2-5:試合

「で、翔よ。なんかいい資料はあったかの?」


「なんか、式神ってのが使えるってことはわかった。それを使って妖術を使うんだってさ。」


「ほー、陰陽師が使うというあれか。一説では使役している鬼神のことを指すというし、半妖のお主が使えてもおかしくはないの。」


「爺ちゃん知ってたんだ」


「そりゃ、妖怪の血が流れてるとかいう家系じゃからな。妖怪に関連することも色々調べたわ。それで、午後は時間あるかの?」


「あるよ?」


「そうか、久しぶりに試合するぞ。前にやったのは半年前じゃからの。そろそろいいじゃろ。」


「えぇー、私まだ病み上がりんだけど。」


「あれから5日も経ってるんじゃ。病み上がりもクソもないじゃろ」


「はぁ・・・わかったよ。武器に指定は?」


「特にない。好きなのを使え」


 爺ちゃん・・・師範との試合が決定した。試合とはいうが、実際はただの殺し合いだ。どちらかが気を失うか参りましたというまで続く。だいたいいつも私が気を失って試合が終了する。


 一応試合場内にいる限り、首が飛ぼうと頭を貫かれようと心臓を射抜かれようと死なないとはいうが、私はそれを経験したことがない。というか経験してたら確実に死んでるハズだから、経験のしようがないけど。


 あと、うちの道場には流派や型というものはない。というのも、元は迫害されている人たちを匿い、生きていけるようにするという目的から始まった道場であるため、とにかく『殺されない』ということに特化している。


 そのためには武芸百般を身に着ける必要があるという謎の思想のため、私も大抵の武器は扱えるようになった。一般的な刀・槍・弓に始まり、銃なども取り入れている。ちなみに銃は当てることが出来て半人前、避けることができて一人前という、中々にぶっ飛んだ教えがあり私も何度かその稽古を受けたことがある。


 いまだに避けることはできないが、とりあえず肉が少し抉れる程度での回避はできる。師範は避けるどころか当たり前のように刀で弾いたりするので意味がわからない。一応次期師範の立場にいる私だけど、あの域にたどり着ける自信がない。



 試合の準備のために更衣室にいくが、よくよく考えて私用の道着あるのかなって思ってたら、ちゃんと用意されていた。尻尾の部分が出るようになってる。師範はやる気満々だったらしい。しかも軽くて丈夫な防刃仕様になっている。私はそれを着て武器庫に向かい、刃長30㎝、柄が100cmの槍を手にして軽く振って感覚を確かめる。なにせ尻尾と耳が生えたからね。感覚が変わってるはず。


 何度か槍を振ったが、SLAWOの身体と似てるおかげか違和感がなかったのでそのまま試合場へと向かう。


 試合場は雨宮家の人間にしか入れないようになっており、中は壁に床、天井にすら多くの傷がある。更には拭き取れなかった血痕も残っている。何も知らない人が見れば即警察に通報しそうなかなり物騒な場所だ。


「おぉ、来たか。待っておったぞ。さぁ、早速やるぞい。」


 そして部屋の中心で刀を携えて待っている師範がいる。私は師範の対面に立ち、槍を構える。師範も同様に刀を抜いて構える。


「っはぁ!」


 師範は私の構える槍などお構いなしに、強く踏み出してくる。私はそれに対して真っ直ぐ頭を狙って突きを放つが、師範はそれを難なく弾いて更に踏み出し、斬り下ろしてくる。私はすぐさま槍を引いて斬り下ろしを柄で受け流し、姿勢が崩れたところを槍で薙ぐ。


ガキンッ!!


 が、袖の中に何か仕込んでいたようで、片腕で防がれる。


 そして反対の腕で刀を下から切り上げてくる。私は師範の身体を蹴って距離を取るが、ギリギリ間に合わず脇腹を浅く切られる。


 とはいえ大した傷ではない。そのまま槍の突きを無数に放ち、間合いを活かして近づかれないように立ち回る。時に顔、時に胴体、時に足と様々な場所へ攻撃するがその悉くをいなされ、逆に私の身体に切り傷が増えていく。


 そしてほんの少し力んだところを狙われ、槍を掴まれて体を引っ張られ、そのまま刀を斬り下ろしてくる。


 私は咄嗟に妖力を使った強化を行い、師範を振り払うように槍を振る。


「むぅ!?!?」


 まさかほぼ腕の力だけで槍を振ると思ってなかったのか、師範は大きく体勢を崩し、槍から手を離した。そしてその隙を逃さす突きを放つ。しかしその瞬間、崩れていたはずの師範が消え、私の横から刀を斬り下ろしてきていた。


「うっそ!?!?」


ザンッ!!


 私は袈裟懸けに斬られた。なんとか反応したおかげで致命傷にはならなかったが、それでも結構深く切られてしまった。そして追撃の手はやまず、更にもう一太刀飛んでくる。私は強化した足で回避してカウンターを合わせる。が、今度は振り下ろされた刀がぶれたと思いきや、その瞬間には私の槍が弾かれており、反応する暇もなく袈裟懸けに斬られる。


「ほっほっほ、惜しかったのぉ。あと数センチ踏み込めておれば、お主の初勝利だったろうに。はっはっは!」


 出血多量で意識が朦朧としながらも、最後に見たのは脇腹から多量の血を流す師範の姿だった。私の最後の一突きは弾かれる直前に師範の身体を貫いたらしい。初めて私の攻撃が届いた。


「ほんと・・・強すぎでしょ」


そして私を見下ろして笑う祖父の姿を見ながら、気を失った。





「ん・・・・んんー」


「おぉ、起きたか。半妖化の影響か、随分と回復が早いのぉ。じゃがまだ傷は治りきっとらん。あと2、3日は安静にしておけ。まぁ、すでに歩いたりする分には問題ないじゃろうが一応な。」


 起きるとそこは見慣れた道場の医務室。時計を見るとまだ17時なので、本当に回復するのが早くなったようだ。今までは試合のあとは丸一日寝てたものだが、それがたったの4時間で回復とは。ってか、爺ちゃんにも怪我負わせたと思うんだけど、なんでぴんぴんしてんの?


