第8話 バイクで、敵の拠点を襲撃

「飛行機能があるじゃん。それではダメかい?」


 ニョンゴは「いいけど」といいつつ、疑問を口にする。


「移動も戦闘も、動力がスーツに依存しているんだ。パワーを使いすぎる」


 実際、スーツの負荷がシャレになっていない。


「それもそうだね。パワーがありあまり過ぎていて、気づかなかったよ」


 ニョンゴはどうも、パワープレイに頼りすぎるきらいがある。エネルギーが無尽蔵すぎて、ガス欠を想定していないのだ。効率的に、乗り物を活用した方がいい気がする。


「といっても、魔力効率ってそんなに良くないよ? 素直に化石燃料を使ったほうがいいんだが、この世界でそれは望めないし」


 ヘタにガソリンを掘り出して、生態系ぶっ壊すわけにもいかないからな。こんな世界に、ガソリン自体があるとは思えないし。


「動力に関しては、任せる馬車やらなんやらを取り込んで、オレにも高速移動が可能なマシンを作ってもらいたい」

「オッケー」


 骨格さえあれば、魔物の素材でどうにかできるだろう、とのことである。


「動力に関しては、ちょっと可能性があるんだよね」


 それは楽しみだ。

 

 今度は、装備品を確認する。


 武器屋に通された。


「では、こちらでアイテム一式を」

「わかった」


 オレは、出せるだけの素材を、武器屋に提供する。


 フローレンス姫どころか、経営者のデブいおっさんまでもが目を丸くした。


「なんだコイツは? 戦争でもしたってのか?」

「いいや。一方的な虐殺だな」


 とりあえず、素材を買い取ってもらう。 パワードスーツの強化に必要な素材は、リストから抜いてある。それでも、結構な金額になるらしい。


「すまんが、金がない。現物支給でいいかな?」

「構わん。そのつもりだった」


 この世界のヨロイも、見せてもらう。特に関節部分などがどうなっているか、研究しておきたい。知識があるかどうかは、スーツの出来に左右する。


 魔法処理を施した、レザーアーマーを見つけた。


 ジーンが着ているような、ビキニアーマーまで。


「マジックアーマーか。こんなもんまであるんだな」


 他のヨロイは重くて、両手でも担ぐのがやっとである。その点、マジックアーマーはバスタオルくらいに軽い。それで、鉄と同じ強度だという。もっとも、普通のヨロイより高価だが。


「魔女様の恩恵さ」


 自分も非力なエルフだからと、ニョンゴは女子どもでも扱える装備を作っていたという。 


「エンプーサのカマまで。こんなのもらっていいのか?」

「存分に、活用してくれ」

「ありがたいが、これはウチで加工はムリだ。よその街で面倒を見てもらいな。ライコネンよりデカイ街だと、王都とか。そこには、ドワーフがいるぜ」

「わかった。王都の安全を確保しよう」


 まずは、砦であるライコネン奪還だな。


 モンスターの肉類は、無料にした。


「いいのか? モンスターの肉って高級品だぜ?」

「オレには必要ない。素材のついでとして、買い取ってくれ」

「ありがてえ。こっちで食う量以外は、商業ギルドに分けておくよ。あと、全部はいらん。あんたが食える分は残しておくさ」

「助かる」

「王都や他国にも分けてやりたいんだが、流通ルートはすべて魔物に抑えられていて」


 魔物のせいで、物流面がすべてストップしているらしい。


「わかった。なんとかする」



 いろいろなやり取りをしているうちに、乗り物が完成したとか。


「フーッフフフ。どうだい? 見てくれよ!」

「こいつは、またヤバい機体を」


 ニョンゴが開発したのは、バイクだった。それも、「超必殺技を使わざるを得ない」といいたくなるような、いかついデザインである。


「キミ一人で活動するなら、こっちかなと」


 金属部分はヨロイから、外装はモンスターの甲殻から取り入れたらしい。タイヤは蜘蛛の糸を活用したのか。表面の溝まで、ちゃんと考えてあるデザインだ。


「シートがムカデの胴体とか。気持ち悪いな」

「もちろん、中身はないよ。シート部分にはクモの糸を使って、クッションを作ったよ」


 見た目だけでもバイクになっているが、動くのかよ?


