第50話 理性
数日後、俺達は王都の入り口で待っていた。
今日から数日間は護衛依頼のため各自で必要最低限の荷物を持っている。ちなみに大きい荷物はスキルのアイテムボックスに入れているが容量はあまり足りていない。
「君達が今日の護衛依頼の子達かな?」
声をかけてきたのは優しそうな男性だった。彼の馬車は荷物がたくさん詰められていた。話を聞くと他の街に荷物を売りに行く仕事をしているらしい。
「そうです!」
「全員で5人って聞いているけど他の子はどうしたの?」
俺は何を言われているかわからなかったが、ローガンが他の人と合同で依頼を受けると言っていたのを思い出した。
「話には聞いてますがいつ来るのかはわからないです」
依頼主が来たのがちょうど集合時間だったため、残りの2人は遅刻してきたってことになるのだ。
冒険者として遅刻は信用問題に関わってしまう。少しのことも守れなければ依頼主に不信感を与えてしまうのだ。
「すみませんー! 遅れました!」
遠くから走ってきたのはこの間冒険者ギルドに入る時にぶつかった男性と後ろにいた女性だった。
「君達依頼を受ける気はあるのかい?」
「すみません、少しバタバタして──」
「そんなもん受ける気はない。 俺様がなぜ下民の仕事をしないといけないんだ」
遅れてきたにも関わらず謝らない男に俺はイライラしていた。この間ぶつかった時も思ったが、容姿は良いかもしれないが人として礼儀がなっていなかった。
「お兄ちゃん謝ってよ! 兄が本当にすみませんでした」
「まぁ、今すぐ変えることは出来ないからしっかりしてくれよ」
兄に振り回されている妹はずっと謝っていた。
「あの子かわいそうだね」
「ロンとニアはあんな大人になっちゃダメだぞ」
全員が集まったため俺は依頼主に近づいた。すると男は突然俺に荷物を投げてきた。
「お前、使えないポーターだろ? 荷物ぐらい持てよ」
そう言って男は馬車に向かって行った。それを見ていた俺の後ろにいるロンとニアは明らかに怒っていた。
「あわわ、お兄ちゃんがすみません」
「いえいえ、君は悪くないからいいよ」
「でもそれって兄の荷物なので私が──」
彼女は荷物を受け取ろうとしたため俺は荷物を無理やり渡した男に投げた。すると荷物はそのまま馬車に乗ろうとしていた男に当たった。
「痛ってー! 俺様に投げたやつは誰だ!」
男は大きな声で叫んでいた。それを見ていたロンとニアは笑っていた。
「てめぇら使えねぇポーターと獣人のくせに舐めたことしやがって!」
男は腰につけていた剣に手をかけた。
「お兄ちゃんそれはダ──」
「お前は黙ってろ!」
そのまま男は剣を抜くと俺の方まで向かってきた。
「2人は手出ししなくていいよ」
俺は後ろで戦おうとしているロンとニアを止めた。この間冒険者ギルドでローガンと手合わせをしたからなのか全く怖さを感じなかった。
「そんなんで冒険者をやるんだね?」
俺は一瞬で短剣を取り出し男に詰め寄った。向こうから見たら俺の動きは一瞬なんだろう。すでに短剣は男の首に突きつけている。
「おい、テメェなんなんだよ!」
「それはこっちの台詞ですよ。 まずは遅刻をしたら依頼主さんに謝りましょう」
「なんで俺が──」
さらに反抗しそうになったため俺は軽く首元に短剣を押さえつけた。少しでも動いてしまえば首が切れてしまう。
「それに俺は大丈夫ですが大事な弟と妹を侮辱したことは許さないですよ。 別に俺は君がどうなろうと関係ないですし、1番大事なのは家族だけです」
俺は何を言われても気にしないが、ロンとニアが馬鹿にされたことが気に食わなかったのだ。
「お前らなんて種族も違うし血が繋がってない時点で家族じゃないだろうが!」
どこか俺の中で理性の糸が切れる音がした。気づいた頃には俺は男に馬乗りになり、綺麗な顔を殴っていた。
男も必死に抵抗しようと俺を殴り返してくる。
「おい、お前が悪いんだろうが!」
避けれずに殴られた俺はさらに頭に血が上り再び殴っていた。
「にいちゃもういいよ!」
「お兄ちゃんだめ!」
「お兄ちゃんも早く謝って!」
どこかで俺達を止めている声が聞こえていたが俺は目の前の男がとにかく気に食わなかった。
それだけ俺の中でロンとニアは大事な家族になっていた。
「お前らもうやめろ!」
そこに止めに入ったのは偶然通りがかったロビンだった。
気づけば俺達は王都の真ん中でお互いの顔から血が出るまで殴り殴り合いの喧嘩をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます