第四章 告げ鳥。 第二十六話 告げ鳥。

 そう。

 愛しい、愛すべき存在だった。

 ウルスハークファントでさえ、大好きだったのだから。弱く健全な魂が美しいとさえ言えた。

 自分だけがそれに気づかず、裂けて血のあふれ出す心の傷を見せないように、はしゃいだ振りをしていた。恋人達は互いのことだけに夢中になっていると知りながら。


 「ボクね、やっとおぼえたんだよ!「火の玉と稲妻と凍刃と落石」ヴァ・ラー・ッジ・フォルムナンの術!!すごいでしょ? どれかひとつ覚えるのにも普通は数年以上かかるんだよね?ね?」


 いつも通り老ナギがいない……そして、キュージの代わりに全ての傷が完全に癒えたゾナがいる夕飯だった。ナギとゾナがくすぐり合いながら作った豪華で美しい夕飯は石に見えたし、実際砂の味がしていた。


 「すごいじゃん!」


 ナギとゾナが同時に言った。二人とも本当にウィウの魔術師としての才能に感心していたが、自分たちがハモった事に比べれば、取るに足りない、文字どおりの些事だった。勿論、二人はウィウの事を馬鹿にするつもりも、軽くあしらうつもりもなかったのだが、お互いへの燃えるように新しい好奇心が、結果としてそうさせてしまった。


 「てか、真似しないでよ」


 今度は”しないでよ”と”すんなよ”がなぜかハモった。二人は幸せそうに笑う。テーブルの下で、素足でつつき合っている。ウィウは急に訳が分からなくなった。これまでに何度も見せつけられた光景だ。しかし、それは見るたびに新しくウィウの心にクサビを打ち付け、全てを打ち砕こうとしている。今更なんで?と想いながらも、ウィウは汗が吹き出すのを感じた。きっと顔は真っ赤だと想った。


 「モー!二人ともいちゃいちゃシナイでよ!ミテルこっちガはづかシイじゃァァァアアジジジャン


 少年と少女、老人と若者の声が入り交じっていた。ゾナとナギは顔を見合わした。余計、ウィウは焦る。


 「あ……あれ?ナんかヘ……ヘン?こぇが、アアァァアアッァァ???。」


 「ウィウ?大丈夫??すごく汗かいてるよ?ねぇ」


 ナギは慌ててウィウに近付き、腕を取ろうとして短い悲鳴を上げた。ウィウの腕から親指が6本生えていた。肘の内側に。額にもう一つ目が出来ていたし、耳が二重になっている。顎の下に唇のない口が出来ていて……


 ああ、魔法を使い過ぎた時みたいだ……。


 思いながらも、ウィウは気分が悪くなり嘔吐した。顎の下の口から。足の親指の横には成人男性の……


 「ふぅぅぅぅむ。興味深いのう。」


 興奮を押さえ切れない様子の老ナギが戸口にたっていた。わだかまる闇そのものの風貌だ。双眸だけが深く闇に穴を穿ち輝いている。ウルスハークファントは素早く戦闘体制を取り、身体の側面の並ぶ牙を波立たせる。混乱したウィウは口の端から泡立つ唾液を垂れ流していた。体温が下がり震えが出始めている。戸口を圧し破るかのように老ナギはダイニングルームに入り込んだ。


 「うむ。分裂し始めておる。長くは無いな。」


 ウィウにその言葉が届いていると知りながら、老ナギは事もなげに宣告した。


 「じきに紡ぎ合わされていた魂と肉体が解け、ばらばらになるじゃろう。何、心配することは無い。お前は特殊なウィウじゃ。まれに起こることは古くから知られておる。知るべき人々のみに。貴様は肉が死に果て、虚ろに漂っていた魂が紡ぎ合わされた訳ではない……推測と経験則の域を出ないが、生きているのに虚ろとなってしまった魂が紡ぎ合わされたのじゃ。極端に肉の世界に興味がなくなったてしまった魂達がより合わされたのじゃろう。貴様は死人の魂から成り立っているのではない。だからこその自我なのじゃ……前提条件として、物質と虚像の世界では、実社会に適合出来ず、妄想の世界で生きている人々が、大勢いる事が必要なのじゃが。まぁ、それはおいおい調べて行く。……ウィウ。心配せんでもよい。貴様はもうじきバラバラになり、この世界から弾き出されてしまうじゃろう。が、死ぬ訳ではない。元いたそれぞれの肉の中へと還って行くだけなのじゃ。この夥しい数の世界が重なり合う、その、どこかへと。


