オデットの復讐

オデットの復讐


 そして、頃合いを見て報復をした。

 復学して一ヶ月弱が経過し、既に2月に入っている。

 この国の教育機関は春の4月始まり、3月締め。1年生が終わるまであと2ヶ月もない。


 放課後、学園から下校しようと、オデットが馬車留めスペースに向かう途中の中庭、噴水近くを通ったとき。

 噴水の泉の部分に、手に持った園芸用のスコップを入れた女生徒が、勢いよく水を跳ね上げた。

 オデットのクラスメイトの女子生徒で、彼女と同じ家格、伯爵家の令嬢だった。1年D組の中では最も家の爵位の高い令嬢のひとりだ。


 跳ね上がった水はオデットを直撃する。

 女生徒は自分の魔力をスコップに乗せたのだろう。小さなスコップで跳ね上げただけとは思えないほど大量の水が飛んだ。

 オデットは制服も、青銀の長い髪も、すっかりびしょ濡れになった。


「あらあ、ごめんなさーい?」


 水を飛ばした女生徒も、その友人らしき女生徒たちも。

 中庭にいた他の生徒たちも皆くすくすとオデットの有様に笑っている。

 季節はまだ2月の冬。これほど大量の水を浴びたままでは、凍えて身体を壊してしまう。

 ましてやオデットのような儚げな少女では明日は登校して来れないのではないか。


「………………」


 オデットは水に濡れた髪をかきあげた。

 すると銀の花咲く、湖面の水色の瞳が露わになり、光る。




「人を貶めようとする者は、己がやり返される覚悟があって当然だと思うの」


 少なくともオデットはそう判断する。

 オデットは片手を上げて、自分の周囲に、魔力で無数の光り輝くダイヤモンドのレイピアを作り出した。

 その数、合計87本。


 オデットの家、リースト伯爵家は魔法の大家で、主に魔法樹脂と魔法剣の家である。

 代々、血筋に受け継ぐ莫大な魔力を一本一本、ダイヤモンドの魔法剣にして受け継いできている。

 その家に生まれたオデットも当然、魔法剣士である。


 まず、水をかけてきた女生徒にレイピアの剣先を向け、放った。

 レイピアは女生徒の制服の端を引っ掛け、そのまま後ろの噴水の、水の吹き出し口本体の支柱へと女生徒を縫い付けた。


「ヒィッ!?」


「共犯者たちも同罪」


 女生徒の取り巻きたちも同じように、噴水に別角度で縫い付けた。


「私を嘲笑った者も同罪」


「!?」


 中庭でオデットの醜態を嘲笑っていたすべての生徒にも、オデットはダイヤモンドのレイピアを数本ずつ向けて、それぞれあずまやの壁や屋根、あるいは校舎の壁などに縫い付けた。


 ただ見ていただけの生徒たちが逃げ惑うのは放っておいた。




「あら、どうしたの? あなたたち。なぜ私に感謝しないのかしら?」


 心底不思議そうにオデットが首を傾げる。

 生徒たちは皆、怒りや恐怖に困惑を混ぜた表情でオデットを見る。


「急所を外すどころか、誰も傷つけていないわ? 私、こおんな全身水浸しにされる辱めを受けたのに、誰の息の根も止めていない。ねえ、なぜ誰も感謝の言葉を言わないの?」


「「「「「…………………………」」」」」


 誰も言葉を発しない。

 いや、発することができなかった。

 そして悟る。


 自分たちが誰を虐げていたのか。

 この麗しの美少女は、決して侮辱してはならない類の人種であった、と。

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