第17話 こんなに難しいのかよ……
さらに奥へ進んでいく。
もちろん、ゴブリンの死体からナイフで皮を少し回収した。
ギルドがこの皮を受け取ることで報酬が貰えるのだ。皮を剥がすのは気持ちが悪くあまり見たくはないことだった。
まあ、ミクが何事もなかったかのようにやったから全然大丈夫だったんだけどね。
「早く行きましょう。なんだか、奥に進んでいくに連れて寒くなってきたような気がするわ」
「そりゃ洞窟だからな。だからもっと用意する時間を入れろって言っただろうが。それを断ったのはお前の方だろ……」
「うるさいわね。仕方ないでしょ。あんたも反対しなかったんだから一緒みたいなものでしょうが。ぐずぐず言わないで、さっさと行くわよ」
「はぁ……わかったよ。しかも俺のスキルも使えないし……」
さっき本当に一瞬、死体のゴブリンを目で見たが、文字が暗すぎて見えなかった。
このスキルってどこまで落ちこぼれのスキルなんだよ……ラグナロクを見習ってくれよ!
ってあ。
「……ん? なんか言った?」
「……いや、なんでも」
「そうならいいけど。行くわよ」
やっぱり前と変わらず、隠しとおしたい。
今頃バレると面倒なことにもなりかねないし。なんで知ってたのにスキルを言わなかったのよとか言って殴りかかってくるのが目に見える……
少し進むと、1匹だけのゴブリンが出て来る。さっきと同じように他にもいるかもしれないので警戒しながらゴブリンと戦うことにした。
「じゃ、後ろは頼むわ。それくらいならできるでしょう」
「なーに、上から目線で言ってやがんだよ。さっきの奴だって俺が居なかったらやられてただろうが」
ちょっとだけ自慢気味に言う。助けた時は結構爽快だった。
ステータスはあれだけど、戦闘に関しては俺の方が向いているのかもしれない。
それは嬉しい。
「うっさいわね! あんたはあんたの仕事をしてなさいよ!」
「理不尽だな!?」
「と・に・か・く。あんたは私を守りなさいよ。わかったわね!」
怯えながらうんうんとうなずく。それと同時にミクはゴブリンの方へ走り出した。
「死ねぇええええええええ!」
ナイフを思いっきり、振り下ろす。
うわぁ……怒ってるわこれ。怒りでナイフを振ってるわこれ。
ゴブリンは持っている棍棒を使う事もなくなにも出来ず、そのままぶっ倒れる。
ゴブリンさん、ご臨終です。
「ふぅ……なんだかすっきりしたわ。これで3体。お金ももらえるし、今日のところは一旦、退却しましょう。明日、もう一回来て、今度はここにいるゴブリンを全員皆殺しにしてやるわ……」
「怖いよ! 発想が怖いよ!? もう少し優しい感じで行こうよ!」
「はいはい、そういうのいいから。今度はあんたが皮を取りなさいよ。あれ、ちょっと水分がついてて嫌なのよね」
「……そんな生々しいこと聞きたくなかったよ。ていうか、マジでやりたくないんだけど……」
「それくらい慣れとかないと後々、他のクエストとかでも使うかもしれないから困ると思うわ。別に怖くないんだから早くやんなさい」
お前は俺の母さんか!
しかしまあ、ミクの言ってることも正論だし、やっとかないとな。気持ち悪いけど。
俺はそう思いながらゴブリンに近づき、腕のところの皮を少しはぎとる。
ふぅ……何事も起こらずに出来たか。よし、これで帰れる。
安心したのか、石につまずき、転倒しそうになる。そこを何かが支えてくれ、転びはしなかった。
「あっぶね……ミクサンキュー。助けてくれて。でもさっきまで俺の後ろになんかいたか? 前にいたような気がするんだけど」
「何言っているのよ。私はここよ。あんたの後ろじゃないわ」
「……え?」
前を見ると、ミクがいた。
じゃ、じゃあ……俺の後ろにいる……この人は……このモンスターは……
恐る恐る後ろを向く。
「……はぅはぅ……があああああああああああ」
まがまがしい形相をした怪物が俺を殺そうとする。
形からしてゴブリンに違いない。でも大きさが他のとは違い過ぎる。デカすぎる!
