第49話

「絵里ちゃん、綺麗だね」

「むふふ、ありがと」

「美穂さんも凄い綺麗でドキドキします」

「ありがと」


 浴衣を着て、「はやくはやく」と絵里ちゃんに手を引かれて進みだす。


 今、僕たちは夏祭りに来ている。


 きっかけは、絵里ちゃんの花火を一緒に見たいという発言から、近くでしている花火大会に行くことになった。


「あ、私、りんご飴食べたい!」


 絵里ちゃんは楽しそうに屋台を見て回って、あっちこっちを駆け回っている。


「絵里が楽しそうで良かったわ」

「そうですね。僕も嬉しくなります」

「雪花お兄さん、射的やろう!」

「はいはい」


 この頃の絵里ちゃんは、外に出ても堂々としていて以前のようにおどおどしていることはない。


 あの一件から何か区切りがついたのかもしれない。


「あー、全然当たらない」

「僕も全然当たらないな」

「私、あのくまさんが欲しい」


 少し大きめなクマが、鎮座している。

 

 あれ、射的の球で落ちるのかなぁ。


 もう一発、弾を込めて狙ってみる。


 パンっと、音がして球が放たれる。


「少ししか動かない…」


 当たったけれど、少しだけしか動かない。


 射的屋のおじさんの目をじと目で見つけると、「ふんっ」といって顔をそらされる。


 むっ...........。


「もう一回、おじさん」

「400円な」


 別に、ムカついたからではない。...........決して。


 絵里ちゃんのため。


 別に、クマのぬいぐるみなんて買おうと思えば射的でする値段より安く買えるだろうけれど、そういうことじゃない。


 僕は、絵里ちゃんと思い出を作りたいんだ。


 何度か挑戦して、最後の一発。


 これで...........。


「やった!!」

「やったー!!」


 クマのぬいぐるみがやっと落ちて、景品ゲットだ!


「はい、絵里ちゃん」

「いいの?だって取ったの雪花お兄さんだよ?」

「僕は、絵里ちゃんのために取ったから」

「むふふ、これから毎日一緒にこの子と三人で寝ようね?」

「うん」


 絵里ちゃんが嬉しそうにクマのぬいぐるみを抱きかかえる。


「あ、でも..........」

「なに?」

「この子にはちょっと刺激が強いこともするから気を付けないとね?」

「なっ」


 そう耳元で囁いた絵里ちゃんは、いたずらが成功して笑っている。


 っと、ちょうどその時、花火が上がる。


「綺麗」

「綺麗」

「そうだね」


 去年よりもひと際綺麗に見える。


 来年はさらに綺麗に見えるのだろうか。


 ----------------------


 次は、美穂に焦点を当てます。


 

 

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