81日目 寿司食いたい
A星への入植活動は、なかなかに支払いが良かった。一年間働けば、四年分の学費を稼ぐことが出来そうだった。
もちろん環境が悪いことは分かっていたし、仕事の内容も楽ではない。蟹漁のようなもので、過酷な内容で一気に稼ぐという類いの内容だ。しかし、こういう機会でもなければ、宇宙に出ることもないだろうし、若いときにしか出来ない内容だ。
しかも、一定期間働けば、希望者は地球への帰還も可能ということもあって、出稼ぎにでるのも悪くないと思えた。
だが、案内役が親切だったのはA星に着くまでのことで、それまではお客様扱いだったのが、A星に着いた途端に奴隷のような扱いとなった。
着いた途端に荷物は調べられ、貴重品は全て没収された。抵抗する人の中には、従うまで殴られた人もいる。思わず警察に通報しようとしたが、A星では当然電話は繋がらなかった。
A星への入植は民間の企業が行っているのだが、地球から離れた場所で治外法権となっていた。
一応、ボイコットされないようにご飯や休憩はしっかり取るようにされていた。それに、インターネットはなかったがビデオのレンタルは充実していて、各自の部屋にDVDプレーヤーはセットされていた。
問題はそういった日々の楽しみに、しっかりとお金がかかることだった。給料の支払いは良いが、生活に必要ではないものについては、A星に持ってくるまでの負担がかかっているということで高額なお金が必要だった。
給料の支払いは、A星の中だけで通じるカードに行われる。地球とA星の間に距離があるために、最終的にそのカードを地球に持って帰って提出することで、支払いが行われるという仕組みにしているらしい。
各場所での支払いはそこから引き落とす事が出来たのだが、給料で結構な金額が入るのだが、遊び回るとそれがまた凄い勢いで減ってしまうのであった。
僕に取って一番やっかいなのは、自分の中の寿司を食べたい気持ちを抑えることだった。
帰還の為には当然宇宙船に乗らないと行けないが、そこに乗るのは有料なのである。DVDにさえ高額なお金がかかるくらいである。帰還の為には、半年働いた給料分くらいのお金が必要になるのだった。
僕は早く帰るために、当初の出稼ぎと言うことを忘れて、お金を貯めた。DVDは一月に一回借りて、皆で回し見るようにすることでなんとか節約をすることができた。他の楽しみも、僕は意外と抑えることが出来た。
しかし、寿司を食べたい欲求が自分の中に強くあるということは、宇宙に来て初めて自覚したので抑えることができなかった。
A星には食用の魚などはまだ生まれておらず、海藻類から増やしている最中だった。当然、食料品は高級品となる。あと少しで帰れる、というタイミングでも、寿司を食べたくなると、高級品の売り場に走り、寿司をつい食べてしまうのだった。普段は節約できているのに、寿司だけはたえられないので、仲間内からは、「寿司狂い」と呼ばれるようになってしまった。
仲間達がお金を貯めて地球に帰って行くのを見送る度に、気持ちを新たにお金を貯める決意をするのだが、何度も寿司のせいでお金を減らしてしまった。
地球への帰還船などという物が存在しないことを知ったのは、働きはじめて二年ほど経ってからのことだった。
地球への帰還というのはとても効率が悪いということで、宇宙に旅立つ前に殺されてしまっていた、ということが内部告発でわかった。僕たちは暴動を起こして通信室を占拠し、地球に実態を報告した。
地球からの解決部隊がやってきて、事実が全て白日の下にさらされ、埋められていた大量の死体も見つけることが出来た。
全てが終わった後、僕は「寿司で命拾いした男」としてなぜか有名になった。僕はその後地球に帰還したのだが、A星では帰還の無事を祈るときには寿司を食べるのが伝統になったそうである。
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