第2話 ようこそ「極夜の庭」へ
「
目の前の機械からシステム音が聞こえると同時に空中ディスプレイに受験会場内の地図が浮かび上がっていた。
「私のダイブギアセットがあるのはここか」
奏は地図を睨めつけながら自分が座るべきダイブギアセットがある場所へと足を運ぶ。
移動の途中、奏はクラスメイトが教室ではなしていた噂話を思い出し周りを見渡す。
「試験会場には受験生の知り合いが一人も居ないように受験生が割り当てられているって話は本当だったみたいだね……これは困るなぁ」
ため息交じりにそう言った奏の視界の中には友人と会話している学生などが一人も見当たらず、皆淡々と自分が指定された場所に移動している。
ましてや数少ない奏の知り合いなどいるはずもなかった。
「やっぱりそう簡単にはいかないか……」
奏は「私特性対策ノート」をカバンから出し、ピンクの付箋が張ってあるページに目を通した。
★「社会人基礎力VR検定試験」は何人かで協力して挑むことが可能!!
利点1 自分の苦手な分野を補える
利点2 長い間VR空間にいることになるので協力できる人がいると孤独感を感じない。
難点 私が知らない人に協力しようと声をかけるのは多大なる勇気がいる
⚠社会人基礎力VR検定試験で行われる4つの試験の内一つは数人でチームを作らないと
受けられないらしい。
対策 試験開始前に私の知り合いを探して協力する!!
無慈悲に打ち破られた自分の秘策を目に通し落胆しながら奏は自分に割り当てられたダイブギアセットの前に立つ。
「あーもー仕方がない、こうなったらVRの世界でやるしかない!」
奏はやけになりながらも、目の前のダイブギアセットと呼ばれている巨大な球体に向かって手を当てる。
すると巨大な球体が展開し、マッサージチェアのような椅子が目の前に現れる。
専用のスペースに荷物を預け、奏は椅子に座る。
するとダイブギアセットは元の球体の形に戻り始める。
奏の身体に布のようなものがピッタリ密着し、ゴーグルのようなものが自分の目の付近に装着される。
「VRシステム「極夜の庭」稼働」
ダイブギアセットからそのようなシステム音が流れたその瞬間、暗闇に包まれていた奏の視界は徐々に別の物へと変わっていき……
気が付けば奏は月明かりに照らされた夜の往来に立っていた。
「ここが「極夜の庭」か」
奏は辺りを見回しながら自分の手を開いたり閉じたりしていた。
VR空間であるにも関わらず奏は鮮明に手を開閉する感覚を感じていた。
「流石ダイブギアセット、日本の最新技術の融合って呼ばれている理由がこうやって体験するとよくわかる」
このダイブギアセットはこの試験をするためだけに日本政府が作り上げたものであり、そこには大本となる最新VR技術だけでなく、使用者の思考や感情と完全にリンクするシステムや、コールドスリープ研究の副産物で生まれた生命活動を維持、肉体を保存するシステムなどが組み込まれている。30年はこのVR空間にダイブしても命に別状はなく、使用者の肉体年齢も変化しないことが政府から公式に発表されている。
奏が立っていた往来には次々と受験者が現れていき、全員が日本最高峰の技術に触れ感嘆の声を上げていた。
そんな中、受験者たちの声とは毛色の違う女性の声が夜の往来に響いた。
「受験者全員のVR世界へのダイブを確認いたしましたのでこれから試験の説明を開始いたします」
その瞬間、受験者たちの喧騒はピタッと止まり静寂な時間が流れる。
「受験者の皆々様、VRシステム「極夜の庭」へようこそ。私はこのVR世界で行われる4つの試験に割り当てられている試験官AIの一人、クラスタと申します」
その声と共に、受験者たちの目の前に白い高価そうなワンピースを着たロングヘア―の女が現れる。
「ついに始まる……」
目の前の試験官AIを見つめながら奏はそっと自分のセーラー服のすそを掴んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます