第37話 瑠璃だけに見える術式?
「ルートを指定するような術式があるはずだ。探すぞ」
「探してどうするんだい?」
「そいつを逆に辿れば入り口に通じているはずだ」
おそらく受付で何かの術式をいじって、入った人間を案内するようになっているはずだ。その術式が見つかれば一気に出口への道がわかる。
「で、どうやって探すの? 聖魔法で組まれた術式だとしたら、聖魔法だらけのこの次元牢の中から探すのは困難だよ。秋の森の中で赤い紙切れを探すようなものじゃない?」
「んなことはわかってる。どうするかはこれからの話だ」
透輝の指摘はまさにその通りだ。方法は決まったが、それを実現するにはどうするかはまったく見えていなかった。
「うーん、これじゃないですか?」
瑠璃が十字路の中央を指差す。そこに何があるのか俺には見えない。
「透輝はわかるか?」
「いや、全然。本当に瑠璃には見えてるの?」
「ほら、ここに曲がった矢印があって。それがさっき動いたんです。こっち向きからこっちに」
そう言いながら、瑠璃は俺たちが来た方向から左回りに指を動かした。瑠璃の説明を聞いてもう一度中央の床を見てみるが、やっぱりわからない。
聖魔法の
「でもなんで瑠璃が読める? 聖魔法使いなら読める可能性もあるが」
「そんな話はここを無事に出られてからでいい。瑠璃、案内して」
「わかりました! ボクにお任せください!」
言うが早いか瑠璃は迷いのない動きで走り出す。矢印が見えているというのは本当のことらしい。俺は瑠璃の背中を追いかけながら何度も床を睨みつけてみたが、やっぱりわからなかった。
「見えた。あれが入り口だ」
あれだけ迷っていたはずの次元牢だったのに、ほんの数分走っただけで出口が見えてきた。敵襲に備えて俺と透輝は魔法を用意する。ここから出たら今までの分まで全部ぶっ放してやる。
一気に開けた場所に飛び出すと同時に、魔法の矢が降り注いだ。
「まったく魔法警察はバカの一つ覚えだな」
取り囲んで、待ち伏せして、数撃ちゃ当たる、の感覚で魔法を同時に放つ。つまりは広範囲に攻撃をバラまけば勝手に相討ちになってくれる。
「
「
紅白の刃が交差する。降り注いだ魔法の矢が消滅する。瞬時に攻撃をかき消された魔法警察の部隊にわずかな動揺が走った。
「ほら、さっさと散れ。次元牢から出てきた恐ろしい闇魔法使いだぞ?」
「うわぁ、脅し文句が小学生みたい」
「お前みたいにすぐ人に向かって殺すとか言わねえんだよ」
俺と透輝が言い合っている間もビビった警察の壁が引いていく。エントランスの広い壁に張りつくように周囲をぐるりと囲まれた状態。だが、牢屋に入っていたときと比べれば楽勝だ。殺さないように気をつけながら突破口を開くだけ。いつもやっていることだった。
相手の魔法警察には聖魔法使いが混じっている。さっきの魔法の矢、俺の魔法が一部かき消されていた。透輝がいたからなんとかなったが、ハッタリは一度しか通用しないぞ。
「危うく取り逃すところだったぞ。やってくれたな、風祭の」
俺たちの目の前に急に炎が燃え上がる。その中からあの小さなキツネ耳がのぞく。珠緒が特徴的な釣り目をさらに釣りあげて、透輝の顔を睨んでいた。
「私はこの男に脅されて協力させられているだけですよ。変な言いがかりはやめてほしいですね」
「とぼけるな! そちが動くとは計算外じゃったわ。しかし、どうしてここがわかった。わらわと近しい数人の実力者しかここは知らぬはず。
小さい体を必死に大きく見せながらすごむ。ここまでならかわいいものだが、一気に戦況は悪くなっていた。俺と透輝、二人で相手しても敵うかどうか。しかもこっちには瑠璃もいる。
「透輝、瑠璃を連れて逃げろ。隙くらいは作ってやる」
「なめるなよ、小童が! やれ、闇魔法は聖魔法の前には無力。そちがどう喚こうとも赤子にも満たぬ」
珠緒の号令が響く。さっきまでうろたえていた魔法警察の迷いが消える。統率のとれた国家機関に戻っていく。見た目はガキでも四秀家一の古株にして、政治に大きな力を持つ火狐家の当主。カリスマの言葉一つで集団から恐怖を取り除くとは。
「まったく闇魔法っていうのは肝心なところで役に立たないね」
「魔法警察が聖魔法使い集めてるのが悪いんだよ。別に魔法なしでもある程度は戦える」
「ま、私は君とは違うから。準備は万端だけどね」
透輝は不敵に笑う。右手を挙げて指を鳴らすと、天井に張りつくように隠れていた影が飛び降りてくる。
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