第48話 港区パーティーガールの最強合コン術!!

 港区流豪混ごうこん術。それは港区にいるリッチなパパたちを手玉に取る百戦錬磨のアマゾネスたちが生み出した最強の恋愛術の一つ!って綾城教授が言ってた気がする。俺はそもそも前の世界を含めても恋愛経験が乏しいし、社会人になってから合コンに何度か誘われても結果は振るわないものだったわけで、今回キリンさんが合コンのプランを練ってきてくれたことに感謝の気持ちしかない。しかし果たして料理教室とは合コンにどのような効果を及ぼすのだろうか?


「はーい。みなさーん!今日は朝食にもお弁当にもちょうどいいクロックマダムを作りますよー!」


 このお料理教室の講師はテレビとかに出てる有名な女性料理研究家だった。レシピを参加者たちに配って説明を始める。俺たち以外のお客さんは皆タワマンに住んでそうなリッチそうな奥様方。俺たちぶっちゃけ浮いてるような気がする。だけど。


「おいしそうですねー」「だねーカフェとかで食べたことある!」「あれ作れるんだ。楽しそう!」


 女子たちが意外と乗り気だった。逆に参天浪たちはクロックマダムという名前に首をひねってぽかんとしている。そんな時にキリンさんが俺に耳打ちしてくる。


「お料理教室に戸惑ってるでしょ?」


「ええ、まあ。ぶっちゃけ効果がよくわからないんですよね」


「まあ私を信じてよ。男女を仲良くさせるならね、お喋りさせるよりも、一緒に手を動かした方がずっといいんだよ。男子たちに指示してあげて。男子たちに料理の工程を指揮させるのよ。で、女子たちに仕事を割り振ってあげて。それがコツ」


「そうなんですか?わかりました」


 俺はちょっとぽかんとしてる参天浪どもに指示を出す。


「ほら。せっかくの頭の良さを使ういいチャンスだぞ。料理の工程は科学実験とかと一緒だ。うまく女子たちをリードしてやれ。いいな」


「「「サー!イエス、サー!」」」


 軍隊的なノリが微妙に抜けてない参天浪達はレシピと道具類を確認して、三人で相談して、テキパキと料理の工程計画を練り上げて、女子たちにそれを伝えて仕事を割り降った。そして彼らは一緒にお料理を始める。


「いいねぇ!あの三人賢いからすごくスムーズ!そう!これが第一の奥義の極意!」


「極意?!」


「そう!『男子の頼りがいアピールタイム創造』!!女子はね、やっぱり男子にリードされたいものなの。だからこうやって何かのイベントで男子たちがテキパキと準備して、女子はそれをお手伝いする。女子たちはね。そのテキパキとした指示出しや成功する計画立案力に魅力を覚えるの!これが女の子の求める頼りがいの正体なの!!」


 綾城教授!見てますか!?キリンさんまじすげぇよ!恋愛理論に実践の裏付けがあるぞ!!実際料理をしている参天浪と女子ーズたちは和気あいあいと楽しそうに打ち解けているし、女子たちの視線に男子へのリスペクトのようなものが見える気がする。すごい!どんどん仲良くなっていってる?!ぱねぇ!そうこうしているうちに料理は終わり、後は焼くだけになった。その頃にはもう彼らは普通にお喋りするような仲になっていた。男子たちからはアガっていた緊張感はもう感じられないし、女子たちの笑顔は見せかけではなく、本物だった。


「男女平等の世の中だけど、やっぱり恋愛はこうやって男女分業するとうまく行くんだよね。これを見つけた時、私は将来はお見合いおばさんになれるって確信したよね」


「たしかにすごいです。ところでお見合いおばさんって。言っちゃあれなんですけど、まずは先にご自分の結婚の方が先では?」


「…ふふ。私に結婚なんて無理だよ。だって私ただのビッチだもの…」

 

 自嘲気味にキリンさんは言った。その顔は笑っているのに、何処か寂し気だった。


*******


合コン途中評価!!


ユリさんの評価

「フェルマーさんいいね。あの鬼畜眼鏡感!絶対後ろの穴が弱そう!責めたいなぁ…かわいい」


カエデさんの評価

「コーシーさんいいですね。あの貴族感!偉そうなわりに優しいところがいいですね!そのくせなんかMっぽいから振り回されるの好きそう…でもきっと夜はオラついてくるんだろうなぁ…尽くしてあげたい。かわいいかわいい」


ツバキさんの評価

「ケプラー君いいよね。あの自由人感!普段一緒にいて飽きなさそう!でも出来れば…うちのことは縛って欲しい…笑顔で束縛してなぁ。かわいいかわいいかわいい」



キリン「男の子の事を『かわいい』って言ったらかなりいい線行ってるよ!男子の皆は女子に可愛いって言われたら、バカにされてるんじゃなくて、好かれてるって考えて欲しいかな!」


カナタ「かわいい以前の評価がヤバい!絶対にあの子たちおかしいよ!?かわいい顔してえぐいことしか考えてないじゃん!!」


*******



 出来上がった料理はラッピングしてお持ち帰りになった。そしてビルから出て、近くにある綺麗な芝生のある公園にやってきた。


「港区流合コン術!第二の奥義!公園の芝生ランチ!!」


 キリンさんはバックからシートを取りだして芝生の上に敷いた。そこに俺たちは座ってランチが始まった。出来上がったクロックムッシュは普通に美味かった。みんな美味しい美味しい言いながら話を弾ませていく。また例によってキリンさんが俺に耳打ちしてくる。


「もう場が温まってるから、暫くは放置で。ただし男子たちに言い含めておいてね。公園では子供にはやさしく。虫とヤンキーには厳しくって感じで」


「え?あ、はい。わかりました!」


 俺は例によって男子たちに指示をする。


「子供には優しく、ヤンキーには厳しくで!」


「「「サー!イエス、サー!!」」」


 だからなんで軍隊ノリやねん。まあしばらく放っておくことにした。お話は普通に盛り上がっている。天気もポカポカで気持ちいいし、芝生も柔らかくて気持ちいい。そんな時だ、俺たちのランチシートにボールが飛んできた。それはまっすぐとユリさんが傍に置いておいた蓋の空いたお茶のペットボトルに向かって飛んでいたが、ぶつかる前に太郎が難なく片手でキャッチした。


「おっと。こぼれてない?」


「は、はい!大丈夫です!」


 なんかユリさんの頬がちょっと赤く染まってるように見える。あれ?これって?太郎はボールを優しく子供に返した。


「フェルマーさん、子供に優しいんですね…ふふふ」


「い、いや、それほどでも…あはは」


 なんかフワフワした空気が太郎とユリさんの間に出来てる。キリンさんはそれを見て、ニヤリと笑っていた。まさかこれがこの第二の奥義の極意?!そしてその後も立て続けにイベントが発生していた。カエデさんが次郎を弄っていた時、小さな虫が彼女の髪に停まった。それを見てカエデさんは怖がって振り払おうとしたが、次郎がさっと手を伸ばして虫を手に取って遠くの芝生に放り投げた。


「コーシーさん、虫平気なんですね」


「お、おう。けっこう平気だ…」


「うふふ。そうですか。へぇ…うん。ちょっとかっこよかったです」


「どういたしまして…あはは」


 またしてもフワフワで甘酸っぱい空間が生まれた。キリンさんはニヤニヤと笑っている。極意が連続発動している。そしてさらに…。


「おうおう!いいスケつれてんのぅ!奥歯ガタガタ言わせちゃるけん!」


「ひっ!や、やんきー?!こわい!」


 飲み物を二人で買いに行った三郎とカエデさんがヤンキーに絡まれていた。俺は追っ払ってやろうとシートから立ち上がったが、キリンさんに腕を引っ張られて止められる。


「ふん。この子に手を出すな。偏微分方程式も行列も知らないヤンキーにこの子は渡さねー!」


 三郎はヤンキーの手を華麗に掴み、関節技をキメてみせた。あれぇ?参天浪ってがり勉野郎じゃねぇの?でもよくよく考えたら、あの葉桐の誘いを蹴るような連中だ。肝は据わってないわけないんだな。三郎はヤンキーをかっこよく追っ払ってみせた。


「ケプラー君、強いんだね」


「ま、まあこれくらいはね、あはは」


「うん、かっこよかったよ。ふふふ」


 またもフワフワ空間が生まれた!三連続で人が恋に落ちる瞬間を目撃したぞ!どういうこと?!


「これが第二の奥義の極意!!」


「またも極意ですかぁ?!」


「公園ランチはまったりとしたリラックス空間、かつ様々なアクシデントが起きるデンジャラスゾーンでもあるの!様々なトラブルを男のが華麗に解決することで、女の子の好意は鰻登り!そして溜まりに溜まった好意は弾けて、それは恋に生まれ変わる!!」


 紅葉助教!見てますかぁ!!これが港区女子の恋愛術ですよ!!やばいよ!論理が半端なく鉄壁ですよ!ぶっちゃけマジですごいと思う。こうして三組の男女はそれぞれなにがしかの話で盛り上がっていった。そして気がついたら夕暮れになっていった。


「あのキリンさん。夕飯はどうします?」


 女子ーズのユリさんがキリンさんにこの後の予定を聞いてきた。その顔には期待感がある。


「うーん?あのね。この居酒屋がいいと思うよ。個室でお座敷になってるし、カラオケもついてるの!そのくせリーズナブル!御飯も結構おいしいの!まじおすすめ!」


 キリンさんはスマホにその店の案内を表示して女子ーズにみせている。


「わー楽しそうですね!」


「うん。楽しいよ。だからあとは若い人たちだけで楽しんで。おばさんとおじさんはここで引き上げるからね」


「え?俺がおじさん?!じゃなくて、いいんですか?」


 俺はキリンさんに耳打ちする。キリンさんはにっこりと頷く。


「むしろ私たちがいたら邪魔だよ。あの子たちはもう十分仲良くなってる。とってもいい合コンになったね。あの子たちすごく相性良さそう!本当に結婚とかまで行ってくれそう!わくわく!」


「確かにそうですね。うん。大丈夫そうだ」


 俺は一応元既婚者である。あの子たちはその目で見ても大丈夫そうに見えた。


「じゃあ、私たちはこれで。みんな六本木の夜を楽しんでってね!」


 キリンさんはみんなに手を振って見送った。俺は参天浪どもにそれぞれ2万円ずつ握らせて、ちゃんと全額男が出して男気みせろと言って見送った。そして俺とキリンさんだけが残された。さすがにこのまま帰るのもあれなので、俺はキリンさんを夕食に誘う。


「御飯でも食べてきません?美味しそうなラーメン屋来るときに見かけたんですよ」


「いいね!でもどうせならただ飯したくしない?」


「え?ただ飯?ここ六本木ですよ?デパ地下とか?」


「そんなんじゃないよー!あのね!最近私のパーティーネットワークに新しいパーティーの知らせが入ったんだぁ。ほらあのビル!六本木で一番高いあれ!」


 キリンさんは六本木のランドマークの高層ビルを指さす。


「芸能人とかスポーツ選手とかいっぱい出入りしてるんだって!芸人さん生で見たくない?!知り合いの子が受付係やってるからただで入れるよ!中に入ればお酒も料理も食べ放題!どう?」


「うーん。まあ芸人さんは見たいですね。スポーツ選手も会えたらサイン欲しいなぁ…行きましょ!」


 なんだかんだと大学以外のパーティーにも出てみたかった。とくに港区のパーティーなんて、前の世界では大企業勤めだったとは言え、一介のサラリーマンな俺には縁がなかった。ここらへんで経験しておくのはありだと思う。俺はキリンさんの誘いに乗り、高層ビルに向かった。その高層フロアでパーティーが行われているらしい。ちょっとテンション上がってきて、楽しみな俺がいた。そして六本木の夜の闇が空を染めていく。





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