第37話 大叔母様《ドロテア》との再会

私達は楽しそうにスキップするピピちゃんについて行く。ピピちゃんは近くの建物に入ろうとするが、入り口には警備の冒険者が立っていた。


あっ、敬礼している!?


ピピちゃんが彼らに手を振ると、警備の冒険者は笑顔で敬礼してピピちゃんを通してくれた。


建物に入ると受付のような場所に職員らしい女性が数人座っていたけど、みんなピピちゃんに笑顔で手を振っている。ピピちゃんも手を振り返して、受付に寄ることなく奥に進んでいく。


ロンダの研修施設の受付と同じね……。


ロンダの研修施設とほとんど同じ造りなので、私はこの建物が研修を受ける人のための受付だと気付いた。


ピピちゃん、スキップなのに走らないと追いつけないわね……。


私はまだ見覚えのある建物だから、ピピちゃんに何とかついて行くけど、シャル王女達はキョッロキョロと周りを見ているので遅れ気味であった。


「お姉ちゃん、早くぅ~!」


ピピちゃんが奥の階段の手前で止まり、私達に手招きをしながら声をかけてきた。


私はすぐに追いついたけど、シャル王女達は遅れていることに気付いて慌てて駆け出して追いついてきた。


「ピピちゃん早すぎるよぉ~」


「そお?」


相変わらずピピちゃんは自分の能力を自覚していないみたいね。十歳だから仕方ないと思うけど、身体能力は大人でも敵わないだろう。


テンマ先生と別行動になってから、私も自分なりに鍛えたつもりだったけど、ピピちゃんにはもう完全に勝てない気がする。

元々私は魔術の素質が高いけど、身体能力については素質が極端に低い。年齢的にピピちゃんとなんとか戦えていたけど、それももう無理だろう。


でも、魔術を組み合わせて戦えば勝機があるかな……。


そんなことを考えているとようやくシャル王女達が追い付いてきた。それを見てピピちゃんは階段を上り始める。


四階まで上がり、ピピちゃんの案内で一番奥の扉の前に到着する。どう見ても一番豪華そうな扉である。


ピピちゃんはノックすることなく扉を開いた。


「アーリンお姉ちゃんが遊びに来たよぉ~!」


「なんじゃと! それなら仕事をやめて歓迎するのじゃ!」


懐かしい大叔母様ドロテアの声が聞こえてきた。


中に入ると一番奥の机に大量の書類の山に囲まれた大叔母様ドロテアがいた。


「大叔母様、ようやくお会いできましたわ。お久しぶりでございます!」


「おおっ、アーリンも久しぶりじゃ! それにシャルロッテ王女まで一緒とは助かったのじゃ!」


え~と、私に会えたことより別の意味で嬉しそうなのかなぁ。


大叔母様ドロテアは自分の興味ある研究だと食事をするのを忘れて没頭するけど、ただの書類仕事は大嫌いだ。私達が来たことで、書類仕事から逃げ出せると喜んでいるように感じたのである。


「ふぅ~、少しだけ休憩にしますわ。でも机の上の書類は今日中に処理してもらいますからね」


テンマ先生達を訪ねたときに会ったマリアさんという女性が、疲れた表情で大叔母様ドロテアに釘を刺した。彼女は秘書のように横の机に座っていたのだけど、彼女の前にも書類が少しだけ山積みになっている。


「ドロテア様、マリア様、突然の訪問でごめんなさいね」


シャル王女も大叔母様ドロテアやマリアさんを知っているようで挨拶していた。


それから部屋の中にあった応接セットに移動して、久しぶりの再開の挨拶と学園の現状や学園の改革について相談を始める。


「そうなのか……確かにテックスの知識が登録され、それを学園で使わないのはもったいないのぉ」


大叔母様ドロテアは私の話を聞いて頷いて答えた。


「ですが学園でどこまで教えるのか検討する必要がありますわ。研修施設でも普通の住民で受けることのできる研修や、専門職で分けた研修、それに特別な研修も更にいくつかの段階で分けられていますわ」


「そうじゃのぉ、それに内容によっては『知識の部屋』の利用だけでなく、魔法契約をしないと教えられない知識もあるのじゃ。貴族は魔法契約を嫌がるからのぉ」


マリアさんと大叔母様ドロテアはすぐに私達のお願いに問題があることに気付いたようだ。


「その点を含めてしっかりと検討しないと、すぐには無理じゃろうのぉ」


「それにテンマさんにも話をしないとダメですわ。研修施設を私達に任せたぐらいですから、テンマさんが反対すると思いません。ですが話だけはしておかないと」


「そうじゃな。テンマがこんなことを気にするとは思えぬが、話だけはしないとな。アーリン、テンマの家に行って、自分で話をしておいてくれ。また私達の仕事が増える気がするのぉ……」


大叔母様ドロテアは遠い目をしてそう話した。


テンマ先生はロンダでも人に仕事を任していたわねぇ。


テンマ先生はある程度計画が進むと人に任せてしまう。別に無責任に放り出すわけではなく、テンマ先生は効率だけ考えているみたいだ。

本人も次々と新しいことを始めて、誰よりも仕事をしていた。


王都でも同じようなことをしているのね……。


「テンマさんの家には誰でも入れるわけではないですわ。アーリンさんはともかく、シャルロッテ王女殿下でも勝手に……」


マリアさんは困ったように話した。


そういえばテンマ先生の拠点に誰でも簡単に入れるわけではなかったわ。


先生の拠点は秘密も多く、安易に人を招待できるわけではない。


「まあシャルロッテだけなら魔法契約すれば大丈夫じゃろう」


大叔母様ドロテアは簡単に許可をしてくれたけど、私はロンダで同じようなことをして叱られたことを思い出して不安になる。


でもシャル王女一人だけだしね……。


従者の二人と護衛は王女だけといわれ、最初は反対していた。

しかし、私達がテンマ先生の家に訪問している間に研修施設の利用ができると聞くと、仕方ないと言いながら、嬉しそうに笑顔を見せ賛成したのである。



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