第81話 男たちの華麗なる夜
スタジアムは歓声に包まれていた。速応大学対詣義大学の試合は伝統的に盛り上がることで有名だ。
「カナタさん…思ったよりヤバそうな感じです…」
俺の隣に座る楪は渋そうな顔で観戦していた。
「マジ?」
「はい。『くくく、あいつらが次の対戦相手か!』みたいなライバルごっこができないレベルでヤバいです」
俺と楪は皇都大学野球部のジャージを着ている。スポーツ漫画に出てくるライバルキャラごっこやるためだった。だけどそんなごっこ遊びをする余裕がなくなるレベルらしい。
「やばやばですか。具体的にはどうやばいの?」
「あの投手。今給黎選手。試合前のデータよりも明らかに成長しています…もともと速応大学は超強豪なので、わたしのシミュレーションでもギリギリの勝利だったのですが…勝率がぐっとなくなりました」
「それってどれくらい?」
「小数点以下に0が数えきれないほど並ぶ感じですね」
楪がにっこりと笑みを浮かべる。きっとこの笑みは破れかぶれな笑みだ。
「はぁ…なんであの今給黎選手こんなに強くなってるんでしょう…あれなら大リーグでも通用しますよ…いったい彼に何が?」
楪は首を傾げているが、俺はその理由を知っている。今給黎は五十嵐を手に入れるために必死なのだろう。それが彼の潜在的な力を跳ね上げた。そんなところだろう。恋ってすごい。でもそれで起きる騒動に巻き込まれて散々な目に会うのはいつも俺なのだ。勘弁してほしい。
「ねぇ楪。だとすると俺たちはどうやったら速応に勝てるの?」
「手はあります。ですがその時はカナタさん。すみませんけど葉桐をうまく黙らせてください」
「わかった。その時は任せろ」
メガネを怪し気に輝かせる楪に頼もしさを覚えた。この大監督様がなんとかできるっていうなら何とかなるのだろう。俺はそれを信じるだけだ。そして試合は今給黎の活躍により、速応がコールドゲームで見事に勝った。俺たちと今給黎の戦いの日は近い…。
日々の練習はみっちりと、でも羽目を外すときはきっちりと外す。いい仕事にはオンオフこそが大事なんだと俺は信じる。だから。
「えー今日は俺の急なお誘いに応じてくれてありがとうございます!ではかんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」
とある花金。俺はケーカイ先輩とツカサを読んで男子会を行うことにした。場所は新宿歌舞伎町。ケーカイ先輩お勧めのおでん屋で男らしくビールで乾杯である。なお俺のお願いで三人ともスーツである。
「カナタくん!この間の試合すごかったね!あの池教大学相手に満塁ホームラン!スカッとしたよ!あはは!」
「だな!このままいけばホームラン王は狙えるんじゃね?というかなってくれ!頼む!お前がホームラン王になるのに5万もかけたんだ!俺を勝たせてくれ!頼む!」
「まあ、まかせてくださいよ!くくく、絶対にホームラン王は俺のもんじゃい!」
ちょっと前にやった池教大学と試合で俺は再びホームランをぶっぱなしてやった。今給黎と俺は現在二打差で俺が負けているが、まだ十分逆転が狙える位置につけているのだ。てかケーカイ先輩俺に賭けてんだ。絶対に期待に答えなきゃ。
「しかしこのメンツは初めてだな。カナタはいつも女と一緒にいるから、逆に新鮮だな」
「確かにそういえば、サークル合宿の時もだれかしら女の子がそばにいましたね。あははモテモテでうらやましいなぁ」
「いやいや俺なんて。あんたたち二人に比べたらピュアですよピュア」
ケーカイ先輩はよくお持ち帰りしてるし、ツカサはツカサでちゃっかりあのサークル合宿で知り合った女の子の部屋に転がり込んで裸婦画を書かせてもらえる関係(意味深)になっているとか。それも相手は一人だけではないようで…。はっきり言ってこの二人異性関係でいえば、アレ過ぎる気がします。なんというか大学生でも上澄み中の上澄みヤリチンだと思う。
「カナタ君が硬すぎる気がするけどね。でもボクはカナタ君のこと羨ましいと思うよ。君の周りにいる女の子は一生をかけて一緒にいる価値のある子ばかりなんでしょう?…ボクもそういう人と出会いたいなぁ…」
