第39話

 次の休みの朝。


「今日は複製せずに出かけるね」

 と、調理場に居たナザリーさんに言った。


「分かったわ。気を付けてね」

「はーい」


 何があるか分からないもんね。 


 クラークさんの部屋へと着くとノックをした。


「入っていいぞ」


 ドアを開け「お邪魔します」と、奥へと進む。


 クラークさんは椅子から立ち上がり「来たか」

 椅子の横に立てかけてあった剣を手に持つと「いくぞ」


「はい」


 部屋を出て遺跡へと向かう。

 

 草原の半分ぐらいでクラークさんが立ち止まる。


「少し休むか」

「いえ、慣れてきたので私は大丈夫ですよ」

「いや休んでおけ」


「え? どうしてです?」

「おそらく今日行く所は、雑魚ではなく、もっと強い魔物が潜んでいる」


 ゴクリッと唾を飲み込む。

 クラークさんにそこまで言わせる相手って、どんなやつ?

 私、大丈夫かしら……。


「分かりました。言われた通りにします」


 地面にペタンと座り、休憩する。

 クラークさんは真剣な眼差しで、遠くを見据えていた。


 10分ぐらい経っただろうか?


「そろそろ行くぞ」

 と、クラークさんが言って、歩きだす。


「はい」

 私は立ち上がると、クラークさんの後に続いた。


 遺跡に着くと地下へと進む。

 前回の牢屋までは、数匹のオークに襲われたぐらいで、難なく来られた。


 クラークさんは、中途半端にぶら下がった木の扉を、剥がして、通り易くしてくれた。


 先へと進み松明を突き出しながら、辺りを見渡している。

 まだオークがいるのかな?


「大丈夫そうだ。進むぞ」

「はい」


 奥へと進むと、広い洞窟のようになっていた。

 壁も地面もガタガタで、人の手が加えられた様子はない。


 真っ直ぐ奥に進むにつれ、緊張が増していく。

 クラークさんが言っていた魔物がいつ出てくるかと思うと、手の汗が止まらない。

 

 しばらく歩くと、木の扉が見つかる。

 クラークさんがドアノブを握り、ゆっくりと扉を押して開けた。

 松明を突き出し、左右を確認している。


 クラークさんが奥へと進む。

 進むぞって言わないから、様子を見た方がよさそうね。


 クラークさんの姿が見えなくなると、急に中が明るくなった。

 何があったのかしら?


 中を見ようと近寄ろうとしたとき、クラークさんが戻ってくる。


「何があったんですか?」


「出入口付近に、かがり火があった。ここは、人の出入りはあったものの。何もせずに終わった場所なのかもしれない」


「なにもせずに終わった……なぜ?」

「予想はついている。付いて来い」

「はい」


 奥へと進む。

 確かに出入口に二つ、かがり火がある。

 真正面をみると、何やら光っているものが見える。


 なんだろ?

 一歩足を踏み出し時、クラークさんが右腕を出し、止めた。


「不用意に近づくんじゃない。ここで待っていろ」


 クラークさんはそう言うと、右の壁沿いを歩いていく。

 微かにあちらにも、かがり火が見える。

 クラークさんが、かがり火に到着し、松明で火を灯す。


 パッと辺りが明るくなる。

 さっきの場所より、ずっと広い。

 天井は……高いわね。光が届いていない部分もあるわ。


 正面に視線を戻し、さっき光っていたものが何だか分かる。

 あれは、魔力の結晶?

 大きい……両手で抱えて持つぐらいの大きさだ。


 クラークさんが戻ってくる。


「あっちもある。まだ待っていろ」

 と、クラークさんは言って、左の壁沿いを歩いていく。


 かがり火に到着すると、松明で火を灯した。

 全体を見渡せるほどの明るさになった。


 見たところ、魔物一匹さえいない。

 なのに、何を警戒しているのだろう?


 クラークさんが戻ってくる。


「ここからが本番だ。良く見ていろ」


 本番? 見ていろ?

 何が始まるんだろう……。


 クラークさんがロングコートを投げ捨て、腕まくりをすると、

 詠唱しながら、魔力の結晶の方へと歩いていく。


 クラークさんは、魔力の結晶の数メートル手前で立ち止まった。

 両腕を下に垂らし、人差し指と中指を立てて、指先に雷を発生させている。


 そこに何があるの?

 ゴゴゴゴゴ……と突然、地響きが鳴り始める。


 な、なに! 何が起きたの?

 クラークさんは慌てる様子もなく、ただ魔力の結晶を見据えている。


 何あれ!


 魔力の結晶が眩いばかりの光を放つと、

 ゴブリンボスが投げたような大きな岩が宙を浮く。


 それに合わせ周りの岩も次々に宙を浮き始める。

 

 魔力の結晶が宙に浮くと、それを中心に岩が集まり、

 足……体……腕……顔を形成していく。


 胸の部分に露出していた魔力の結晶が隠れると、

 魔物はゴォーっ!と雄叫びをあげた。


 これは……ゴーレム。


 私達の世界じゃ決して存在しないと言われている魔道生物。

 生で見ることがあるなんて……。


 とにかく大きい岩の塊としか言えない。

 ゴブリンボスの2倍はありそうだ。

 こんなに大きいの、どうやって倒せばいいの?


「サンダーアローッ」


 クラークさんが先手を打つ。

 サンダーアローはゴーレムの胸をめがけて飛んでいく。

 全部、当たるも胸には届いていない。


 ゴーレムが右腕を振り上げる。

 クラークさんは左後ろに回り込みながら呪文を詠唱している。


 ゴーレムは右腕をおろし、左腕を上げると、後ろを振り返った。

 その瞬間、クラークさんがサンダーアローを放つ!


 軌道修正をかけたのか、さっきより胸に近い位置で当たる。

 だが、ゴーレムは態勢を崩すことなく左腕を振り下ろした。


 クラークさんは後ろに飛び、避ける。

 地面が揺れ、ゴーレムが攻撃した地面がクレーターのように、へこんでいる。

 振動により、クラークさんがよろめき、態勢を崩す。


「クラークさん、危ない!」


 ゴーレムの右手がクラークさんを襲う。

 クラークさんは、両腕でガードしつつ、間一髪、左に避けるも、吹き飛ばされる。


 どこかに当たったの?

 クラークさんは上半身を起こすと、「ゴフッ」

 と、吐血をする。


「クラークさん、大丈夫!?」

「心配ない」


 少し当たっただけで、吐血するほどの大ダメージ……。

 考えただけでゾッとする。

 私だったら一溜まりもない。


 クラークさんは直ぐ様、腰に下げてあった布袋から回復薬を取り出し、飲み干した。

 立ち上がると、ゴーレムとの距離を取り、ゆっくり歩きながら様子を見ている。

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