第49話 弟 5

目を閉じて、私は耳に神経を集中させて、音も無い息をしながら、


その一人である、二人の弟の会話を聞いた。


昨日と同じように怒りをぶつける弟がいた。


大声で怒鳴りつけ、怒りの塊のような怒気しかない弟がいた。


そしてまるで別人になったように、ひたすら謝りだした。


弟は半泣き状態で、私は呼吸が苦しくなるほど驚いた。


これはもう私の手には負えないと、すぐに悟った。


初めてに近い程、私の頭は混乱した。


成す術が、私の頭の中に無かったからだ。


弟は小学生の頃から部屋に何かが居ると恐れていた。


私には何も見えなかったが、部屋の天井の隅に指を差し、


あそこにいると言って恐れていた。


数年間はそう言っていた。


奇行が始まったのは、幼稚園の頃からだったが、


理解力のあるほうの私でも理解出来なかった。


それは今思い出しても、理解は出来ない。


私が分かるというか、理解に達する可能性がある奇行は、


やはり二重人格、今は解離性同一性障害と言うらしい。


何故理解に達する可能性があるのかと言うと、


私は一度完全に砕け散った。あまりのショックによって


立ち直れなくなった。


私は私を取り戻す事を決意したのは、ほんの2年程度前からだ。


二重人格ではなかったが、完全に感情が消えていた。


女の人がホスト無勢に殴られていても、助けず、


自分が殴られ蹴られても、相手が弱すぎて面倒だから


「お前には俺は倒せない」と言って止めさせた。


何の感情も無い世界を体験した。


だから少しだけ弟の事は理解できる。


自分が自分じゃないように私は感じたが、


弟にとってある意味、最初に出来た友達であったが、


裏切られた。今でも思う。


母親に私はそれなりの制裁を加えなければ、あまりに


弟が惨いと私は言った。弟の事は嫌いであったが、


貴金属も全て盗まれ、父親の財布の小銭まで盗んでいった。


前に言ったが、私はそいつはやめておけと言った。


私とバス停が同じで、同じ中学の年下であるにも関わらず


私に喧嘩をバス停で売って来た。半殺しにしてやろうかと思ったが、


私の同級生の友達が、そいつに「やめとけ」と止めた。


革靴であったし、金的を蹴り上げて、倒れた所を、


顔面の骨をバキバキに折って前歯の全てを折って


殺しはしないが、目玉を両方とも抜き取ってやろうかと思った。


当時の私は荒れていた。だから友達は止めた。


そして、そいつが悪友をつれて泊まりに来た。


弟は初めて出来た友人であるため、強く言えなかったのだろう。


一個下なら、だいたい誰の下っ端かは調べればすぐに分かる。


今書きながら、やっておくべきだったと思う。


クズはどこまでいってもクズだからだ。


それは大人であろうとクソガキであろうと変わりはない。

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