  世界は、九十九。

  ツヅラ。

  ミ・フィーユ。

  テューデュラ。


  何も心配することはない。始まったその場所へと帰るだけなのじゃ。」


 老ナギは、さも興味深そうに……勿論、人格としてのウィウに、ではなく、現象としてのウィウに、変容する肉体に興味があるのだ……ウィウを見つめる。そう、一モルモットとしてのウィウに老ナギは興味があった。

 老ナギは、ウィウの身体のあちこちを触り、肉体の分裂具合を確認し満足そうにほほ笑んでいた。


 「いいかげんにしろ!」


 こらえ切れなくなったゾナが、椅子を後ろに飛ばしながら勢いよく立ち上がった。そもそも、ゾナはこの老ナギを敵と見なしていたし、事実命を奪われかけた事さえある。しかし、それは全て自分の都合だった。ナギの都合ではないし、何れ相対するのに相応しい時が来る。それまでは、情けなくてもやり過ごすのが妥当だ。だからこそ、これまで正面切って争うようなことは避けていた。さらに今がその時ではないと分かってはいたのだが……限界だった。ゾナは叫んだ。


 「ウィウの気持ちを考えてやれ!何様のつもりだ。彼は人間だ!彼を使って実験するのはやめろ!」


 老ナギは大きな背中を曲げてゆっくりとゾナに向きなおり、言った。


 「……アレはワシがワシの術でこの世界に作り上げたのじゃ。虚ろな魂の複合体とその器に過ぎん。人どころか生き物とさえ呼べぬ、ワシの所有物なのじゃよ。ただの使い捨ての道具にすぎぬ。……そして、年長者と力ある者には敬意を払うのじゃ、青年よ。両方を 兼ね備える者には、尚更じゃ。」


 言い終わると同時に老ナギは真っすぐ背を延ばし、頭を天井にこすりつけ、ゾナの事を見下ろした。フードの中の顔は闇そのものとなり、瞳だけが月色に輝いている。苦しむウィウと恐れるナギをかばうようにしてゾナは彼らを背に老ナギと向かい合った。


 「俺は認めない。他人を踏みにじって生きるやり方は。」


 「……愚かな。」


 老ナギが呟くとともに、彼の身体は膨張し始め、頭皮をつきやぶり渦を巻く角が生え、体中をつややかな黒い体毛が覆った。一瞬の変容だった。この変容の速さは、老ナギのエネルギーの充実を意味していた。前回のララコの来襲時に吸収した邪悪なマイトで、老ナギの力はかつて無いほどに高まっていたのだ。自身の内部にたぎる黒い力を感じ、満足の笑みを浮かべる。今なら、誰も彼もが取るに足りぬ。老ナギは術者として、ひとつ上のランクに上がったのを感じた。大魔術師の域を越え、魔法使い……世界の摂理を曲げる力を持つ者……の力を保有していると実感した。ウィウもゾナもナギもウルスハークファントでさえ、脅威とは成り得ない。背中で天井を突きやぶらんばかりの老ナギは、ふしくれだった鉤爪を一本差し出し、ゾナに向ける。


 「……いい加減飽き飽きするのぅ。しね。不要じゃ。」


 ナギが悲鳴を上げる。


 「やぁ、やめて!彼を殺さないで!魂を奪わないで!」


 ふむ。と一瞬だけ、長い付き合いの優秀な弟子に目を向けた。彼女は、賢く美しく若く しかも才能にあふれていた。アヴァローに襲撃され火をかけられた混乱の町角で初めてナギに出会った時のこと思い出した。あのころはまだ”凪”ではなくただの少女だった。 幼かったが既に今の面影はあった。強く美しい芯を既に持っていた。以後、娘のように大切に術を教え込み、いつか自分の後を継がせようと考えていた。その愛弟子に裏切られた訳だ。たった今。彼女はワシのやり方に全く反対なのじゃから。ま、既に分かり切った事ではあったが。ナギの父親を殺した時点で。


