第12話 ここで一緒に
「え?」
あまりに突拍子もない提案に、すぐ返事が返せなかった。
「今の話を聞いた限り、帝国に知り合いがいる訳でもなさそうだ。これからどうするつもりだい? 未成年の少女が一人で暮らしていくのは大変だよ。僕は君に返しきれないほどの恩がある。是非恩返しをさせてほしいんだ。……父さん母さん、良いだろ?」
ちらりとクリスティーナさんの方を見ると、目を輝かせて両手をぱちんと合わせた。
「それが良いわ! 部屋も余っているし。ね? そうしましょうよ、リディアちゃん」
(えぇ? クリスティーナさんも受け入れるの早すぎませんか?)
人ひとりを家に住まわせるという判断を、そう簡単にして良いのだろうか?
「クラウスにしては良い考えだな。ここなら安全に暮らせるし、何より我々が恩に報いる機会を得られるからな。リディアさん、どうだろう?」
ヘルマンさんは流石に止めるだろうと思っていたのに、まさかの賛成だった。
「私……よろしいのですか? こんな素性の怪しい者を置いてくださるなんて。私は悪人かもしれませんよ」
「リディアのことは、昨日今日でよく分かったよ。もし聖女の力のことが誰かに知られたら、利用されるかもしれないだろう? 僕たちなら君を守ってあげられる」
ご飯をご馳走してくれて、妖精についても色々教えてもらった。治癒の恩なんてとっくに返されていると思うが、まだ足りないと思っているらしい。もう十分すぎるのに……。
けれどクラウスの言う通り、私には行く当てがない。それに、期待の目で見つめられると断りにくかった。
「では、よろしくお願いします……」
こうして私はエルナンデス邸で暮らすことになった。
「昨晩使ってもらったお部屋をそのままリディアちゃんの部屋にすれば良いわよね。足りないものは明日買いに行きましょう!」
(急展開についていけない……)
「あの、生活費等はお支払いしますので……」
「ははは、何を言っているんだい? そんなもの必要ないよ。私達を家族だと思って良いのだからね」
「そうよ、私は娘が欲しかったの。リディアちゃんが嫌じゃなければ、お母様の代わりに頼ってちょうだいな」
「あ、ありがとうございます……よろしくお願いします」
涙で声が詰まってしまい、うまくお礼が言えなかった。こんなにも幸せで良いのだろうか。三人の好意が温かくて嬉しかった。
ルーファス様に落ち着いたと手紙でも出そうかしら? と頭をよぎったけれど、同時にシャーロット様の言葉も思い出した。
『絶対に戻って来てはいけません。お兄様のことも忘れてください。お願いします』
どうしてルーファス様のことを忘れろなんて……。もしかしたらシャーロット様は、今回のことを何かご存知なのかもしれない。
(森でシャーロット様のお守りが守ってくれたし、信じた方が良いのかもしれないわ。とりあえず、手紙を出すのは控えよう)
やっと平穏を手に入れられそうなのに、また混沌とした陰謀に巻き込まれるのは御免だ。
ルーファス様には悪いけれど、もう少し状況が良くなるまでは下手に動かないでいよう。
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