゃそうなんだけど……」


 エサを前に飼い主から「おあずけ」を食らう犬の気持ちはこういうものか。竜一はハァッ、とため息をついて授業の準備をする。


「言っとくけど授業中にスマホ見るのは止めた方がいいよ。バレたら1発で取り上げだから」

「分かってるよ。別のクラスで実際取り上げられた奴がいるんだろ? 知ってるって」

「ああ、知ってるんだね。じゃあマネしないようにね」


 念のため竜也は伯父の竜一にクギを刺しておいた。




【次回予告】

 季節は5月。ゴールデンウィークに入り竜一と竜也は新宿に出かけることになった。

 2人とも同じものではないが新宿で見たいものがあったので、せっかくの休日と言う事もあってやってきたのだ。


 第14話 「新宿猫はSF」

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