第11話 学園へ

王都に到着して五日ほど過ぎた。今日は学園の入学試験がある。


あれから何度もテンマ先生に会おうとして、大叔母様ドロテアも泊っている宿に行った。しかし、先生はダンジョンに行っているようで、いつも宿にいなかった。


お父様は忙しそうに毎日のように王宮に行き、お母様は仲の良い貴族家へ挨拶回りをしていた。お母様は挨拶から帰ってくると、挨拶に行った貴族家の夫人や令嬢も一緒に連れてきて、迎賓館を案内してお母様や祖母様が相手をしていた。

夫人や令嬢が帰る頃には見違えるほど綺麗になって上機嫌で帰っていった。


すでに噂を聞きつけた貴族家から、挨拶に伺いたいと申し込みが殺到していた。


お兄様はよそよそしかったのはあの日だけで、翌日から優しいお兄様に戻ったけど、訓練の相手はしてくれなかった。

毎日のように王宮に仕事に行き、夜返ってくるとロンダから一緒に来た騎士達と自分達だけで訓練をしている。

何度か一緒に訓練をしようとお願いしたけど、入学試験の準備が優先だと家族に止められてしまった。


でも学園の入学試験に貴族は落ちることはない。試験は能力によるクラス分けのためで、実力を確認するために実施されている。ただ実際は実力と関係なく爵位などである程度は分けられるらしい。


授業は自分で選ぶことができる。

必須科目もあるけど、入学試験で必須科目である程度の成績を残すと、必須科目は免除される。後は将来を考えて、領主などの施政者向けの授業や社交を中心とした授業、文官や騎士、魔術士用の授業などから選択して受けるのである。


貴族は幼いころから必須科目の内容は学んでいる。だから貴族家の者のほとんどが免除になる。だから多くの貴族にとって学園は貴族社会の交流を学ぶ場所になっている。


学園は貴族区画にあり、通学は徒歩でするように指示されていた。しかし、上位貴族は当然のように馬車で通学している。今もアーリンが徒歩で学園に向かっていたのだが、次々と高級そうな馬車が横を走り抜けていく。


魔術師としての勉強を頑張ろう!


私は魔術師らしい訓練をしたことがない。魔力感知や魔力制御の訓練はテンマ先生にやらされていたけど、身体強化を使いこなすためなのかと疑っていた。


魔術や魔法について、何も教えてくれてないじゃない!


王都に来てからテンマに会えず、昨日も宿に行ったけど先生はいなかった。ただ昨日は宿にマリアさんという女性がいて、先生から教本のようなものを預かってくれていた。


昨晩はその本を読んだけど、イメージが大切とか基本的なことしか書かれていなかった。最後のページには「自分で考え、検証して、実践する!」と書かれていた。


要するに先生は教えてくれないってことですわ!


思い出すと腹が立ってくる。その本の内容にも腹が立ったけど、それ以上に……。


マリアさんの胸は反則よぉ~!


同性の私でも会話をしながら、視線は自然に胸へいってしまう……。


お、大きいという次元じゃないわ!


人族にあれほどの胸が存在するとは思わなかった。驚くほど大きいのだけど形も良く、垂れてもいなかった。あの胸のために先生はあの宿に泊まっているのかと疑いたくなる。


でもマリアさんは大叔母様ドロテアの弟子のような存在で、冒険者として一緒に行動したこともあると祖母様から後で教えてもらった。お兄様からも王都で一番の冒険者パーティーの一人だとも教えてくれた。


ふ、ふんっ、冒険者に胸の大きさは関係ないわ!


昨日のことを思い出して心の中で叫んでしまったけど、なんだか虚しい……。


学園の門が見えてきたので気持ちを切り替える。

門を抜けると自分と同じように徒歩で学園に来ている人も多かった。予想以上の人数に圧倒されるような気持にもなったけど、同年代の友人を作れるのではないかと心が浮き立つのも感じていた。


学園の敷地内に入ると、教師らしい人や騎士のような人達もいて、学園の建物に向かうように声をかけていた。私は指示に従って建物に向かって歩き始めたが、他の生徒たちが動きを止めて、一斉に学園の入口に視線を向けていた。


私も振り返って入口に視線を向けると、王家の紋章の入った馬車が入ってくるのが見えた。


そういえば王女様も一緒に入学されるとお兄様が言っていたわね。


馬車はゆっくりと建物の前まで進み、玄関前には騎士が整列していた。試験を受けにきた生徒達も馬車に注目している。


私は王族とは関係ないと思って見るのをやめ、王女様とは別の入口へ向かって歩き始める。


ちょうど私が建物に入ろうとした時に、王女様が馬車から降りてくるのが見えた。


ま、負けたわ!


王女様はすでに完成された美しい容姿をしていた。気品と美しさがこれでもかと融合している。そしてなにより同じ年のはずなのに、あれほどの胸が……。


魔術師として冒険者を目指す私には、王女様は縁遠い存在だと分かっていたはずなのに、色々と負けた気になってしまった。


私は自分でも驚くほど落ち込みながら、学園の建物に入ったのである。



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