第56話 新しい宿屋
俺達はその後宿屋を探していると自分達の収入にあったところを見つけた。都市ガイアスにいた時よりは高級感がありお風呂が借りられるところだった。
もうあの心地良さを味わうと抜けられないのだ。
俺は宿屋の扉を開けるとなんと王都に一緒にきたルースが働いていた。
ルースは屋敷で執事達と一緒に働くかとロビンに聞かれていたが、その場で断り次の日には出て行ったきり会ってなかった。
まさかまた俺達が泊まろうとしている宿屋にいるとは思わなかったのだ。
俺達は部屋を案内されるとベットも大きく3人で寝るには良い大きさだった。
「にいちゃ、話があるんだ」
「私もなんだけど……」
何か嫌な予感がしたが俺の予想は的中した。
「今日から別の部屋で寝たい」
俺はその場で膝から崩れ落ちた。いつもモフモフしながら心地良い感触に包まれて寝ていたのがいけなかったのか。それとも朝全然起きられなかったのがダメなのか。
原因がたくさんあってどれが問題なのかわからなかった。
「今日からオラも一人前になろうと思う!」
「それでロンと話し合ったんだ」
宿屋に向かう時にこそこそと話していたのはこういうことだったのか。
俺は仕方なく案内しているルースに話しかけるとまだ部屋は空いていないため、部屋が空き次第別々に寝ることとなった。
俺はその間にしっかりモフモフして楽しめということなんだろう。すでに案内が終わった俺は移動しながら2人を抱きかかえてモフモフしていると後ろから声が聞こえてきた。
「お前ってどこでも兄妹と抱き合ってるんだな」
どこか誤解を招くような言い方をしてきたのはエヴァンだった。
「なぜお前がいる──」
「いや、それはこっちのセリフだろ!」
どうやらエヴァンとプリシラは以前からここの宿屋を借りているらしい。貴族街に自分の家があるのに宿屋で生活させるとは想像以上に厳しい親なんだろう。
「ウォーくんそういえば──」
俺に用があったのかルースが部屋まで上がってくると急にその場で悶えていた。相変わらず変わった人だ。
「あー、推しのカップリングがモブのウォーくんになるとは……」
「ルースさん何かあったんですか?」
「あー推しが……いや、この際モブが主人公でも良いじゃ……」
今日もルースは俺が知らないことをぶつぶつと言っていた。一緒に馬車で移動していた時も思ったがここまで考え込んでしまうとどうしようもないのだ。
「この姉ちゃん大丈夫なのか?」
「よくあることだから大丈夫だよ」
「おー、よくあるのか」
俺がエヴァンと話をするたびに彼女はこちらをチラチラとみては悶えるのを繰り返し壊れてしまいそうだ。
そんなルースを放置した俺達は荷物を整理し終えると食事に向かった。
エヴァンが言うにはこの宿屋は地球風の食事を出しているらしい。俺も全く聞いたことない食事だが人気の宿屋らしい。
席に座っているとルースが食事を持ってきた。
「オークのハンバーグです」
オークを細かく刻み形を整えて焼いたものに焼いた卵が上に乗っていた。ロンとニアも初めて見る料理にウキウキしていた。
俺達は早速食べようとしたがどうにも視線が気になっていた。
エヴァンが同じ席に座っているのが原因なのか、ルースが俺とエヴァンを交互にチラチラと見て来るのだ。
「よかったら一緒に食べますか?」
「いえ、私は壁になって……いや、天井でもいいわ」
一緒に食べたいからこちらを見ているのかと思ったがどうやら違ったらしい。最終的には天井になると言っていた。
その後も声をかけるが"私は天井なので無視してください"と返されてしまう。
「にいちゃ、まだダメ?」
「私もお腹減ったよ?」
俺がルースに声をかけたため2人はおあずけ状態になっていた。
俺達は手を合わせると食事を食べ始めた。初めて見るハンバーグはナイフとフォークを使って食べる変わった食べ物だ。
俺は一口食べるといつのまにか手が止まらなくなっていた。
「おい、お前本当に大丈夫か?」
「なにがだよ!」
エヴァンはまた俺をおかしな人扱いをしてきた。俺がハンバーグを食べているとプリシラやロン達も俺を見ていた。
「にいちゃ大丈夫?」
「ん? 何が?」
「だってお兄ちゃんがハンバーグを食べているとずっと涙が出てきているよ」
俺は目元を触ると少し濡れていた。涙が頬を伝って溢れ出ていたのだ。
「ああ、美味しいからだな」
俺は手で涙を拭い再び食べ始めた。ハンバーグはどこか懐かしい味がする変わった食べ物だった。
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