第19話 吉川結衣の恋
俺は幼馴染みの三塚瑠璃を両手で抱き上げた。脇の下と膝裏に腕を通す抱き方。俗に言うお姫様だっこだ。
意識の無い人は、やたらと重い。肩にでも担ぎたかったのだが、やめておいた。俗に言うお米様だっこは、妹の祐実に怒られそうだったから。
でもお姫様だっこは、膝上スカートのときは、めくれて太ももが露出するよね。
とりあえず下着が見えるほどめくれ上がる前に、リビングのソファーに瑠璃を下ろした。そしてスカートも直しておく。
「睦さん、入ってきて」俺は玄関先で立ちすくんでいる、睦瑞希に声をかける。
「おじゃまします」小さな声で断りをいれてから、リビングに入ってきた
妹の祐実は勝手に台所に入って保冷剤とタオルを持ってきた。
意識の無い瑠璃の頭を冷やす。
「祐実、自分の顔も冷しておいて」
殴られた左頬は腫れ上がりそうだ。
「祐実、睦さん。瑠璃姉を見ていて」
女性の看病は女性が良いだろう。
「岸田くんを見てくる」
公園には岸田くんと女の子がいた。
岸田くんはベンチに座り、顔を両手で覆いうつ向いている。
女の子はその横に座り、岸田くんをいたわるように背中に手を添えていた。彼女は涙を流し続けている。それでも岸田くんをいたわっていた。
もう日が落ちて、街灯が薄く辺りを照らしていた。
「岸田くんはどうなったの? だいじょうぶなの?」
俺が彼らに近付くと、女の子は不安そうにそう尋ねた。
彼女にも、悪霊が岸田くんから離れるところを見ていただろう。俺が触れている限り、普通の人にも霊が見れるから。
しかし彼女は悪霊の事ではなく、岸田くんの心配をしていた。
俺は少し彼女を見直した。彼女は善良ではないかもしれないが、彼女の恋には誠実だった。
俺は敬意を表し、「俺の名前は高坂洋介だ」と名前を名乗った。
彼女は質問と違う答えにわずかに戸惑ったが、「吉川結衣です」と名乗った。
「すでにこっちの問題は片付いた」俺は結衣に告げた。悪霊なんかは結衣には関係ないことだ。「岸田くんと話しがしたい」
そう言うと、結衣は岸田くんの背中を抱くように寄り添い、俺を睨んだ。
「岸田くんにとって悪いことはしない。むしろ彼の役にたちたいと思ってるんだよ」できる限り優しく言った。
結衣は小さく頷く。
「悪いんだけど、彼と二人で話をさせてくれないだろうか?」
「私もいます」
結衣の返事には俺にとって都合の悪いものだったが、それでも俺の彼女への好感度を上げた。
俺は彼女に微笑みかける。
「吉川さん。僕にまかせてもらえないかな?」
岸田くんは立ち直れるだろう。
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