「ん?儂は自分の治療くらいパパっとでるからの。この程度の怪我は傷のうちに入らんわ。一日寝とけば治る。はっはっはっは!」


 爺ちゃん別に半妖化してないはずなんだけどな。まぁ、色々と規格外な人だから通常の治療とは何か別の方法があるんだろうけど。


「して、お主が途中から使ってたあの不思議な力は、地下室の資料に書いてあったやつかの?」


「そうだよ。なんか妖力っていう妖術の元となる力があるんだけど、それを使って体を強化する術。ゲームにも似たようなのがあったから、直ぐに出来た。」


「ほう、そういうのもあるのか。儂もそのゲームやったら覚えられるかの?」


「それ以上強くなられると、爺ちゃんに一生追い付けそうにないんだけど。今でさえ本気を見たことないのに」


何なら私が死ぬまで生きてそうだもんなこの爺ちゃん。


「ほっほっほっ、お主ならすぐじゃわい。SLAWOじゃったか?あれをやってる影響か、かなり動きも良かったからのぉ。」


「全然そうは思えないんだけど・・・、そういや私の強化に対応したあれ、私にも扱える?」


「んー、どうじゃろうな。あれを扱うにはゾーン状態にならないことには始まらんからのぉ。お主はまだ入ったことないじゃろ。」


「ゾーン状態だと全能感を感じるんだっけ?それを感じたことはないから、入ったことないと思うよ」


 てことは爺ちゃんはゾーン状態に入ったり入らなかったりが出来るってことか。一応うちにも奥義みたいな技があるって聞いたことがあるけど、その前提にある技術なのかな?


「じゃろうな。儂も初めてゾーンを経験したのが35歳の時じゃし、これでも早いほうじゃからなぁ。遅ければ50になってからっていうこともある。」


「そんなに大変なんだ。凄い人は若いうちにゾーンを経験するって聞くけど?」


それこそ爺ちゃんなんかはその典型だと思ってたんだけど?


「それは本当に一握りの天才だけじゃ。儂は天才ではないし、儂が使った技術は全て使い方が確立してるものじゃ。天才でないと扱えないとあっては技術として伝わらんじゃろ」


  まぁ、確かにそれはそうか。でもそれだとゾーンに入る方法があるみたいに聞こえるけど、どうなんだろう?


「もういい時間じゃの。家まで送ってくぞ。」


あ、話をそらされた。まぁいいや。


「その体で大丈夫なの?」


「自動運転の車を使うからの。問題ない。」


 あぁー、確かに自動運転の車うちにあったな。爺ちゃんはあまり好んで使わないけど。自分の手で操作するのが好きらしい。


爺ちゃんに用意してもらった車に乗って家まで送ってもらった。


「今日は風呂に入るのはやめておけ。傷が開いてしまうからの。気になるなら濡れたタオルで拭くと言い。それと、明日朝起きたら包帯を交換して、この薬を傷跡に塗りなさい。」


「わかってるよ。ありがとう。」


「うむ、それじゃぁまたの」


「うん、またね。」



爺ちゃんとお別れしてマンションに入り、私たちの部屋に入る。


「ただいまー」


「おかえりー、翔。うわっ、凄い包帯の量。道場で稽古でもしたの?」


 私のいまの恰好は夏ということで半袖だ。なので腕にしてる包帯が丸見え、それにスカートの先からも少し見えてる。


「いいや、爺ちゃんと試合だよ?」


「えぇ!?試合したの!?起きてて大丈夫なの!?」


「大丈夫。この体になってから回復力が凄いみたい。あ、でもお風呂は今日は入れないから。」


「そうなんだ・・・。ご飯はどうする?もう作っちゃったけど食べれる?」


「うん、むしろお腹空いたから早く食べたい。」


「了解。試合したってことは身体に穴空いたんじゃないの?」


 どうやら一葉の中では試合=身体に穴をあける行為だと思ってるらしい。あながち間違ってないのが何とも言えない所だけど。


「穴は開いてないけど、針で縫う必要があるほど深く切られたかな。二か所も」


「うわぁ・・・、僕の彼女がどんどん人間を辞めてく・・・」


「でも私のこと好きでしょ?」


「それとこれとは話が別!怪我するのは辞めて欲しい。とにかく椅子に座ってて。ご飯出すから。」


「ん、お願い。」


 そしてご飯を食べ、一葉に体を拭いてもらった。体を拭いてもらうために服を抜いだら、今日はSLAWO禁止と言われた。とにかく寝ろということだ。

 VRゲームなら大丈夫だといったが、それよりも治すのが最優先って言われて、今日はSLAWOをしないことに。仕方ないのでTwoiterで今日の配信はないよーっていう報告して、夜は特に何もせずに眠りについた。

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