第40話 帰路

 ゴーシュラン王国を出てクラウスと森を抜けている最中、国王から預かった杖を大木のもとに返しに行った。


「この木がそうなのかい?」


「はい、パールとルチルに案内してもらったのです。この杖と同じ力を感じるんですよ」


「へえ、確かに不思議な雰囲気を感じるね」


 私が杖を木の根元に置くと、杖と木が共鳴するように光を放った。そして、しばらくすると杖は消えてしまった。


「これで大丈夫でしょう。木と一体化したので悪用される心配もありません。もう王国に聖女は誕生しないでしょう」


 この木は一体どのくらいの樹齢なのだろう。あの杖で一体何人の聖女が生み出されたのだろう。一体誰があの杖を作ったのだろう……。疑問は次々と湧き出てきたが、どれも答えを知る術はない。

 これ以上犠牲が出ないだけで良しとしよう。私に出来ることはこれくらいだ。


「そうか……じゃあリディアが最後の聖女なんだね」


「そうですね。国王もおっしゃっていましたが、聖女なんていない方が良いですから……さあ、帰りましょう」





 帰宅すると、ヘルマンさんとクリスティーナさんが温かく出迎えてくれた。元の姿に戻っている私を見て、安心したように微笑んでくれた。


「おかえり、無事終わったようだね」


「リディアちゃん、良い表情になったわね。とっても素敵よ。さあ、今日はもうゆっくり休みなさい」


「ありがとうございます。皆さんのおかげで、全て終わりました。なんとお礼を言えば良いのか……本当にありがとうございます」


「私たちは何もしていないわ。リディアちゃんが頑張ったからよ」


「そうとも。これからは自由に人生を歩むと良い」


 その日の夜はクリスティーナさんが用意してくれたご馳走と一緒に、ちょっとした祝杯をあげた。ここしばらくは重苦しい日が続いていたので、心から楽しんで食事をしたのは久しぶりだった。


(なんて楽しいのだろう! 何の心配もなくご飯が食べられるって幸せね)


 三人と一緒に過ごすことで、ようやく解放感や達成感が込み上げてきた。そうしているうちに、別の欲望が湧いてきていることにも気がついた。





 晩餐がお開きになったところで、私はクラウスを呼び止めた。


「クラウス、お話があるのですが……」


「なんだい?」


 緊張して喉が渇く。これから言おうとしていることは、クラウスを困らせるかもしれない。でも今伝えなければ、勇気がなくなってしまう気がした。


「クラウスがいてくれて良かったです。感謝の気持ちでいっぱいです。でも、それだけではなくて……好きになってしまったんです。これからもずっと傍にいても良いですか?」


 俯いて一息で捲し立てると、二人の間に沈黙が流れた。クラウスを困らせてしまったのだろう。弁明しようと顔をあげると、複雑な表情をしているクラウスと目が合った。


「まいったな、こっちから言おうと思っていたのに……。これじゃあ恰好がつかないよ。僕もリディアが好きだ。だから、これからもよろしく」


 赤くなったクラウスの顔がいつも以上に愛おしく見えて、思わず抱き着いた。


「良かった。よろしくお願いします……!」

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