第2話 はじめに


 印税


 なんとも魅力的な言葉です。あなたがサラリーマンなら、毎年の年末調整の書類を書かなければならない時に、総務の人に

「印税収入があるんだけど、どうしたらいいかな。確定申告でやるのかな…」なんて相談してみてごらんなさい。

 翌日にはあなたの周りはあなたの印税収入が幾らぐらいなのか…、の話でもちきりになるはずです。

『小説書いてるの? 』

「うん、ペンネームだけどね」

『どんな本? 売れてるの? 』

「まあ、ぼちぼちだよ」

『すごいなあ…』

なんて話が始まるかもしれません。

 印税(いんぜい)とは、著作物を複製して販売等する者(出版社、レコード会社、放送局など)が、発行部数や販売部数に応じて著作権者に支払う著作権使用料のことをいう通称です。

 もとは著作権使用料と引き換えた著者検印紙を書籍に貼り付けて販売したもので、その態様から印紙税になぞらえて印税と呼ばれるようになりました。名前に税の文字が入っていますが税金の種類の名前ではありません。

 印税を得ているということは、本を書いて売ったり、ライターとして収入を得ていたり、作詞作曲などをしてこれがプロに歌われて報酬を貰ったりと、少しインテリジェンスとアーティスティックな香りのする収入です。

 あなたが職場で「印税収入がある…」と言ったとたんに、そのお金目当てにたかろうと、よからぬ考えで近づいてくる人が出るかもしれませんからご用心を。


 自分の原稿を本にして出版することは、多くの人の憧れでしょう。かつての私もそうでした。


作家先生。


なんとも甘美な響きです。人に職業を聞かれて

「作家です」

あるいは

「物書きをしています」

と答えることは、晴れがましく、快感をもたらしてくれます。

 街中の書店に行けば、多くの本が売られており、雑誌や写真集などを除いたほとんどが作家と呼ばれる人が書いた著作です。

 かつて私は書店に行くたびに、

『こんなにも多くの作家が存在しているのに、どうして私の原稿は出版社に採り上げてもらえないんだろう。同じ人間のはずなのに、私の原稿とどれほど大きな違いがあるのだろう。この本棚の一か所に私の名前が並んで何か悪いことがあるのだろうか』

そう考えていました。

 しかし、現実には本の出版は簡単ではありません。商業出版を行う出版社や書店は、当たり前ですが慈善事業を行っているわけではありません。彼らは売れる本を欲しており、たとえば初版印刷数が2,000部だったとして、書店から多くの返品があればその本は【売れない本】として見切りをつけ、あっさりと絶版にします。

 在庫があるうちは、取り寄せに対して販売しますが、ひとたび絶版になれば、その本が再版されることはまずありません。

 絶版になる理由は様々あると思いますが、ここで大事なのは、出版社はひとたび【売れない本】(あるいは売れない作家)という烙印を押せば、その作品にはもう商業的価値をつけません。

 しかし、絶版本はまだいいかもしれません。一度は出版社から出されたのですから。表紙タイトルの後ろに配したように、多くは原稿をあちこちの出版社に企画提案しても、どの出版社も相手にしてくれないことが現実でしょう。

 『(原稿があるので)本を出版したいが…』という現実に苦しんでいるケースは、以下に分類されます。


1. 原稿はある。しかし出版社が採り上げてくれない。

2. 自費出版は費用が掛かりすぎる。

3. 出版社から絶版となった。

4. 祖父や父といった亡くなった人の本を再出版したいが、方法がわからない。

5. 電子出版は知っているが、(質量のある)紙の本で出版したい。

6. 原稿をwordやEPUBの形式にできない。

7. 校正や編集、表紙の作成などの作業に自信がない。

8. 忙しくて、自分でやる時間がない。

9. 公序良俗上、内容がよろしくない。あるいはR-15やR-18に抵触するかもしれない。


 一方で現代は出版業界もインターネットを使った電子化が進んでいます。アマゾンのkindleをはじめとする電子書籍はその最たるものです。あまり知られていませんが、アマゾンからは電子書籍だけでなく、紙の本も出版されています。POD(プリント・オン・ディマンド)と呼ばれます。装丁も立派で、書店の本と比較しても見劣りしません。

 実は上記のうち、9を除けば、1から8までの問題は個人で解決できる世の中になっています。この本では、著者自身の経験を踏まえ、紙の本あるいは電子書籍を出版したいと思っている方々に、最低限の費用で著作を世の中に出す方法を書きました。

 もちろん、8の『忙しくて、自分でやる時間がない』についても、解決策を提案します。


 この本では小説の書き方や、ビジネス書を書くのにテーマは何を選ぶべきか、あるいは三段論法であるとか何々法であるなどという、いわゆる『書くための方法、ノウハウ』は触れていません。

 この本で書いたことは、原稿がある人と、亡くなった親族が出版をしていたといった、本にする材料があることを前提にしています。書く方法を求める方は、別のノウハウ本をご覧ください。


 私は過去に自分で取得した特許と実用新案の経験をもとに、『あなたのアイデアで特許をとろう! ひとりでできる特許・実用新案取得のススメ』(産業能率大学出版部刊)を世に出しました。

 拙著では、一般には難しい特許出願から取得まで、専門家に依頼せず、費用をかけずに自分でやってしまう方法を書きました。おかげさまで好評をいただいています。この本で書いた考え方とノウハウの多くが『(お金をかけずに)自分で本を出版する』事に共通しています。

 つまり、探せば拾う神は見つかるということです。私はかつて法律職にあったこともあり、出版にかかわる著作権や著作隣接権といった事柄、作家と出版社との間で交わされる契約書の項目についての専門家でした。

 上記の4と5については、出版に当たっての法律的確認が必要になってきます。それらすべての具体的な方法を紹介したいと思っています。

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