だらしなくダメ人間の黒王子に舞い降りた妖精様〜王子をとことん甘やかして一生養います
@touma_2926
01 ダメ王子と妖精様の出会い
入学式の帰り、桜舞い散るこの日、真夏と呼んでも差し支えない程暑かった。
この日の気温は四十度あった事を今でも覚えている。
「・・・・・暑い」
そう呟いたのはボサボサの黒髪に無気力な黒い瞳の青年、星川冬華(ほしかわとうか)。
今日のこの日、高校一年生になったばかりだ。
一応記念すべき日だというのにこの天気はなんだ。
日傘を指してもなお暑く、死にそうな顔から汗が出る額と首をタオルで拭いて、気休め程度に自分の手で顔を仰ぐ。
そのせいか、益々暑く感じてきたので、早く家に帰ろうと急いだ瞬間、ふと横を見ると公園が目に入った。
冬華の住んでいるマンションの近くにある広い公園だ。いつもは昼近くは子供らが遊んでいるが、今日は誰一人として居なかった。
・・・・いや、よく目を凝らして見れば一人だけいた。
今にして思えば、これが彼女と初めて会話をした日だった。彼女が冬華の通う学校一の美少女、紅野(あかの)エリカだ。
「何してんだ?・・・・アイツ」
彼女は誰も居ない公園のブランコにじっと座り込んでいた。
何で今まで彼女の事を気にした事がなかったのかが不思議だった。
まぁ自分が周りに興味が無さすぎるのが原因だと思うが、それにしたって彼女の容姿を見れば忘れるはずもなかろうとは思うのだが、一度も会った記憶が無いので多分分からなかったんだろう。
しかし、初めて見たはずの彼女が何故分かったのかは、この間友人に聞いた話と一致したからなのだろう。
紅野エリカの髪は日本人特有の黒髪や、やや茶髪とかではなく、薔薇のように赤い長い髪だったのだ。
更に赤い髪と同じく目を引くのが、彼女の薄いサファイアのように綺麗な瞳だ。
だからこそ外国人という噂やご先祖さまの髪がああゆう色をしていたのではないかという噂もある。
まぁどうでもいい事だと思う。そもそも彼女の噂は友人やらクラスメイトやらがその辺りで話しているのを良く聞くのが大半だ。
容姿端麗で成績優秀、欠点らしい欠点が見るからに見えない完璧超人と思えるほどだ。
実際彼女は噂に違わぬ実力を持っている。中学から転校してきた彼女だが、それからの定期考査では毎回一位取っているし、体育の授業なんかでは部活のエース並みの活躍をしてるとか。
それに見るからに大人しそうで、謙虚で皆んなに平等に接しているとなれば、モテるのにも、ファンクラブがあるのにも頷ける。
しかも、普通の女の子よりも身長が小さいので、とても可愛らしいとの事で何か二つ名が付いたらしい。
その二つ名の名は、【妖精様】。由来は、名前にあるエリカという花から来ているそうだ。赤いエリカならクリスマスパレードを連想するが、ファンクラブの話によればクリパレの花言葉は【博愛】らしいが、それではエリカの二つ名には微妙らしく、何かないかとはぐる内に彼女の赤い髪にほんのりと混じった白い髪があるとの情報を得たそうだ。
それは本人も知っているらしく、若干真っ赤な髪には絵の具の白を混ぜた色をしているそうだ。目を凝らさなければ真っ赤な薔薇の色に見えるが、よく見れば白い髪もあるらしい。
それによりファンクラブの会長らしい人間が、白いエリカの花言葉を使おうという事になり、正式名称は【幸せな愛の妖精様】。
長いのでいつの間にか【妖精様】となって行ったそうだ。
これまでの話は全て冬華の友人から聞いた事だ。別に好き好んで聞いたわけではなく、勝手に話してきたので渋々耳を傾けて聞いていただけだ。
まぁ何にせよ冬華は彼女と全く親しく無いし、話した事すら無いにも等しく、この先も一生関わる事もないと思っていた。
まぁ勿論、冬華には彼女、紅野エリカという少女は美人に見えるし魅力的だ。
だが、立場として何の関わりもない同級生。
彼女からすれば冬華は、遠目から羨ましく見てくる生徒の一人、という認識だと思っているだろうし、冬華自身も彼女の事は何も知らない。
しかし、今日一つ分かったのは、彼女がこんな所で止まっているという事は割と家は近くなのだろう。
もしかすると、自分と同じマンションの住人だろうか?
