第30話 マザコンじゃん!
朝から久しぶりに学園に向かう。
問題なく学園に到着したのだけど、入学試験の時ほど人がいなくて、どこか寂しい雰囲気がした。
もしかして粛清された貴族家の生徒がいなくなったのかしら?
その予想は正しかったみたいで、学園の入口には受付が設けられ、改めてクラス分けを確認してから教室に入るように教師が指示していた。
「ロンダ准男爵家のアーリンです」
受付で自分のクラスを確認する。
「え~と、えっ、ロンダ准男爵……、あのぉロンダ子爵家ではありませんか?」
あぁ~、そういえばそんな話を聞いた気がするわ。
「ま、まだ准男爵だと思いますわ。年始の謁見で子爵家に陞爵すると聞いていますけど……」
ロンダ家は子爵への陞爵が内定したとお父様から話は聞いていた。
でも陞爵は来年からとなり、年始の国王陛下への謁見で国中の貴族の前で陞爵の儀がされるらしい。
「そうなのね……、でも学園ではすでにあなたを子爵家の生徒としてクラス分けをしたみたいね。どうせ陞爵まで一ヶ月もないからでしょう。だからロンダ子爵家のアーリンさんはAクラスで魔術Aコースになりますよ」
なんでAクラスなのよぉ~!
子爵としてクラス分けされたとしても普通ならBクラスのはず。伯爵家の人が多いAクラスではまだ准男爵家の私としては肩身が狭い。
でも文句を言ってもクラスを変えてもらえるとは思えないので、諦めてAクラスの教室に向かうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
教室に入るとまだ数人しか生徒は来ていなかった。どこに座れば良いのかとわからず、教室の後ろで立っていることにする。
すぐに教室に次々と生徒が入ってきたけど、どうみても上位の貴族家の生徒ばかりである。服装や装飾品なども明らかに身分が高そうな雰囲気で、従者っぽい生徒を連れている生徒もいた。
貴族は上位の貴族から声をかけるのが
ほとんどの生徒は私のことを訝し気に視線を向けてきたけど、話しかけてくる生徒はいなかった。
誰も私を知らないはずよねぇ~。
爵位も全然違うし、このクラスの生徒の大半は入学試験の実技試験など受けていないのだろう。伯爵クラスの貴族なら学園で成績を残すより、社交を優先しているはずだからだ。
これならシャル王女のいるSクラスのほうが良かったかも~!
まだ准男爵家の私としては、AクラスだろうとSクラスだろうと居心地が悪いのは同じにしか思えない。それならSクラスにはシャル王女や従者のドナやダニもいるから話し相手にはなってくれると思ったのである。
そんなことを考えていると、驚くことに声をかけられた。
「アーリンさん、Aクラスに来たみたいだね?」
え~と、この男子は誰かしら?
声をかけてきたのは、好感の持てる男子だった。それほど高位の貴族には見えないけど、嫌味のないシンプルで清潔感があった。
一緒に派手な感じの二人の女子を連れているのが減点だけどね……。
あれっ、でも見覚えのあるような気がする……。
一生懸命に思い出そうとして、挨拶するのを忘れていた。そんな私を見て彼は苦笑して名乗ってくれた。
「先日お会いしたラコリナ子爵家のマルコです」
「あの時のマザコン君! あっ」
し、しまったぁ~!
王都への移動中にラコリナ子爵の屋敷に滞在させてもらった。
その時に彼を紹介され、同じ年齢で私と同様に学園に行くと聞いていた。でも弟と一緒に母親にべたべたと甘えていたので、マザコン男子にしか思えず、秘かに心の中でマザコン君と呼んでいたのである。
マザコンと言われた本人も、私の予想外の返事に驚いて固まっている。代わりに横の女子が怒りの表情で前に出てきた。
「あなたはどちらの家のご令嬢かしら? 私はゴドウィン侯爵家のアルベッタですわ」
寄り親でもあるゴドウィン侯爵家のご令嬢!
「私はアルベッタの姪のイザベッタですわ。私達の縁戚でもあるマルコに失礼じゃありませんか?」
なんで同じ年の姪!
ゴドウィン侯爵家の当主も嫡男もお盛んで、沢山の側室がいることを思い出した。毎日のようにゴドウィン侯爵家から我が家の迎賓館にご夫人たちが訪問してきているけど、毎日違うご夫人だったのである。
それにしても
「わ、私はロンダ准男爵家のアーリンです。マルコさんとは先日お会いさせてもらいました。そのとき弟さんがラコリナ夫人に凄く甘えていたのが印象に残っていて、失礼なことを言ってしまいましたわ。どうかお許しください!」
弟君だけでなく、
マルコはマザコンが弟のことだと言われてホッとした表情になる。
「ああ、弟はまだ幼いので母に甘えているのですよ。学園に通う頃には落ち着くでしょう」
ああ、彼は自分がマザコンだとは思っていないみたいね。
「そ、そうですわね。それよりラコリナ夫人は聡明な女性で、私はあんな女性になりたいと思ってしまうほどでしたわ」
マザコンの件を誤魔化そうと話を逸らした。
「ハハハハ、僕も母のような女性と結婚したいと思っていますよ!」
ちょっとぉ~、完全に
もちろんそんなこと言えるはずない。
この教室にいる男子でどちらかというと好ましいと雰囲気がマルコにはあったけど……。
それだけではなく、なぜか教室の誰もが私達の会話に聞き耳を立てているのに気付いたのであった。
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