第21話 エレクトロ

 俺がレインさんから習った魔法は3つ。

 一つは灯用兼攻撃用として教わったファイアーボール。

 これは初級魔法で大体の人が使えると言われている種類の魔法だ。本気の戦闘面で使う機会はほとんどないと教わった。

 そしてもう一つの初級魔法がこれ。


 エレクトロである。

 

 発射された魔法は属性で言うと、雷。その中でも一番覚えやすいと言われていたのがこれだった。

 でも俺の目的は強さじゃない。

 この魔法は相手を感電させて一定時間麻痺状態にするのだ。


「よし! 成功!」


 思惑通りゴブリンどもは動けていない。

 

「「ガゥうううう!」」


 叫びながら動こうとしてやがる。

 ちょっとびっくりしたけどちゃんと動けてないみたいだな。


「ミク! あとは頼む!」


「…………」


 ミクは呆然と立ち尽くしていた。

 なにやってんだ……こいつ。


「おい、ミク。聞いてんのか!」


「あ、わ、わかってるわよ! ちょっとよそ見してただけじゃない! 全くもう……」


 そういって走り出し、バッタバッタとゴブリンと倒した。

 やっぱ強い。


「ふぅ……これで全部ね」


「……いや、まだだ。なにか聞こえる……」


 倒れたゴブリンの中から音が聞こえた。

 これでも倒れないのか……どれくらい強いやつなんだ……


 ごくりと固唾を飲んでみる。

 そこには……


「きゃ……がぅぅ……」


 小さなゴブリンが出て来た。

 腕には俺が使ったエレクトロの効果だろうか火傷の痕が出来ていた。

 多分、距離が離れていて、上手く電気がまわらなかったんだろう。

 人から人へと移ったらどんどんと弱くなるからな。

 

「っち!」

 

 ミクが殺気を放つと、そのゴブリンは俺たちとは逆の洞窟の奥へと逃げて行った。


「……追う?」


「いいよ別に。見た目からして子供っぽいし。いちいち追ってたらまた出て来るかもしれないからな」


「……わかったわ」


 そういって剣をしまった。

 これで戦闘は終了。見事俺たちの勝ちってことだ。

 やった。


「……それでいまの魔法もレインに教えてもらったのかしら?」


「そうだよ。いい魔法だろ。自分でいうのもなんだけど俺のおかげで倒せたしな!」


「……でもなんか地味ね。魔法ってあんまり大したことないのかしら」


「地味って! 結構強いんだぞこの魔法! お前にも使ってやろうか!?」


「やってみてもいいけどその時はこの剣でぶった切るわよ!」


「…………遠慮しとく」


 流石に怖い。本気のミクとやったら酷い目に合いそうだ。

 こいつは意外とこういうのに手加減しないタイプだし。


「なら、さっさと皮をとって帰るわよ」


「ああ、帰るとするか」


 皮をはぎとる作業は相変わらず気持ち悪い。

 全部ミクに任せた。なんか知らないけどこいつは問題ないらしい。

 どこまで強いんだよ!


「よし帰るわよ。これくらい倒したから相当な金額が貰えそうだわ! 私のおかげね」


「俺のおかげでしょ!?」


「ふん、そんなのないわよ。私が最終的に倒したんだし。あんたは皮もろくに取らないし。全然ダメね」


「な……」


 マジでこいつひねりつぶしてやろうかな。

 あんまり調子に乗らせるとこれだ。いつか強くなったら同じことでもやってやろうか。いじられるのはあまり得意じゃなさそうだしいい反応が見せそうだ。


「……なに見てんのよ。気持ち悪いわね」


「ああごめんごめん。ちょっと考えごと」


「ふん、じゃあ行くわよ」


 俺たちは何事もなかったかのように宿に戻った。

 洞窟を抜けるまでファイアーボールで見やすしていたが、意外と魔力の消費量が酷い。疲れてしまった。これからは普通に松明を使った方がいいかもしれない。


「ふう……肩も痛いし、魔力は減って気持ち悪くなるわで散々だったな……」


「そう、なら私は換金しにギルドに行ってくるわ。今日中にでもお金が手に入らないと色々マズいことになるのよ」


「じゃあ頼む。多分少し休憩したら治ると思うから俺がご飯とかの準備をしてくる」


「はいこれお金」


 5ビーン硬貨を渡される。

 これ一枚でパンを買える。二人分を買えばこれくらい必要か。

 ちなみにこの宿は1泊3ビーン硬貨らしい。


「私は行くわよ。あんたも調子が良くなったら早く行ってよね。寝てたから商店街のことはあんまり知らないと思うけどあそこ結構早く閉まるから。買えなくなると困るのよ」


「わかったよ。サンキュー」


 そういうとミクは消えていった。

 なんか知らないけどちゃんと管理できている所はあるんだよな。

 タオルとか買ってくるのは抜けてるっていえるけど。


「……なんだか体もよくなってきた気がするし、商店街に行ってみるか。なにがあるかも見てないしな。気になってきた」


 人間の体ってのは案外簡単なのだ。ちょっとや、そっとのことで回復する。

 

「行こう!」


 決めたら行動はすぐに出た。金を持ち、出発する。

 商店街はグランさんと一度来たことがあったからわかった。

 もしかしたらあの人もいるかもしれない。久々といても最近だけど会ってみたい。

 ギルドに入ってから疎遠だったし、お礼もいいたい。でも確かミクは会ったとかなんとか言ってたっけ。


 そんなことを言いながらグランさんの家におもむくが。


「あいてない……か。しょうがない。また今度にしよう」


 看板に『食材を取りに行ってるので本日は休暇!』でかでかと書かれている。グランさんらしい。


 会うのが目的ではないし別にいいか。食材を見に行こう。

 そうして商店街を歩いて回り、パン4つとグラタン2つを丁度の値段で買ってきた。グラタンは一つ2ビーン硬貨だったが、なんとパンが4つで3ビーン硬貨という特売になっていて買ってしまった。

 やっぱり特売っていう言葉は凄いな。自然と買ってしまう。


 宿につくと音がした。先に帰ってきているらしい。


「帰ったぞ。見ろ! 特売でパン4つで3ビーン硬貨だったぞ!」


「あっそ。別に普通ね。私ならもっと値切って安くしてもらうわ」


「げ……たしかにその手があった。値切るとかやったことないから忘れてた……」


「ファクトもまだまだね。私なんてあの町で結構有名になったから会うだけで値切って貰えるわ!」


 自慢かよ。いや、自慢なんだけどね!

 なら、お前が行けばよかったじゃん。まあ、ギルドに行ってたから無理か。

 面倒な奴! 俺だって頑張ればその位行けるし!


「……まあ、俺も魔法を覚えてるしこれから有名になって見せるから大丈夫だ!」


「あんたの魔法、そこまで強くなさそうだったけど?」


「もう一つあるからいいんだよ」


「なにそれ、私聞いてないんですけど!?」


「なんで俺が言わなきゃいけないんだよ!? いいだろそれくらいの秘密!」


「ダメよ。私だって魔法のこと知りたいんだし! 教えなさい! なにを習ったのよ!」


「教えないったら教えないんだ!」


「教えろ!」


 ミクに追いかけまわされたが、頑固として教えなかった。

 これは今のところ俺の切り札なんだ。そう簡単には教えない。

 

 ……ってそういえば、クエストもしたし、ギルドに寄ってみるか。レベルが上がってるかもしれないし。

 そう思いながら目を閉じ、寝た。まあ、ベッドは全範囲ミクが譲らなくて今日は床なんですけどね。

 結構痛かったです。特に腰が。

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