リースト伯爵家を敵に回してはいけない

リースト伯爵家を敵に回してはいけない


 と、そんな学園でのオデットのことを知って、今のリースト伯爵家の当主ヨシュアは頭が痛くなる思いだった。

 彼もまたオデットと同じ、青銀の髪に銀色の花咲くアースアイの持ち主の青年だ。

 リースト伯爵家の一族はだいたい似たような麗しの美貌を持つ。

 なお、ヨシュアはオデットの兄の子孫にあたる。


「オデット。君はその苛烈な性格を恨まれて奴隷商に売り飛ばされたことを忘れたのか?」


 もちろん美貌を狙われたのもあるが、百年前、オデットが奴隷商に誘拐されるきっかけというものがあった。


 彼女が、同級生の侯爵令嬢の婚約者の男子生徒に惚れられたが、袖にした。

 そのことによる、侯爵令嬢とその婚約者、結託した二人からの逆恨みによって奴隷商への手引きが行われたものと判明している。




 今回のオデットの所業は当然、学園側からも、攻撃を受けた生徒たちの家からも猛烈な抗議を受けたとヨシュアが言う。


「あら、じゃあ謝罪の手紙でも書いたの?」

「まさか。我らに楯突くような愚か者に生きる価値はない。逆に恫喝し返したが?」

「それでこそ我が血族!」


 オデットは盛大な拍手でヨシュアを讃えた。


 リースト伯爵家は即座に調査員を各所に派遣し、事件を徹底的に調べ上げた。

 その上で、すべてに対して抗議を仕返した。

 オデットに嫌がらせをしていた者たちへはもちろん、そんな姿を見て笑っていた生徒の家々に対しても、むしろリースト伯爵家側からの報復と制裁すら仄めかして。


 我らの愛娘オデットを虐げ嘲笑した分際で謝罪にも来ないとは何事だ、と。


 抗議文の末尾には、当主のヨシュアに加えて叔父のルシウスの名も添えた。

 リースト伯爵家の一族で最も貴族社会で影響力が強く、魔法剣士としての実力でも恐れられている人物だ。彼の怒りを買って潰された貴族家は数知れず。

 今頃はどの家の父兄たちも恐怖のどん底で震えていることだろう。


 リースト伯爵家の者に手を出すとはそういうことなのだ。




 しかしながら、オデットの行動に呆れたヨシュアからは、新たな魔法樹脂の使い方を伝授されることになった。

 秘伝として、魔法樹脂は音声記録ができるのだが、この時代には新たに映像を記録して、特殊な魔導具と組み合わせると音声と映像が同時再生できる術を開発していた。


「すごいわね。魔法も進化しているのね」


 オデットのいた百年前より進んでいる物事は他にも多そうだ。

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