第19話 俺って意外と……

 魔法を町中で使うと色々とマズいということで、人がほとんど通らない裏路地にやってきた。ここでなら魔法を使っても大丈夫らしい。

 人が少ないうえに場所は広く、使い勝手が良さそうな場所だ。これから何かで練習とかをする機会があったらここに来るのも良さそうだろう。


「ここまでくれば、いいかな。それじゃあ始めようね。魔法の特訓」


「…………」


 少し、緊張する。できるのかな……


「まずは一番簡単って言われている初級魔法から行こうか。」


「初級魔法?」


 聞いたことのない単語が出て来る。


「魔法の位だよ。適当にみんなが言っているだけ。初級、中級、上級、人級、零級、神級の6つ。ってことで初級のファイアーボールから行くよ~」


「……はい」


 レインさんが詠唱を唱え始める。


「我が清廉なる紅蓮の炎よ。この手に力を与えたまえ。ファイアーボール」


 手から炎の球が出て来る。その光はまぶしく、これなら洞窟での灯りにもなりそうだ。便利な魔法を覚えておいて損はないだろう。

 俺もレインさんに続いて詠唱を唱える。


「我が清廉なる紅蓮の炎よ。この手に力を……えっと与えたまえ。ファイアーボール! って、あれ!? 出てこない!?」


 ちゃんと詠唱を唱えたはずなのに魔法が出てこない。

 一体なぜ!?


「あ~ダメダメ。そうじゃない、そうじゃないよ。魔法ってのはスキルと同じなんだ。願いみたいなものなんだよ。だから想像して、構想して、連想して……そして魔法の詠唱を唱えるんだよ。まあ、計算みたいなものだね。最初はどんな感じでやるか頭で考えてから解いていくでしょ。そんな感じ。そしたらきっと君でもできるからね!」


「……分かりました。やってみます」


 想像してからやればいいのか。それを最初に言って欲しいかったっていうのはおいておいて、まずは集中しよう。

 

 レインさんが使っていた魔法を思い浮かべる。

 紅く光っていて、ほんのりと暖かい球。大きさは手に乗るくらい。

 よし、頭の中でイメージ出来た。あとは詠唱を唱えるだけ。


「我が清廉なる紅蓮の炎よ。この手に力を与えたまえ。ファイアーボール!」


 体から強い引力を感じる。 中からなにか出て来て、その分と引きかえになにかを奪われる感覚を覚える。

 これが魔法というものなのだろう。そして手にはさっきのレインさんのと変わらない瓜二つの真っ赤な球が出て来た。成功だ。


「よし……よっしゃ! 出来た! 魔法が使えたぞ!」


「うん、ちゃんと使えてるってことは適性はそこまで悪くないってことか。私の予想通り!」


 嬉しい。たったの魔法一つでこんなに嬉しいなんて夢にも思わなかった……


「じゃあ、今度はさらに難しい奴やってみようね!」


「はい、もちろんです! よろしくお願いします!」


 ということで俺とレインさんのさらなる特訓が始まった。

 特訓は夕方を超え、夜まで続いた。


「ふぅ……ここまでできればとりあえずは大丈夫だと思うよ。きっとミクちゃんにも匹敵するくらいの活躍は出来ると思う!」


「……そうですか。ありがとうございます。こんなに教えていただいて」


 ちょっとだけ申し訳ない。この人はギルド長なのだ。仕事も結構あるはず。でも俺の特訓に手伝ってもらった。本当ならお金とかをあげなくちゃいけないんだろうけど、俺にはそんな金すらない。せめてなにかお返しできることでもあれば……


「う~ん、じゃあこれは貸しってことにしておくよ。今度なにかあった時に手伝ってもらうから!」


「はい、今度必ず!」


 貸しにしてもらった。なにかあった時、手伝おう。


「……それにしても、ファクト君……魔法の上達は凄く早いね。びっくりしちゃったよ」


「そうですか?」


「うん、1日で魔法を3つも取得するなんて普通だったら考えられないよ。しかも2種類の魔法で一つは中級魔法。普通なら考えられないものだよ。ステータスは平均くらいでも魔法の適性や、順応差は相当早いみたいだね」


「まあ、中級魔法に関しては当てがあったので。それに平均位なんじゃないですか?」


「いいや違うよ。平均よりも君の方が数倍上だね。そもそも魔法を君くらいの年齢で覚えている人なんかいないからそもそもで言えばすべて平均より上だし! 君は凄いんだよ! もっと自信持ってもいいんじゃないのかな」


「そ、そうですかね……そんなことないと思うんですけど……」


「またまた、照れちゃって。ちょっと顔が赤いよ~」


 バレてたか。仕方ないでしょ。褒められたことなんてほとんどないんだから……


「……きっとレインさんの教え方が上手いんですよ……」


「ふふん、もちろん。私はこれでもギルドのトップだからね。昔は冒険者をしてたし、まあまあ強かったんだよ」


 懐かしそうに話をする。色んな思い出を思い出しているのだろう。

 凄く楽しそうにしている。こんな顔、初めて見たかもしれない。


「へぇ……位はどこまで行ったんです?」


「茶までだわ。流石に黒はいけなかったよ。まあ、私のパーティーメンバーが一人黒だったけど」


「え! 凄い!? 茶ってたしか上から2番目の!?」


「そんなに凄いことではないよ~」


「え!? いや、す、すごいですよ! 2番目の位だなんて……」


 まったく想像ができない。一体どれだけ努力すればたどり着ける領域なんだろうか。それとも努力だけでなく才能もなくちゃいけないのだろうか。

 ……わからない。


「ち、ち、ち。ファクト君はなにもわかっていないようだね。そんな位なんてこれからどんどんと増えると思うんだ。最近の子は昔よりも強い子は多いしね。もちろん君にもその可能性はあるんだよ」


「俺にも!?」


「そうだよ。これからミクちゃんと頑張って行けばもしかしたら……黒になれるかもね」


 軽い冗談なのかどうかはわからないが、期待されているということにしておこう。

 お世辞だろうが、いまの俺には嬉しい一言だった。


「……そうですね。ありがとうございました。今日は!」


「い~よ。じゃ、また今度ね」


「……はい!」


 そこで別れる。レインさんはうきうきで帰っていく。

 もうそろそろ、ミクも帰っている頃だろうし、宿舎に戻って明日の準備でもしておこう。


「しかし、魔法を3つも習得できるとはな。一つは灯のためだけど……あとの二つは戦闘のために取得できた。でも結局はうまく組み合わせないといけないよな。いきなりの戦いじゃまだうまく使えないと思うし。やっぱり練習とかが大事だよな」


 まあ、最初の戦いと言えども魔法を得たんだ。多分、なにかで活躍できるだろう。


「……ふふ、ミクってば、魔法を使ったらどんな反応するかな。驚いて失神するかも!? ……いや、それはないか。アイツ意外と冷たいし……何故か俺にだけ」


 悲しい現実を胸に帰っていく。

 今日の出来事でちょっとだけだが、自信がついた。よかった。

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