第79話 これは乙女の花園ですか?いいえ、童貞です!
今どきは珍しいキャンパス内の大学寮である田吉寮は伝統と栄光の歴史に彩られている。うちの大学が輩出した偉人たちの多くがここの寮生活を経験しているそうだ。だからここでの寮生活は楽しいものだとよく言われている。
「まあ散らかってるけどどうぞどうぞ!」
「お邪魔します…!」
エントランスの内装はどこかレトロさを感じるものだった。モダンとかそういう言葉が似合いそうな感じ。建築学科としてはそういうのがどうしても気になってしまう。
「なんだろう!レトロさがエモい!」
内装には歴史の匂いを感じた。俺にとってはとても楽しい。
「そう?ボクたち住人からすれば古臭いだけだけどね。でもカナタ君が楽しそうならよかったよ。うふふ」
ミランの後に続いて、廊下を歩いていくと、たまに女子学生とすれ違う。軽く会釈すると朗らかに手を振ってくれた。
「男子の俺が入っても注意されないね」
警戒されるかと思ってた。だけどそうではなくて拍子抜けである。
「そうだねー。まあほら。たまに彼氏を連れてくる子とかもいるしね。それにカナタ君はなんか有名人だからね」
「ふっ。ホームラン打ったしな!あはは!」
「………それならよかったんだけどね…」
なんかミランちゃんさんすごく微妙そうに苦笑いしてるんだけどなんで?
「何その顔…。おい…まさか…」
「…カナタ君は…その…ケーカイ先輩のお気に入りだし、この間は大手サークルの有力者相手に派手に立ち回ったし、葉桐とやりあってるし、普段は綾城さんや楪ちゃんみたいな美人さん連れ歩いてるし。なんかこう…皇都大学の女子学生の間じゃ『乱れてる方の生徒会長』って言われたり、『反社系風紀委員』とかって噂されてるんだよね。あはは」
「乱れてないし!反社でもない!!俺はまっとうな優等生だ!!」
「あはは!ボクでも庇えないよね!あはははは!」
気がついたらおかしなあだ名ばかりが増えていく。おかしい。本来なら未来知識でリア充として青春しているはずだったのに!なんでこんな扱い?爽やかで意識の高い大学生活を送りたいようぅ。
「はい!ここが食堂だよ!当番でご飯作ってるんだ!」
レトロな食堂には長い机が並んでいて、端っこにはソファーなんかもあった。憩いの場らしく、女子学生がちらほらとおしゃべりしてた。だけど一つ気になる風景があった。
「へぇそういうの楽しそうだな。ところであれは…」
食堂の端っこに畳が引いてあるスペースがあった。そこいる3人の女子たちが真剣なまなざしでちゃぶ台を囲んでいる。みんな美人さんだった。一人はバニーガール。さらにもう一人は胸元にサラシを巻いて下はふんどし。最後の一人に至ってはセーラー服にブルマ。なにこいつら?変態かな?
「カナタ君。君の目に見えているソレは無視して。お願いだから!お願いだから無視して!!」
「いやあんなんツッコミどころしかないわ。なにあれ?」
「うう!昨日夜遅くまで騒いでたから、まだ寝てると思ったのに!!…あの人たちはうちの寮の四天王です…」
「へ、へぇ…」
数学科の四天王、そして女子寮の四天王。そのうちまた別の四天王が出てきそうだな。絶対にろくな連中じゃない。てか四天王なのに三人?…っあ…。
「あれぇ?伊角じゃん!お前も入れよ!三人じゃ周りが早すぎるんだよ!牌がすぐにそろって面白くねぇんだよ!やっぱ3p麻雀はだめだ!4人でがっつりぶつかり合わないとな!キャハは!」
バニーガールの女がちゃぶ台から立ち上がってこっちにやってきた。そしてミランの肩に手を回して絡んでくる。
「い、いやぁボクは今日はその忙しくて…あはは…」
「あん?昨日あんなに荒稼ぎしていったくせに、勝ち逃げ?ありえないんですけどぉ!ねーみんな!」
バニーガールがそう言うとサラシの女とセーラーの女が「「そうだそうだ」」と囃し立ててくる。よくみりゃ、ちゃぶ台の上にはとある紙が雑に積んであった。
「カナタ君!ち、違うんだ!」
「違うって何が?」
割とマジで最近は女の人が違うって言ったら違わないんじゃないかな?って思うようになってきた。
「違うんだよ!ボクはその!そう!学食の券を掛けてたんだよ!」
「言い訳が苦しいぞ。どう見てもあれは福沢先生のブロマイドだよな?」
俺がそういうと、バニーガールがニヤニヤと笑って。
「そうそう!お前残念だったな!伊角はなお前が思っているような清純派な女じゃねぇんだよ!あたしらから福沢先生を略奪愛しちゃうような破廉恥な女なんだよ!キャハハ!」
「カナタ君!違うから!ボクは福沢先生と付き合ったり!エッチとかはしてないから!ただちょっとたまに集めるのが好きなだけだから!!」
「お、おう。そうか…あはは」
紙に書いてある福沢先生とどうやってエッチするんだろう?というかミランちゃんさんの意外過ぎる一面が見られてしまったなぁ。
「ううう!ボクの清純でありながら爽やかでかっこいいイメージがぁ!!」
「いや。お前はけっこうアレなキャラ性を発揮してるからな。身内は誰一人として清純だとは思ってないぞ。あはは!」
ミランは恥辱にプルプルと震えている。バニーガールを含めた変人女たちもけらけらと笑う。
「お!あんた伊角のことわかってんね!そうそう!こいつまじやべぇよ!ギャンブルで負けそうになると悔しそうにプルプル震えてんだけど、すげぇエロい笑顔も浮かべんだよ!まじで変態!キャハハ!」
「ち、ちくしょぅううう。ボクは…変態なんかじゃ…!」
ミランは真っ赤な顔で反論している。だけどそう。なんかすごくエロ可愛い笑みを浮かべている。だから俺は言ってやったのだ。
「このド淫乱福沢ガチ恋ビッチめ!!お前を清純だと思っているファンの皆さんに謝れ!」
「うわーん!ごめんなしゃい!福沢先生と金曜日してごめんなしゃい!…あへっ…」
そしてミランは俺にもたれかかりぴくぴくと体を震わせる。…何だろうこの茶番…。もっとこう…素敵な意外な一面が見たかった…。はは!うちの大学には碌な奴がいねぇ!
そして俺とミランは女子寮四天王たちといっしょに昼食を共にした。この人たちはバニー、サラシ、セーラーと寮内では呼ばれているらしい。
「ところでそちらの殿方様は伊角さんの情夫というやつですか?」
サラシさんが昨日のパーティーの美味しい残り物を上品に食べながら、俺にそう尋ねてきた。情夫って単語を日常会話で初めて聞いたかもしれん。
「まじぃ?みさきっち、うちらをおいて卒業しちゃったん?!本郷の銀杏のうんこくさい木の下で誓ったずっしょじょの誓いはどこに行ったんよ!」
セーラーの子はけらけらと笑いながら、なんかおかしなこと言いだしてる。でも確かに本郷キャンパスは臭いと思います。
「ボクそんなの約束した覚えないんだけど?!」
「薄情なやつだなぁ!我ら生まれたときは違えども!同時にヴァージンを卒業しようって誓ったじゃないか!キャハハ!おそろいのコンドームに『初体験♡』って書いて財布に入れたじゃないか!」
