　とてもありがたいことに、既にチャットコメント欄には待機という一言を残してくれている人が見られる。それは今日の配信を待っている方々がちゃんと居るって証明。こんなに嬉しくて、安堵も出来る瞬間ってそうそう無いよね。

　そうこうして、北ノ内　べいかがオロオロとしながらも画面に表示された姿を確認して、そっと一呼吸挟み、私はみんなへの挨拶から入る。

『はいっ、こんにちは北ノ内　べいかです。みなさんいかがお過ごしでしょうか？　ちなみに私はすこぶる元気です。どれくらい元気なのかって言うと、ドイツパンのヴァイツェンブロートを丸まま一つペロリと平らげることが出来たくらいで……んー多分伝わらないよね……ごめん、独り言だと思ってね——』

　ヴァイツェンブロートはいわゆるドイツ版のホワイトブレッド、つまりは白パン。日本で言うところの食パンにも該当する。その当国ではライ麦をふんだんに使用した黒パンが多い印象だけど、このヴァイツェンブロートは小麦の比率が高いパンの種類だ。

　気まぐれに立ち寄ったパン屋さんのフェアで衝動買いしたのまでは珍しくも無いけど、その日は私の家族が急な野暮用で帰りが遅く晩御飯も作れなくなり、仕方なく購入したパンを一切れずつ分けたあとに食べながら、のんびりと【バーチャルベース】の人気配信者をチェックしていた。すると数日に分ける予定のヴァイツェンブロートが紙袋から無くなってしまった。理解しやすく例えるなら食パン一斤をその場で食べ終えたのと同じくらいかな……いや流石に小さいかな？　まあどちらにせよ、私の身体のどこにそんな胃袋があるんだってビックリしたもんね。別にストレスやホルモンバランスの乱れもないはずなのに、ナチュラルに暴食レベルのことをしてるから恐ろしい。

　そんなエピソードトークだったんだけど、私の近況を配信開始早々聴かされてもみんな困惑するか……ここは潔く話題を切り替えよう。結局何が言いたかったというと、私の健康状態は問題ないよって、伝われば良いんだし。

『——ええと先に言っておくと、今日の配信はPC環境の問題で短くなるかもです、ご了承ください。さてと気を取り直して、今回はね、いつもののーんびりしている私とは違うんだよ。もう正確無比っ、冷徹無情のハードボイルドな慈悲皆無のエイムが炸裂っ……出来たらいいなーと思っています。完全な初心者ガンナーですが、温かい目で視て頂けたら幸いです』

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フラ太郎　〈こんにちは〉

狐っ子　〈始まった！〉

ペンシル　〈お初です〉

フラ太郎　〈了解です〉

狐っ子　〈はーい〉

ペンシル　〈よろしくお願いします〉

ペンシル　〈SNSから飛んできました〉

みたらし団欒　〈お久しぶりです、こんにちは（前回配信日時に別件があってリアタイ出来なかったです。ちなみにその回はアーカイブで確認しました）〉

フラ太郎　〈いきなりパン好きが表面化してるね〉

狐っ子　〈今日はシューティングゲームでしたね。べーちゃんの腕前がどんなものなのか楽しみー〉

オウダイ　〈FPSをすると聴いて馳せ参じました。しかもSNSに書いてあったゲームタイトルをよくプレイするので気になります〉

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『はい、こんにちはっ。あっ初めまして、SNSからですか……私こそよろしくお願いします。ああとーお久しぶり……なのかな？　別件があるのはもう仕方ないことだよ、私の配信よりプライベートが優先なのは当然だから……でも、ご多忙の中アーカイブのご視聴ありがとうございますっ、とても励みになってますよ。えー……パンが大好きですっ……が、最初から気持ちを飛ばし過ぎましたね、あはは……うんっ、ジャンルはFPS……ファーストパーソン・シューティングアクションゲーム、一人称視点の銃撃ゲーム……バトルロワイヤル、略してバトロワになります。腕前はさっき散々それっぽい感じ出しましたけど、生粋の初心者です……おおっ、もうこのゲームの先輩がいますね。あっそうだSNSには告知したけど、まだタイトルを配信で言ってなかったね。待ってて、すぐに準備するからねー』

　そう断りを入れてから私は、相変わらずのダンボール箱だらけの部屋でぼんやりしている北ノ内　べいかが映される背景を、そのFPSゲームのカスタム画面に差し替える。するとポニーテールで白のタンクトップにハーフパンツという軽装の女性が画面上に現れる。この人を私が動かすことになる。その戦場慣れしたような勇ましさと、画面端にまったりと佇む北ノ内　べいかとのギャップが激しいけど、これでようやくゲームタイトルが分かりやすくなるはずだ。

『うん、準備出来ました。今回プレイするゲームのタイトルは【ランラン・アンド・ガンガン　オルタナティブ】。まだ発売からそんなに経過していない新作FPSゲーム。しかもタイトルが擬音の感じから、ある程度察しが付くかもしれませんが、これ日本製なんですよ。基本FPSといえば海外製の方が多くて人気もあるらしくて、私が初めてプレイしたFPSもそうなんですけど、折角だし日本の、私が配信を始めた時期と近しい作品をやりたいなと選ばせて貰いました』

　配信にのせるゲームの選択基準はまず、ちゃんとガイドラインに沿えそうなこと、私がやりたいゲームだというのが大前提で、さらに加えて私にゆかりがあるゲームから選ぼうと考えている。

　今回の場合は双方の配信開始時期が近いこと、そして前回のゲーム配信である【牧場自給ヒストリー】がストーリー系であり、まだ途中でもあることから、ストーリー性が殆どない対極のアクションタイトルなら混在し難いしいいなと、【ランラン・アンド・ガンガン　オルタナティブ】に決めた。とにかく、ドキドキだね。