そんな事を思いながらそのまま公園を素通りしようとした冬華だったが、何故か足が公園の方へと歩いていた。
なにせ、【妖精様】と言われている彼女はこの真夏とも呼べる日に何を思ったのか、日傘もタオルも持たずに何もする事なく無気力でブランコに座っている。
しかも汗だくで。
関わる事などないと思っていた冬華にとって、この真夏の暑さの中、何の対策も取らずにただ日に当てられているだけの彼女を見て、売れていない滑っている芸能人を見るような目で見てしまった。
人違いかと思い何度も離れた距離で彼女を凝視するが、間違いなくあの髪の色は聞いていた通り、紅野エリカだ。
しかし、人を待っているという訳ではないのだろうが、死人が出かねないこの暑さの中、気にするどころか何もする気が起きていないような顔をしている。
冬華は歩くスピードを早めた。ただでさえ広い公園なので、この暑い中歩くだけでも相当イライラする。冬華はイライラしながらエリカに近づいていく。
その距離は着々と縮まっていくが、エリカはまだ近づく冬華に気づいていない。
やっとエリカのいるブランコに辿り着き、目の前に立つもエリカは気づかない。
「・・・・おい、何やってんだ?」
自分の中で、特に他意はないと言い聞かせる。
そんな思いでいたせいか、かなり素っ気なく声をかけると、汗だくになった顔でこちらを見上げる。
近くで見ると、本当に綺麗な顔だなと思った。
これは学校中が美少女と言うわけだ。
たまにチラリとだけ見たと記憶している顔は綺麗で純粋なお姫様のような顔立ちをしていたが、今は汗で濡れているにもかかわらず、むしろその汗が、彼女の美貌を更に高めているようにも見える。
ぱっちりとした二重の薄いサファイア色の瞳がじっと見つめてくる。
だがその目には無気力に感じられた。
多分ではあるが、エリカは冬華を認知はしているだろうとは思う。
まぁでも今まで話した事もないが、お互いに顔くらいは知ってますよ程度の認知なのだろうと考えていると、冬華の真っ黒い瞳は彼女の警戒した顔を捉えた。
まぁ当然と言えば当然だ。今まで話した事もない人間がいきなり声をかけてきたのだ。
そりゃ何事かと警戒もするはずだ。
「・・・・・・星川さんですか・・・・・・何か御用ですか?」
苗字は覚えられていたんだなという謎の安堵があったが、それは一瞬にして消えた。
かなり間があった事を察するに、二つの事が挙げられる。
一つは、顔と名前が一致するのに時間が掛かった。まぁこれは当たりだろう。
それはまぁそうだろう。今まで話した事がなかったのだから。
そして二つ目は、警戒を強めたということ。
人間誰だって、見ず知らずに近い人間に声をかけられればガードを硬くするものだ。
更に彼女は学年問わず毎日のように、男子生徒やら他校の男子生徒やらに告白、アプローチを受けている。
そのせいで、異性が苦手なのかもしれない。
なんせ大抵の男どもは、下心が丸出しすぎる。
それ故に、冬華にもそういう類の人間だと思われても不思議ではない。
「・・・・別段特に用はない。こんな真夏の天気に一人で何もせずぼぉーっとしてたらそりゃ気になるし、何してるんだろうなと思ってな?」
「・・・・そうだったんですか。気遣いどうもありがとうございます。・・・・ですが、貴方には関係ないことです。私は此処に居たいからいるので、気にしないでください」
警戒心剥き出しの猫の如くで、ものすごく尖った声ではあったが、それでも柔らかさを残した少し淡白な声だった。
(・・・まぁ、そういう反応になるよな)
何か訳ありなのは明白なのに関わってくんなという拒絶の現れに、元々深追いする気がなかった気持ちがまた一気に強まった。
初めから気まぐれ感覚で話しかけたようなものだ。ただ単に、事情を聞こうとしただけであって、そこまで気になる事でもない。
むしろ彼女的には此処に居たいのに何で気にしてきたんだ、この人は?と言った気持ちがあるはずだろう。
儚く尊い美貌を持った顔が此方を窺ってくるので、冬華は「分かった」とだけ素っ気なく返す。
此処で更にがつがつ行けば、確実に鬱陶しく思われ蹴りを入れられる恐れもある。
まあ彼女がそんな事をするとは先ず思わないが、それはあくまでも可能性の話であるため、冬華はそうなる前に撤退する決断をした。
まぁ別に、彼女に良い人間と思われたいわけでもないし、そもそも関わりがないのでそう思われる事もないだろう。
だが、このまま一生帰らないかもしれないという不安も残る。
なにせこの天気だ。夜になるまでは絶対に気温が下がる事はないだろう。
それによりも、エリカが此処にいるのに何もせずに熱中症で倒れられでもしたら、それこそ夢見が悪く、居心地が悪い。
「おい、コレ・・・日傘、さして帰れ。それと、まだ使ってないタオル。汗拭くのと、もう一つは冷たいタオルだ。コレで顔冷やせ。・・・で、さっきそこの自販機で買った水だ。水分もきっちり取っとけよ。傘とタオルは返さなくて良いからな」
だから、半分自己満足的な感じで、お節介を置いていく事にした。
水とタオルを彼女の膝に置き、冷えたタオルは首に巻いてあげ、日傘をエリカの前に突き出す。それを見たエリカは何を思ったのか、掴もうと手を伸ばすが途中で手を下げようとした。
冬華は手を完全に下げられる前に、エリカの手を取って日傘を掴ませる。
彼女に受け取らせたというよりは、むしろ押し付けた冬華はエリカが何か反応しきる前に背中を向け早足でその場を離れる。
背後でエリカの声がしたような気がしたが、あまりにも小さい声すぎて聞こえなかった。
しかもそんな事は気にせず、冬華はさっさとの公園をでて自分の住むマンションへと急ぐ。
帰り際に一瞬だけ公園を見たが、エリカがブランコから立っているように見えた気がした。
まあぶっ倒れないと良いな程度に押し付けた日傘とタオルと水を渡した事に後悔はないが、何であんな事をしたのか今一つ冬華は分かっていなかった。
しかし、会話を拒んでくる相手に初めて会ったし、更に殆ど無視に近かったように思う。
でももう冬華は関わるのはこれっきりだと思っていた。
なんせ、学校一の美女と会話する事なんて先ずないのだから。
マンションにやっと着いた冬華はエレベーターの中でそう思っていた。そう、この時は。
まさか自分がこれからあの小さな【妖精様】と、毎日関わっていく事になるなんて思いもしないまま。
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