 「では、貴様からじゃ。」


 老ナギはナギの丸い胸を指さし……そうするつもりで、即死の術を唱えようとした。ゾナが飛びかかる。軽く羊魔老ナギは巨大な拳を振るいゾナを吹き飛ばした。冷静さを欠いていたゾナには何が起こったのか見極めがつかなかった。飛びかかった次の瞬間には、跳ね飛ばされ、テーブルを突き倒して、部屋の反対側に叩きつけられていた。自分の未熟さに舌打ちする暇さえ無かった。視界が真っ白になり、激痛がゾナを突き抜けた。唇が大きく裂け、血があふれ出した。立ち上がることはおろか、呼吸をすることさえ叶わなかった。 目眩の収まらないゾナを放置し、老ナギは邪悪な縦に潰れた瞳に魔性の光を灯らせ、ナギを、分裂し霧散しようとするウィウを、見下ろした。ウルスハークファントは唸りながら、 ゆっくりとナギを取り囲む。体側面に並ぶ牙を震わせぎらつかせている。

 ナギは一瞬で天秤が大きく老ナギ側へと傾いたのを感じた。ただそれだけで、頭の中は真っ白なままで……長年、練り上げて来た老ナギを倒すための一つ一つの階段を見失ってしまっていた。


 ……何をすればいいのだろう?何をするべきなんだろう?何をするつもりだったのかな?何が出来ると妄想していたんだろう?あたしは?


 もはや成すべきことは霧散し、流れ去って行ったのだ。全ては霞の向こうに。


 ……死ぬんだ。みんな。


 冷たい感情が沸き上がった。そこで、ナギの思考は完全に停止した。ゾナはまだ、失神寸前の光の際にいる。ウィウは、ウィウは……もはや、人の外観から逸脱し始めていた。 無限に折り重なる悲鳴の声色が、魂もまた同じく変容し始めていることを示唆していた。


 ふうぅぅぅぅむ。


 と、老ナギは独りごちた。取るにたりんのぅ。羊魔老ナギは、下らないこれらの雑事に 一気に蹴りをつけようと、マイトを練り上げる。今のマイトの充実度からすれば、幼龍のブレスなどでは、火傷ひとつ負わないだろう。羊魔老ナギは鉤爪を突き出し、ルーンを切ろうと……世界が瞬いた。羊魔老ナギの動きが止まった。月がウィンクしたかのようだ。


 目眩?

 いや違う。

 それはあり得ぬ。

 では……?


 完全なる静寂がもたらす耳鳴りが世界にこだましていた。肉体が分裂し続けるウィウは震えもだる。窓の外では草原が風に揺れている。ナギとゾナが口をぱくつかせ、何かを訴えかけている。

 しかし、静寂。

 沈黙の悲鳴が耳なりとなり、頭蓋の中で響いている。老ナギは、突如として、このシチュエーションの意味するところを理解した。老ナギは白い息を吐きながら慌てて窓にかけより、冷たく輝く月を見上げた。全ての行動は、悪夢の中を泳ぐ時の様にゆっくりと感じられた。

 羊魔が見上げる空には何も無く……いや、いた……飛んでいた。落ちてくる。そう、ここに向かって。月と重なる黒い染みはどんどん大きくなり、月を自分の陰でかくしてしまう。

 老ナギは、感激で声が出なかった。


 ……ついに、選ばれたのだ。


 世界の根幹たる忌み神に。

 八つの大神を生み出した創造神に。

 名を呼ぶことさえ禁忌とされる無名神タブーに。

 そう、耳を引き裂く静寂と共に数々の神話に現れ神託を下してきた、忌み神の御使い” 告げ鳥”が今、ここに舞い降りようとしている。告げ鳥の現れるところに伝説が生まれる。 スフィクスもロッカもジルドラも、ララコでさえ、告げ鳥の神託に耳を傾け運命を学び、 大魔法使いとなったのだ。全ての伝説の最初にそれは位置する。告げ鳥の囁きが神話を生むのだ。月に浮かんだ黒いシルエットは徐々に大きくなり、すでにその形を識別出来る大きさとなっていた。


 梟。


 それが告げ鳥の姿だった。

 まだ、その細部まで確認することは出来なかったが、それが放つ、人外のマイトを感じ取り、老ナギは歓喜と畏怖の念に押されて、月光にあふれ返る窓から後ずさった。そのままよろけるように後退し、壁に背を打ち付けて膝をついた。黒い羊魔の口元からは唾液が零れていた。


 ……ついに、ついにワシがタブーに選ばれたのじゃ。後天的な現人神として……ああ、 ワシの長すぎる人生は無意味では無かったのじゃ。誰ひとりとして愛してくれることの無かった、ワシの人生にも意味があったのじゃ。長い、長い間、蓄え続けた魔力がついに一 線を越えたのじゃ。人の垣根を越え、伝説の域に達したのじゃ……忌み神がついにそれを 認めたのじゃ……。


 完全なる静寂の悲鳴が鳴り響く中、苦しみ震えるウィウとかばうゾナ。そして、老ナギのほかに唯一現状を理解しているナギ。ウルスハークファントは、突然の静寂に体毛を逆立てて音にならない唸り声を上げている。

 心の中で忌み神への忠誠と自身への賛美を繰り返す老ナギの目の前に”告げ鳥”が舞い降りる。それは、狭い窓からアメーバの様にずるり、と侵入した。

 体高3トール。

 巨大な梟だった。

 ちょうど羊魔の老ナギと同じくらいの高さだった。しかし、その圧力は断然勝っている。 単純に体積が大きいだけでは無く、無尽蔵にあふれ出るマイトのせいでも無く、その風貌に因るところが大きかった。

 巨大な人面を持つ梟だった。身体の前面すべてが顔であり、薄ら黄色い皮膚が不気味だった。ララコを彷彿とさせる巨大な真円の瞳が、真っすぐに神託をぶつける相手を見据えていた。梟独特の不気味な位置にある耳もまた人のそれだった。巨大な嘴のような鼻。純白の非のうちどころの無い歯……告げ鳥は梟独特の首を傾げる仕草を呪文めいた単調さを持って繰り返す。そして、声を発した。美声のカラスを想像させるその慇懃無礼な声だけが静寂の嵐を突き破り、その場にいた矮小なる存在に届く。


 ワー……ワ。

 ワレー……ハ……ワレ……ハ


 少し吃り、その後はお経を想わせる単調さで、最後まで一気に言い切った。


 ワレハ……ツゲル。

 ワレハ、ツゲドリナリ。

 ユイイツシンノダイベンシャ、ナリ。


 気が狂いそうな、鋭く腐敗した声色だった。ナギは、ウィウの耳を塞いでやり、ゾナはナギの耳を塞いでやった。聞いていれば気が狂うと感じての、とっさの行動だった。


 ……或いは、運命。


 そう、告げ鳥は、選ばれた者の前だけで運命を告げる。老ナギは跪き心臓の上に右腕をおく、服従の姿勢をとった。サイレンのような静寂の中、告げ鳥だけが声を轟かす。老ナギはその宣告の内容に、魂が砕けるのを感じた。


 セカイノシンガリヲ、オサメルモノヨ。

 ムリョクニシテ、タイヨウノカゴヲウケシモノヨ。

 コンジキノナモナキケンシヨ。


 ……ケンシ?……剣士じゃと?なんだ?何を言っている?


 ワレハツゲル。


 ……ここに、今この場に、ワシ以外に力のある重要人物がいるとでも?誤解だ。違う。 聞いてくれ。ワシこそが相応しいのじゃ。ワシだけが相応しいのじゃ。

 そして、老ナギも自身の声にかき消され、告げ鳥の神託はとぎれとぎれにしか耳に届かなかった。今、その声をはっきりと聞いているのはゾナだけだった。そして、これこそが 運命の為せる業。各自の自発的行為により、神託を聞き手を選択したのだ。


 ワレハツゲル。


 ……ちょっとまて。ワシでは無いのか?違うのか?


