第71話 格差
俺は城の中に案内されると周りの金品に驚いていた。飾ってあるのは大白金貨と同じ素材で作ってある豪勢な家財に俺は鑑定をしながら歩いていた。
「おぉー、王族ってこんなにすごいのか」
「おまっ……」
「なんだ?」
「本当に金が好きなんだな」
エヴァンは俺に話しかけてくるが、それだけ聞けばお金にがめついやつになってしまう。
「おい、それじゃあ俺は金好き……それは合ってるか」
お金にがめつくわけではないが、スキルの影響かお金は必要だからな。
「お茶の準備をしてありますので皆様はここでお待ちください」
俺が通されたのは城の前にある庭が見えるテラスに着いた。
「じゃあ、俺達は着替えてくるよ」
「私も失礼します。 ニアちゃんまた後でね」
エヴァンとプリシラは冒険者の装いをしていたため着替えに行った。流石に王族らしい服装ではないからな。
「なんか違う世界の人達だな」
「そうだね! でもオラ達も勇者になったら少しは有名になれるだろうね」
最近ロンは何か目標が出来たのか勇者になりたいと言うようになってきた。何か功績を残すことをしないとなれない勇者に憧れを抱くのはロンの夢なんだろう。
「ニアは何になりたいの?」
「私はね……ばあばみたいなお嫁さんかな?」
ニアは女の子らしくお嫁さんになりたいらしい。ただ、モーリンみたいなお嫁さんは俺としてはおすすめしないぞ。メジストなんかいつも黒焦げになっているからな……。
そんな会話をしているとどこからか声が聞こえてきた。
「おえー、汚いやつらと同じ息を吸っているって思うと吐き気が止まらないぜ」
「ははは、なんであんな奴らが俺らの目の間にいるんだろうな」
きっと俺達のことを言っているのだろう。聞き耳を立てなくても話の内容は理解ができた。
「それにしてもあいつら遅いな」
俺達はそのまま気にせず話していると少しずつ3人組の男達が近づいている気がしていた。
「ほらほら、お前らみたいなやつが来るところじゃないぞ。 獣臭い臭いが移ったら仕方ないじゃないか」
「そんな言い方じゃこいつらの小さい脳じゃ理解できないだろう」
「ははは、それもそうだな」
「くせぇ奴らはここから消えちまえ! いや、この世界から消えちまえ!」
男達は俺達のところまで近づき誹謗しにきたのだ。
「オラあいつら嫌い」
「私も」
明らかに俺達に対して言っているのはわかっていた。ただ、城にいる可能性があるということは相手も貴族の可能性があった。
エヴァンやプリシラのように種族に対して偏見がない貴族もいれば、目の前にいる男達のような貴族もいるのだろう。
そんなことを言われても必死に耐えている姿を見た俺は苛立ちが芽生えた。
「はぁー、獣臭くて近づくんじゃなかったわ」
「こいつら生きてる価値なんてないから練習相手にはいいんじゃないか?」
「いいねー、おいお前らこっちに来いよ」
男はニアを掴もうとしたため、俺は咄嗟に男の手を振り払った。
「俺の妹になんの用ですか?」
「ははは、獣人の兄貴が人間だって馬鹿げてるな! だからお前からも獣の臭いがするのか」
「にいちゃ、オラもう耐えられない」
ロンは必死に耐えていたのか握った拳から血が滲み出ていた。
「耐えられないってなんだ? 雑魚な獣人のくせに!」
「雑魚なのはお前らだ!」
ロンは男に掴みかかりそうになっていたところを俺は止めた。
「ロン落ち着け。 こんな馬鹿な奴らの言葉に乗るんじゃないぞ」
「おい、誰が馬鹿な奴らだって?」
――ドンッ!
俺が振り向いたと同時に気づいた時には男の拳が俺の頬を殴っていた。
「にいちゃ」
「お兄ちゃん」
「ああ、大丈夫だぞ。 こんな痛みより2人の心の傷の方が痛いだろ」
俺はニアとロンを引き寄せて頭を優しく撫でた。2人には辛い思いをさせていたからな。
「ははは、ウォーレンくんは何もしないのか?」
そんな中声を出したのは次期国王であるウィリアムだった。その隣には着飾ったエヴァンとプリシラが立っていた。
「ウィリアム様、エヴァン様、プリシラ様お見苦しいところを見せて申し訳ありません」
男達はすぐに姿勢を正すと3人に頭を下げていた。
「君は悔しくないのか?」
そんな男達を無視するかのようにウィリアムは俺に近づいてきた。
「貴族相手には――」
「なら"勇者"になればいい。 きっと君なら勇者のなれると私は思っているぞ」
ウィリアムはそっと俺の肩を叩き立ち上がった。
「さて、君達騎士には罰が必要だな」
「なっ!? ウィリアム様、それはどういうことですか!」
「私達はただこの城に相応しくない彼らに帰るように伝えただけ――」
――ドオォン!
大きな音と同時に少し地面が揺れていた。ウィリアムの方へ目線を向けると、足元の地面は何かに押しつぶされたように抉れた跡ができていた。
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