第18話 貫いたもの
「さあかかってこいよ。こんな短期間でどれだけ強くなったかをよぉ!?」
「黙れ」
僕は火炎球を握り手のひらに纏う。
グール相手には鞭で対応したがタイマンなら戦い方を変えた方がいいか。
「【
手を口に見立てた火吹きをイメージして放出する。これなら魔力の消費を抑えながら使い続けられる。
「それじゃあ森が燃えちまうぜ?」
「そのつもりだ。森ごと燃やす」
手のひらの渦の火力をさらに上げて、ジュマに向けて大きく振りかぶった。
「死ねえええええええ」
「どんなものかな……?」
ジュマはこの攻撃を避けようともせずに仁王立ちで構え出した。
そっちがその気なら、終わらせてやる。
「なるほど……既にそこまで強くなったのか」
「な!?」
奴の頭上にはダメージが記されていた。間違いなく攻撃は通っているのだ。
それでも、顔色一つも変えず負傷している様子も見れない。
無くはないが、僕以外にも見えている数値だから狂いようがない。
つまり、コイツはこの攻撃に耐えられる。そんな絶望が僕を襲った。
「福源の石を取り込んだお前なら、もっと出せるはずなんだがなぁ」
──取り込んだ? 福源の石を?
まさか。
僕はゼルちゃんに触られた腹をもう一度、じっくりと視ると表面に変な石が埋め込まれていた。
なんでだ。ゼルちゃんはこれを持っていないって聞いていたのに……。
そういうことか。ゼルちゃんも身体に取り込んだのか。
「お望みどおり本気を出してやるよ……! くたばれぇええええ」
より多くの魔力を消費し、火力を高めていく。それと同時に奴に入るダメージ量はどんどん増えていく。
竜巻の範囲も大きくなり、森の悲鳴が騒々しくなりつつあっても、奴はうめき声の一つも上げなかった。
「はあっ……はあっ……どうして?」
「……もういいか。今のレベルがどれぐらい把握出来た」
「がぁッ」
気が付くと僕は首を掴まれ、足が宙に浮いてしまっていた。
息が出来ない。
「不完全過ぎる……冷静さを欠いて魔力が途中から全部漏れ出してたぜ?」
「は……なせェッ!」
「その石について……持ち主はもうお前になっちまったから伝えおくか」
僕は意識を朦朧とさせながらジュマの話を聞くことしか出来なかった。
「神が信仰されていた太古の昔から世界に存在する代物の一つでなぁ、
……だから封印が解かれた後は、本来生まれないはずの魔物が生まれ生態系が壊れてしまったんだろう。
「存在するだけで争いを生み出してしまう呪われた代物。オレはそれが欲しくてたまらなかったんだ!」
「しかし今はオマエの体内に封じ込まれてしまった。こうなればもうオレには手がつけられなくなってしまった」
「それならば……人体への影響を楽しもうと思ってんだ。不死の肉体を手に入れ、終わらない魂を持った悲しき生命の
「……くっ……そ」
そして僕は地面に叩きつけられる。そこでようやく呼吸が可能になり、必死に息を吸い苦しみ喘ぐ。
「はぁっはあっはぁっ……」
息を整える間にジュマは転移魔法で逃げ、今度こそこの森にただ一人だけになってしまった。
「皆と合流しないと」
あんなに魔力を使ったというのに頭の回転がそこまで鈍っていない。
逆に魔力の回復が速くなっているのか?
ジュマの発言はどこまで信用なるかは不明だ。僕としては正直どれも信じられないが。
再生を繰り返す……か。
──どうすればゼルちゃんを助けられた? この石を吐き出したからゼルちゃんは……死んだ?
へラル──なら何かわかるかもしれない。とにかく立ち上がろう。
ゼルちゃんが死んだこと皆に伝えたらどんな顔をするんだろう。体も無くして僕一人だけが生きてしまったら、姉ちゃんとかダイアさんは怒るかな……。
でも、僕が伝えないとみんなは分からないままだから。僕にはこれしか出来ないから。
「ダンジョンを進めば皆と会える」
独り言をブツブツ喋り奥へ向かって進む。今の時刻をあらかじめリチアに渡された懐中時計で確認すると、始まってから既に40分経過していた。
「皆……生きててくれ」
重い足取りで5分かけて初めに転移させられた場所まで戻って来た。ここはダンジョンまで一本道のルートとかなり近いはず。
そう思い、戻ってきたのだが。
明らかに何かがおかしい。
「何が起きて──」
急に全身の力が抜けて僕は倒れた。
体が重くなり手足を自由に動かせない。顔も動かせなくなっていた。
「痛……い」
不快な感覚が全身を襲う。凄く冷えた物が胸元まで流れ込み、肩へ肘へ液体が逃げていく。
「僕も……やられた……」
ここにきて思考が巡り始めた。失われてく血液と引き換えにある答えに辿り着いた。
僕は攻撃を受けている。
この真実に辿り着いたのは、速いようで遅くすぐに気付ければ良かった。
僕の胴体を貫いたのは誰だ。
初めは潜伏していたジュマと予想したが絶対にあり得ない。深い理由は無いけど。
ただ、それ以上に刺された場所から森に入るときに感じた脅威と同じ物を感じた。
「女神……め」
夜中だからか急激に睡魔に襲われたようだ。
僕は目を瞑り、目が覚めたときに朝が来るのを願う。
当然ながら僕の願いは叶わず、朝なんてやってこなかった。
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