 ワレハツゲル。


 ……ありえん!みとめぬ!何をいまさら言っているのじゃ?


 ワレハツゲル。

 ヒカリトトモニ。

 コドクデアレ。

 タマシイノオモムクママニ。


 老ナギは体中の淀んだ血液が沸きたぎり、逆流するのを感じた。既に告げ鳥が何を言っているのか全く聞き取れなかった。


 ルロウノケンシヨ。

 ヒカリトトモニ。

 コドクデアレ。


 ショコウニツツマレルトキ。

 メヲヒラクベシ。

 テヲヒラクベシ。

 シヲヒラクベシ。

 クロキカゼヲハライヒカリトトモニ、サレ。


 セカイガクダケルトキ。

 セキボクノモリニ。

  キボウハアラワレル。


 ルロウノケンシヨ。

  ココロノオモムクママニアレ。


 ワレハツゲル。

 レキシヲツゲル。

 ツゲドリナリ。


 ルロウノケンシヨ。

 コドクデアレ。

 ヒカリトトモニ。

 ……アレ。


 告げ鳥は、言い終わると満足そうに、長すぎる人間の舌で毛繕いを始めた。人語を理解する使い魔に見えない自然な鳥の仕草だった。そして周囲から沈黙の世界が去って行くのが感じられた。伝説の一幕が終わったのだ。老ナギは突然笑い出し……それが収まると、冷徹に呟いた。


 「……ふぅぅぅぅぅむ。なるほどなるほど。実に。実に実に実に実に実に興味深い。」


  穏やかな笑顔と共に暖かな声を吐き出したかと思うと、唐突に羊魔老ナギは叫んだ。


 「ふざけるな!ありえぬ!絶対に!絶対!絶対にありえぬ!!みとめぬぞ。みとめぬ!!」


 老ナギはルーンをきり、式を唱えて告げ鳥を指さした。先程まで心酔し、深く頭を垂れていた相手に。

 告げ鳥は閃光に包まれ、一瞬にして膨張し、甲高い悲鳴と共に吹き飛んだ。告げ鳥の肉片が部屋中に撒き散らされ、辺り一面が血の霧で覆われる。闇夜が一瞬にして明るくなる。


 「何が告げ鳥じゃ!何がタブーじゃ!ワシが!この、ワシがぁぁぁぁあああああぁぁぁ ぁぁあああああ!!」


 ゾナは身構え、ナギは意識の途切れかかったウィウを抱き締め庇った。ウルスハークファントはそのナギの周囲にトグロ巻き唸る。闇の中からファントの嘶きが響いてくる。そう、その全てが老ナギの狂った神経を逆なでた。


 「では、教えてやろう!ワシが全てじゃ!ワシがこの辺境の町リガそのものなのじゃ。 嘗めるでないぞ、コワッパ!!たかだか梟に誉めそやされた程度でな!」


 老ナギはゾナを指さし、死の言霊を投げかけた。


 ……ふぅむ・ほぉぉむ・そぉぉ・そらん・さかなん・そなたん・そあそなそ


 ぼきりと音を立てて、老ナギの節くれだった指先から、黒い稲光がほとばしる。それは、 いつも用いる魂剥の術などではなく、滅魂クァ・ゴーンの術だった。その黒い稲光を身体に浴びれば、 魂は燃え尽きて死ぬ。二度と生まれ変わることもなく、永久の闇の中でさまよい続けるのだ。

 悲鳴を上げる、ナギ。

 しかし、ゾナは白銀の大剣でその稲光を跳ね返した。純度の低い銀でコーティングされた安物の大剣で。跳ね返った呪詛は老ナギを直撃し、背面の壁へと吹き飛ばした。叩きつけられ、呪詛が精神の奥深くに浸透しようとしているのを感じた老ナギは、霧散の術を使い全てのマイトを吹き払った。怒り狂った老ナギは何も言わず続けて術をゾナに投げ付け た。落雷と積熱の術を。

 風祓いの歪んだ塔を上部から打ち抜き、ゾナに向かい白熱した稲光が天空より落ち、積み重ね圧縮された超高熱が炸裂する。

 

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