「その気持ちは少しわかるな。たしかに俺もツカサも女には困ってないけど、…ふぅ。なんというかねぇ…真剣に恋してみたいって思う時もあるんだよなぁ」
ヤリチン二人がなんかしみじみと語ってるのちゃんちゃらおかしい。モテるんだから出会いだってあるだろうに。
「ケーカイ先輩はキリンさんとかいい女と縁あるじゃないですか」
最近は違うらしいけど、一時期はケーカイ先輩とキリンさんは肉体関係があったわけで、実質付き合ってたようなもんだと思うけど。
「そうだな。あいつはいい奴だ。だけど俺にはあいつを救えないよ。体は満たせても、心までは俺には無理だった」
なんかすごくガチな声音でケーカイ先輩は語る。
「だけどカナタなら大丈夫かもしれない。俺じゃできなかった。あいつに優しくしてやってくれ。そんでもってあいつのことを助けてやってくれよ」
マジなトーンでそんなこと言われても困る。まあキリンさんは楽しい人なので、何かに困ってるなら助けてあげたい。
「まあ俺でよければ、彼女の力にはなりますよ」
「そっか。ならよかったよ。よし!辛気臭い話はおしまいおしまい!楽しい話しようぜ!」
そこからはくだらなくてどうしようもなくてだけど楽しい楽しいバカ話ばかりだった。
「ボク、筆で乳首を撫でるの好きでさ。こうやるの!こう!」
そういってツカサは筆をバックから取り出して、ケーカイ先輩の乳首を筆で撫で始める。
「あ、あああ!やばい!今まで一番気持ちいいぃ!こんなのはじめてだし!ぎゃはは!」
「筆ぷれいやめろwwwww美術への冒涜wwww」
マジでバカなふざけあい。男の下ネタってマジでバカ!
「この間初めて3pしたんよ俺。最初は興奮したよ?女の子二人もいるし。でもさ。なんか気をつかっちゃっうんだよね。こう平等に?って感じ」
「むしろどうやって3pしてもいい相手を見つけるんですか?ぼくも頼んだんですけど、ことごとく断られるんですよねぇ…」
「それ頼み方たりないだけだぞ。とにかくコツは頼むことよ。運がよければヤれる」
「結局運頼みじゃないですかー!ぼくも3pしてみたいのに!」
「だけどいいもんじゃねよ。言ったろ気を使うって。だけど終わった後がいいんだよなぁ…両手に女を抱えているっていうのが、すごく雄の本能を満たしてくれるっていうか…」
「それうらやまですわ!ぼくも3pしたいっす!」
ヤリチン二人の3p論がバカだった。というか俺の周辺での3pの流行り方やばくない?気のせい?まあそんなこんなで男らしくバカ話にふけっていい感じに俺たちはテンションを上げてから、店を後にした。
「カナタ君次どこ行く?ダーツとかどう?ナンパしやすくていいよ?」
「ナンパするなら、あれがいいぜ!飲み食い系街コンでマッチしなかった女三人組!間違いなく二次会行ける!」
「いいっすね!」
「だろ!」
「「くはぁああ!滾るぅ!!」」
ツカサとケーカイ先輩のヤリチン系おバカ二人は肩を組んでナンパの段取りを話し合っている。こういうのも大学生の青春の一面なのかもしれない。だけど今回この二人を呼んだのはそれが目的ではないのだ。
「二人ともナンパは別の機会にしてくれ。今日は俺のプランに付き合ってくれません?」
「ん?なに?どっか行きたい店あんの?」
ケーカイ先輩とツカサは首を傾げている。
「今日は付き合ってくれた二人にちょっとおごりでおいしいお酒をごちそうしたいんですよ。ええ、最高に大人な夜を過ごしましょうや…くくく」
「ふーん。わかった。いいぞ」
「そうですね。カナタ君についてくならまあ楽しいからいいか!」
そして俺は歌舞伎町でもリッチなエリアのとある店の前についた。豪華な店構え、ボディガードみたいな黒服の男たち。
「おい。カナタここって高級クラブじゃないか?…葉桐関係か?」
真剣な声でケーカイ先輩が俺に耳打ちしてくる。俺はただ静かにうなずいた。ケーカイ先輩は頭の回転が速いのでそれだけで十分通じる。
「なるほどね。おーけーおーけー。お前の奢りの酒が実に楽しみだ!くくく」
「なんかよくわからないけど!カナタ君の助けになるならいいよ!どんとこい!」
「サンキュー二人とも。じゃあ行くか!」
俺たちは高級クラブの中に入る。豪華なシャンデリアのあるエントランスに通される。和服を着た中年くらいの美人さんが俺たちを出迎えてくれた。たぶん女将とかそういうやつなんだろう。
「あら。お客様はまだお若くてそのうえご新規様ですね?うちは…」
「一見さん禁止は知ってるよ。紹介が必要なのもね。ケーカイ先輩お願いします」
「はいよ。女将さん。ちょっといいかい?」
ケーカイ先輩はニヤリと笑い、女将さんの耳元で何かを囁いた。女将さんは驚いたような顔をしてから笑顔になって。
「どうぞお客様。本日はごゆるりと楽しんでいってくださいな。おほほ」
女将さんに連れられて、奥の方へと俺たちは向かう。
「さすがっすねケーカイ先輩。やっぱりここらへんのコネも持ってましたね」
「まあな。夜の町じゃお前以外の反社とヤクザ以外はだいたい俺の友達だよ。くくく」
「俺は反社じゃねーってば。でもサンキューっす」
ケーカイ先輩というリア充の王はあちらこちらにコネがある。ここもやっぱりコネがあった。なかったら札束でぶん殴るつもりだったからとても助かった。そして俺たちは個室に通される。そこは本物の高級ソファが置かれた豪奢で上品な空間だった。
「カナタ君…!?このメニュー表…値段がついてないよ?!」
「まあそこらへんは気にするな。ただの飲み放題だと思ってくれて好きなものを頼んでくれ」
ツカサがメニューを見て絶句してる。まあ俺だってぶっちゃけ少し緊張してる。金は問題ないけど、根は小市民なままなのでこの空間だけで酔いそうだ。
「とりあえずフルーツの盛り合わせたのんでいいか?あとシャンパン」
逆にケーカイ先輩はまったく緊張してる感じがしない。どうどうとこの空間に馴染んでいる。つーかビジュアルだけなら、俺よりこの人の方がずっと半ぐれとかヤクザもんみたいな空気感があるよね。
「シャンパンはだめっす。後でタワーやるんで。他のにしてください」
「じゃあ日本酒のいい奴にしようっと」
いつもお世話になってるし、いくらでも飲んでもらいたい。そしてボーイさんがやってきた。
「ご注文をお伺いいたします」
俺たちは各人が好きな酒を頼んだ。そしてこういう店で一番大事なサービスを入れる。
「こちらの二人の両脇に女の子一人ずつつけて。人選は任せます。俺には緑色の瞳の綺麗なあの子をつけてください」
「かしこまりました。ですが緑色の瞳の子。スオウはただいま接客中でして…他の子ならば…へぶぅ!」
「おりゃあ!!」
俺は懐から札束を出して、店員さんの頬をぺしっと叩く。店員さんは俺のことを驚きの目で俺のことを見ている。
「いますぐに俺のところへそのスオウちゃんを連れてくるんだ。緑色の瞳の綺麗な綺麗な大和撫子をね」
計100万円ほどの札束をボーイさんの胸ポケットに突っ込んでやった。ボーイさんはやる気に満ちためで頷いて部屋から急いで出て行った。
「リアル札束ビンタ初めて見たわ。マジで反社!カナタパネェぎゃははは!」
「札束ビンタしてでも会いたくなるような女の子?!すごく創作欲求が刺激される!早くその子のこと見てみたいな」
結局札束ビンタをやってしまった。だけどこれであの緑色の瞳の女と話ができる。あの女は未来では葉桐の側近をやっていた弁護士だ。現段階でも何か繋がりがあるはず。それを必ず暴いて見せる。そして…。
「ご指名アりがとウござイます。はじめましてスオウです。よろしくオ願イイたします」
少し変わったイントネーションで喋っていたが、そのお辞儀や所作はとても美しく惚れ惚れするようなカリスマ性があった。顔を上げるとても艶やかでなのに上品な笑みを浮かべている。そして緑色の瞳と目が合ったのだった。
***作者の独り言***
スオウさんは未来の世界で間男系幼馴染が出してきた弁護士さんです。ついでに言えば、葉桐の仕事上の側近でもありました。
どんな子かは今後語られるので、よろしくお願いします。
はやくシーズン4を描きたいようぅ。
綾城Xさんがちゃんとヒロインしているところが書きたい。
筆者的には綾城Xさんは読者様になんというかリスペクトされるようなかっこいい女の子になってほしいなって思って書いてるつもりです。
だからはやくシーズン4に入れるようにしますので、よろしくお願いしますね!
ではまた。
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