第10話 電子メールはSF

 竜一りゅういちが自分のスマホを手に入れた翌日。それに「妙な通知」が表示されていた。

「メールが届いています」と書かれたそれをタップすると文章がずらずらと書かれている謎の画面が表示されている。

 考えても分からないので竜一は弟の竜二りゅうじに聞くことにした。


「なぁ竜二、この「メール」っていったい何なんだ?」

「あーそこからか……そういえば兄貴が死んだ1993年にはメールなんて一般的じゃなかったからなー。わかった教えるよ」


 メールが分からない。と言う竜一のために、彼の弟で中年太りした竜二は説明を始めた。




「メールってのは正確には「電子メール」って言って、デジタルデータで出来た手紙をメールアドレスっていうデジタルの住所、って言えばいいのかな。そこに送れるシステムなんだよ。

 現実世界で紙でできた手紙を書いて指定された住所に送る、っていうのと原理的には一緒だよ。ただ扱うのが物理的な紙ではなくて電子的なデータってだけだよ。

 兄貴の言う携帯電話、俺たちで言うガラケーが普及した頃に一般的になったから兄貴は分からなくても無理ないか……」


 ガラケーことフィーチャーフォンが全盛期だったのは2000年代初頭から2010年頃。電子メールもガラケーの普及とともに一般化していったのだが、

 竜一は1993年に1度死んだのでそれがわからないのも当然だろう。


「へー! スターウォーズでデス・スターの設計図を伝送したって言ってたけど、それが現実にもできるようになったのか! スゲェな!

 しかもこんな小さな端末で出来るんだろ!? いやーバックトゥザフューチャー2よりも未来なだけあるなー」


 竜一にとっては文字をデータにして伝送できるというのが非常に新しかったらしく、素直に感動していた。

 竜二からしたら、メール程度でそこまで感動するものなのかなぁ? と疑問に思っていたのだが。


「俺より下の世代ではガラケーブームでメールが当たり前になると、昔はゲームよりもメールの方が楽しいっていう時代もあったそうだ。

 そのころ俺は就職してて仕事に追われていたから、テレビや後輩から流行はやってるっていう話を聞いただけで、実際に体験はしてなかったけどな」

「へー、メールのやり取りがゲームよりも面白いのかー。あー、それ分かるかもしれない。

 彼女持ちや彼氏持ちが相手の家の電話にかけなくても直接電話をかけたりメールを送れたりするんだろ? そりゃ盛り上がるわな」

「そうそう。相手の家族に知られずにこっそり通話やメールしたいときにとても便利だったらしいよ。って何だ、兄貴も知ってるじゃないか。

 本当に30年前から来たのか? メールに関してはずいぶんと事情に詳しいじゃないか」


 メールに関しては妙に詳しい竜一を見て弟は意外に思う。メールが一般的になる前に死んだはずなのに、やけに事情に詳しいじゃないか。




「昔のクラスメートから聞いた話だよ。相手の親に気づかれずに電話をするのがすごく難しかったって言ってたよ」

「なるほど、そういう事か。兄貴ってば結構交友はあったんだな。SFばっかり、ってわけじゃなかったんだな」

「まぁSFが一番大事だけど交友関係も割と広めに持つよう努力はしたさ。孤立するのが一番危ないからな。

 昔はSFさえあればいいって思って実践したら、小学生の頃に孤立してえらい目に遭ったからな。中学以降はそうしないようにしているよ」


 竜一は中学時代は意識して交友関係を幅広く持つことにしており、やたらとモテていたクラスメートとも仲が良く、恋人がいるからこその悩みをよく聞いていた。

 当時の竜一はSF沼に浸かりつつも中学以降は交友関係を保つことにも意識していた。当時の中学高校にはSFファンの女子がいなかったため、彼女を作る機会はなかったのだが……。




「ああそうだ。メールアドレスを送信する際には慎重になれよ。

 怪しいサイトに登録する際にメールアドレスを使うと訳の分かんないメールが四六時中届くようになるから気を付けろよ」

「へぇそうなんだ。要は登録しなきゃいいんだろ? 大丈夫だって」

「だと良いけど」


 自分もとあるサイトに偽装した偽サイトで危うくフィッシング詐欺にかかる1歩手前まで行ってしまった苦い経験があるので、同じことはしないように兄に忠告した。

 多分兄も自分と同じ血を引いている以上、やらかすだろうとは思ってはいたが。




【次回予告】

 動画サイトに入り浸るようになり、順調に令和の高校生になりつつある竜一。彼は「電子の歌姫」と呼ばれる少女と出会う。


 第11話 「音声合成ソフトはSF」

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