コンドームのパッケージに『初体験』とか書いて準備しておく人ってけっこういるらしいね。前の世界の俺はそういうことはしなかったけど。
「無理でしょ!?どうやって同時に卒業するの?!物理的に不可能じゃないか!てかなんでボクの財布の中にコンドームが入ってること知ってるんだよ!?」
「「「「え?」」」」
俺と四天王ズの声が重なってしまった。
「うん?…はっ?!」
ミランは両手で口を押えてしまったって顔してる。すぐにバニーさんがミランのポケットから財布を抜き出して中身を開けた。中には昨日のギャンブルで稼いだであろう諭吉さんハーレムとコンドームの袋が一つあった。サラシさんがコンドームのパッケージを取り出すと、そこには『初体験♡』って書いてあった。
「え?なに?まじで?え?中学生のガキかよ…うわぁ…」
バニーさんが戸惑っている。
「いつでも準備万端…うわぁ…」
セーラーさんも戸惑いを隠しきれてない。
「避妊は大切ですが慎みもまた大事ではないでしょうか?いつでもおーけーという態度は乙女としていかがなものかと…うわぁ…」
サラシさん、正論がきついです。
「…ち、違うし!これは!あくまでも万が一の事態に備えてるだけだから!ボクは別にいつでも発情してるわけじゃないよ!」
あるよねー高校生男子とかが、いつでも何があってもいいようにってコンドームを入れちゃうの。なお当然のことだが、そんな機会は絶対に来ないのである。入れ損ですわ。つまりミランの童貞
「ガチで言うけど、コンドームって財布の中に入れておくと劣化して破れやすくなるらしいぞ」
「カナタくん?!」
「それに一個じゃぜんぜん足りないぞ。もっと用意しないと。だから携帯するなら箱ごとか、その都度コンビニとかで買っていくのが一番いいと思うよ」
「やめてぇ!なんかガチなアドバイスがすごく痛いよ!ぐはっアバババ」
ミランちゃんさんに深刻なダメージが入っている。コンドームは適切な管理の下で使用しないといけない繊細なものであり、童貞女に扱えるような代物ではないのである。
「で、話戻るけど、お前って噂の反社系風紀委員さま?」
バニーさんが俺のことをにんまりとした笑顔で見ている。
「反社じゃねぇよ。でもまあその噂の男ですよ。はい」
反社といわれる人の気持ちを考えてほしい。俺はまっとうな小市民なのに。
「まじかー!で、なに?今日はあれなん?マジで伊角とヤる気なん?ここの寮はあれよ。廊下に声もれるからやめておいた方がいいぞ。キャハハ!」
「だよね!先輩たちが男連れ込んでるけど、メッチャ喘いでんの聞こえてくんの!ウケるわー!」
「いつも周りにカリカリしてる先輩が男には甘えた声を出していてメス臭くてとても面白いですわよ。うふふ」
女子同士って他人の性生活をすぐに喋るっていうけどまじなんだな。おかねぇ。つーか反応に困る。
「もう、三人とも!!カナタくん困ってるからやめてよ!」
ぷりぷりとミランが三人を叱る。だけど四天王ズはけらけら笑い続けていた。ミランの女子寮の日常はどうやら愉快なものらしい。一人暮らしの俺は、それを少しうらやましく思ったのだった。
***作者の独り言***
なんかおバカなお話を書いてしまった。
大学あるあるなんですけど、本名を知らない人となんか気がついたらご飯食ってたなんてことがありますよね。
あとなんか学内で変な格好をしている人に遭遇するとか。
それと寮生活という非日常な世界を覗き込むような楽しさを読者様が味わってくれたらうれしいです。
あるいは自宅通いの人が自宅から離れて暮らす生活に巻き込まれるみたいな感じを楽しんでほしいです。
次回はこの女子寮のお話をもう少しちょろっとやってから、中二病エッセンスで反社なエピソードを入れます。
その次の回は、夜の街で男たちが伊達に遊ぶ話(シーズン4の伏線込み)。
で、その次は野球に戻る予定です。
ではシーズンフィナーレに向かって突き進みましょう!
今後もよろしくお願いしますね!
あとシーズン4.Xもご期待ください。お願いします!
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