「ていうか、オイルを入れるタンクはどこだよ?」


 空っぽどころか、タンクそのものがない。


「ワタシが燃料になろう。どっこいしょ、っと」


 ニョンゴの招き猫ドローンが、オイルタンクのある場所に収まる。


「エンジンが動き出したぞ」

「このドローンから、ワタシの魔力をバイクに送り込んで、動力に変えるのだ」


 まさか、異世界でバイクに乗れるとは。


 フローレンスとジーンが、不思議そうな顔をしている。


「じゃあ、ちょっくら試運転に行ってくる」

「お供します」

「やめておけ。スピードについてこられないかもしれん。それに、あんたらを危険に晒すわけには」

「民を放っておいて逃げたままでは、王女を名乗れません」


 姫の決意は堅い。


「……ニョンゴ、姫さんの分の荷台を用意しておいてくれ。できるだけ、安全なやつ」


 オレの言葉を聞いて、姫の目が明るくなった。


「ありがとうございます」

「だが、今はダメだ。試し乗りをして、調節してからになる」

「構いません」

「行ってくる」


 本当に、二日より短縮できるだろうか。


 アクセルを吹かし、前進する。


「これは、早い!」


 目の前に何もないから、ぶっ飛ばし放題だ。


「えっとね、ここから東に行ったところに三つ、砦のようなものがある。そこが、ライコネンの流通を封じている場所だよ」


 ライコネンを孤立させるため、建てた砦だろう。


「マジか。あの岩砦か?」


 もう、敵の砦が見えてきた。道を塞ぐように建っている。アレが、流通を阻害しているヤツらか。まだ一〇分も走っていないぜ。距離的に、馬車で半日はかかるのに。


「なんだアレは!?」


 魔物たちが、こちらに気づく。オークや鬼族だ。


 武装する手間すら与えず、オレは銃で撃退する。魔法で防御されていたが、すべて撃ち抜いた。


「車にしておけば、よかったね。人を乗せることを、想定していなかった」


 後ろに、シートもないしな。あったとしても、振り落とされるだろう。


「バイクには、バイクのよさがあるさ」


 すぐさま、二箇所目へ。ここも同じ魔物ばかりだった。


 最後のルートは、王都とライコネンを直接つなぐエリアである。


「今度はデカいな!」


 現れたのは、石でできた五メートルくらいのゴーレムだ。それにしても、オレがいた世界のロボットそっくりじゃないか。悪役として出てきそうなデザインである。


「あんなゴーレムを作る技術なんてあったのか!」

「なんでもいい。やっつける!」


 ゴーレムが、こちらに気づいた。のけぞりながら、大きく腕を振り上げる。


「そんなチンタラパンチが、当たるかよ!」


 バイクを寝かせて、地面スレスレを滑らせた。ゴーレムのパンチをギリギリで避ける。


「コイツは、バイクテクの見せ所だな」


 オレは、バイクでゴーレムの背中を駆け抜けた。


 背中を走るオレを振りほどこうと、ゴーレムが身体を振る。


 ピッタリと張り付き、バイクは離れない。タイミングに合わせて、軌道を変える。


「クモの糸のおかげだな。全然振りほどかれない」


 しかし、遊んでばかりもいられない。ゴーレムを止めないと。


「ゴーレムの弱点は目だよ!」

「よっしゃ! 喰らえ!」


 マジックミサイルを、ありったけ食わせた。


 目どころか頭まで吹っ飛び、ゴーレムは沈黙する。


「やったぜ……ん?」


 山の向こうに、人影があった。天パの男性だ。この世界に似つかわしくない、グラサンと焦げ茶色の近代的な背広という出で立ち。それにあれは……。


「あいつもバイクに乗ってやがる」


 こちらに来るか、と思ったが、仮面の男はバイクで姿を消す。


「待て!」


 追いかけてみたが、相手は魔力の痕跡すら消していた。


「見失ったよ。ワタシの魔力探知にも、引っかからないなんて」

「厄介なやつが、現れたな」

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