「やっぱりゴブリンかよ!? しかも他の奴よりもデカいし! なにこの個体! 見たことないんだけど!?」
「く、やるしかないわね! 行くわよ!」
「って、なにやり合おうとしてんだよ。馬鹿かお前は! 逃げるぞ!」
ナイフを構えて、やる気満々でいるミクの体を抱え、進んでいた道を大急ぎで戻っていく。
後ろからはあのゴブリンがついて来ていた。
「な、なにするのよ! ち、近いし! やめなさいよ!」
「抱えてるのはしょうがないだろ。こうするしか方法がなかったんだから!」
意外と重くはなかった。むしろ軽い方だろう。
匂いは……あれ。戦闘してるから汗臭いと思ってたけど、めちゃくちゃいい匂いがする。寝るときと変わらない匂いだ。凄いな……
「なんか気持ち悪い! おろしてよ!! 戦うわ!!」
「……ホント、なんにも見えてないな。お前は……あんなもの相手にしてたら勝てるかどうかも怪しいし、それに他のゴブリンが出て来た時に対処しずらい。逃げるのが一番の手だ」
「でも、なにもせずに逃げるなんて恥だわ!」
「じゃあ、なにしたらいいんだよ!? お!?」
すると、ゴブリンが俺に向かって棍棒を振るう。
ギリギリのところで避けれた。
嘘だろ……当たってたら即死亡レベルの強さだったぞ……こんな奴に勝てるわけないだろ。
「うおおおおおおおお! これでも根性は人並み以上にある方なんだ! ここでふんばらずにどこでふんばるっていうんだよ!!」
足に精一杯の力をこめる。
「行くぞ。はああああああああああああああ」
「あ、待って。やっぱりこうだわ」
「……え? なにいきなり」
ミクが俺の腕から強引に降り、そして逆に俺を背負う。
「やっぱり素早さの早い私の方がいいでしょ。さっきよりは全然ましだわ」
「……いや、逆かよ!? しかもめっちゃ早いし! 俺の2倍以上だし! ステータス通りじゃないか!」
ちゃんとしてやがる。だてに素早さ230ではないということらしい。
それにしてもなんだか本当に情けない。普通に考えて逆でしょ。男が女におんぶされながら行くとか……恥ずかしい……匂いはいいんだけどね。
逃げる。逃げる。洞窟の外まで走って逃げた。
「ふう、ここまでくればアイツも追っては来れないようね。大丈夫みたいだわ」
「うん、そうだな」
「どうしたのよ。疲れたって顔して。お腹でも空いたのかしら?」
「うん、そうだな」
「でも、ダメよ。あまり稼いでいないのだから贅沢は出来ないわよ」
「うん、そうだな」
「さっきからなによ、その返事。馬鹿にしてるの? ふざけないでよね!」
腹を殴られる。
「ぉう……って痛いわ! 傷ついている者に対してなんでそこまで酷い仕打ちが出来るんだよ。鬼かお前は!」
「知らないわよ、そんなの。あんたがいつまでもいじけてるからでしょ。早くギルドのところまで戻らないと日が暮れるじゃない。ご飯も買えなくなるのよ。ちゃんとしなさい!」
「……くそ。ミクのくせに正論だ……ぐうの音も出ない……」
「そう、なら行くわよ」
そう言って先に進んでいく。
本当に屈辱だ。俺もなにか磨かないと……こんなスキルだけじゃどうにもできない。前はたまたまうまく言ったけど今度も上手くいくかわからない。もっと他のところを磨かないと。ミクとは違うなにかを……
「そう言えば、ステータスであいつ魔法で勝ってたよな。なら……」
魔法なら勝てる。魔法を覚えよう。一瞬でその結論が出た。
「やるしかない。あとは、魔法が得意な奴を探さないと……仕方ない。嫌だけどアイツに聞いてみるか。魔法に関しては初心者も同然だし。めちゃくちゃ、怖いけど」
炎のスキルを使えて、俺とミクよりも強くて、そして……ギルドのナンバー1ソロプレイヤーの――ラグナロクに。
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