第3話 連続の連続

いくら保育器の中で除菌状態でミルクを与えられ、ふっくらしたとはいえ超未熟から未熟になった頃、恐る恐るの退院となった。

親戚と後日対面した時には、片手のひらに乗るくらいだ!と大変驚かれたそうだ。

レクチャーを受けたと言っても、ほんの1週間位正味数時間と、育児指導も現在ほど充実した内容ではなかったようだ。

左手で頭と首を支えながら親指、薬指で両頬を押さえて、ティースプーンにミルクを1/3程すくって流し込もうとするが、両頬を押さえられて違和感があるのか舌で押し返してくる、何度も試みるうちに泣き声も加わり、息苦しいのかイヤイヤと顔を横に背け始める。ますます、ティースプーン1/3のミルクは1/4になり1/5、1/6・・・ほとんどが口からこぼれてゆく。


このままでは育たない!育てられない!殺してしまう!泣き疲れてスヤスヤと寝息を立て始める我が子に少し安堵し、そして不安のなかで自責の念が襲ってくる。自分が頑張らないでどうするんだ!と子供を抱きかかえてティースプーン1/3のミルクをこぼれても、いくらかでも口に流し込もうと繰り返す。泣き疲れて眠りの誘惑に支配されている我が子の口は頑固に閉じようとする。そうこうしているうちに母親にも疲れがきて・・・気づくと朝を迎えていた。我が子はスヤスヤと眠っている。鼻先に手をかざして、しっかりと呼吸しているか確認する。


睡眠が十分でない母親に、家事は容赦なくやってくる。我が子へのミルク、朝昼晩の食事、掃除・洗濯、食材の買い物・・・一つひとつが専業主婦としての役割で、繰り返される現実である。


休もうと思えば出来たであろう家事に手を抜けずに、連続のそのまた連続な毎日を戦い抜いた母親に子供も少しずつミルクを飲んでくれるようになる。何度も何度も負けずに繰り返した成果が出てきたのである。


どこかで、神様仏様が見てくれている・・・と母親は思ったそうだ。

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