刀が曇るまで

砥上

一話 配属初日

 俺の通う才上学園には二年に進級するとクラス分けをするための実技試験があるのだが、当日、俺はそれに遅刻した。

 学園からほど近いところにある寮から体力がないなりに頑張って走った結果、見事『評価なし』として特別なクラスへと強制的に配属されることになった。

 特別と言っても別に誰もが羨むようなクラスに配属された訳ではなく、むしろ逆。誰もが蔑むような言わば学園の中の問題児たちが寄せ集められた教室へ配属されたのだ。

 ここで言う問題児とは俺のように試験に遅刻してきたやる気を感じさせない者や暴力事件などの問題行為を起こした者、実技や座学の試験の結果が振るわなかった者など多岐に及ぶ。

 特に試験の結果に関しては、剣術はその大半が遺伝や才能が締めている為、ほぼ運任せとも言える。

 しかし、そんな理屈を学園側が了承する訳がなく、学園側の主張はと言えば、『才能がないと自覚しているならそれを超えれるように努力しろ』という暴論染みたものだった。

 確かにとは思うが、努力が確実に才能を持つ者を超えて実を結ぶ保証はない。俺はとにかく努力、というこの主張が嫌いだ。


「着いたか……」


 現実逃避終了の時間は存外早くやって来る。本校舎の裏手、一年を通して日陰に覆われている旧校舎は時代を感じさせるほどにボロく。その上、いつ建てられたのか味のある木造建築のお陰で廃墟かと目を疑うほどだ。

 ここから先、俺はこの校舎に登校し学びを得ていく。考えるだけで気が滅入る現実だ。

 まあ、遅刻した奴が悪いので文句の一つも口を衝かないが。


「よし……」


 決める必要はあるのか、小さく覚悟を決め扉に手を掛ける。


「お、まだいたのか」


 扉を開き教室内に一歩踏む入れる前にそんな声が耳に届いた。顔を上げ声のした方を見ると、身長百七十後半くらいありそうな男子生徒と目が合う。

 染めているのか茶色の髪に隙間から覗くピアスが俺の表情をしかめる。


「おいおい初対面で随分な態度だな」


 しまった!と思ったのと同時に男子生徒が椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる。俺の前で止まると腕を上げたので殴られるのかと身構えるが、衝撃が来たのは顔ではなく、肩だった。


「まあ、この風貌じゃその顔もしょうがないか。俺の名前は砂砂良圭地。同じ問題児同士仲良くしようぜ!」


「あ、ああ」


 差し出された手を反射的に取る。


「そういえばお前の名前は?」


「篠町……凪だ」


「そうか!じゃあ凪!よろしくな!俺のことも圭地って呼んでくれ!」


 妙に馴れ馴れしいが、今はその馴れ馴れしさが逆にありがたかった。問題児クラス、別名『隔離教室』恐ろしい俗称と噂は名と形だけだったようで、俺が思っていたよりも居心地の良い空間なのかもしれない。


「凪はどうしてこの教室に決まったんだ?」


「当日に遅刻してな。お前こそどうしてここに?同じ理由か?」


「いや、俺はクラスメイトを少シメたらここに送られたんだ。まあ、その前にも何回か暴力事件起こしてんだけどな。お陰で面倒な実技を受けなくて済んでラッキーだったぜ」


「へ、へーそうなんだ……」


 「はははっ」と笑いながら雑談の延長線上のようにさらりと話す圭地。それを聞いて俺は果たしてどんな表情をするのが正解なのだろうか。


「はぁ……」


 配属初日。気持ちが二度揺らいだ朝だった。


 △


「書けるところまで頑張ります」

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