第41話 スキルホルダー
「にいちゃ楽しみだね!」
「また私達お揃いになるよ!」
俺達はメジストに呼ばれてメジストの錬金術店に向かっていた。今日は念願のスキルホルダーができたから取りに来て欲しいと言われたのだ。
朝起きてから2人はウキウキしてずっとこの通りだ。
「じいじ、ばあば!」
「おはようー!」
2人はいつものように扉を開けるが、なぜかメジストは落ち込んでおりモーリンは呆れていた。
「すまない!」
突然俺達が入るとメジストは謝ってきた。この雰囲気からして何かやらかしたのだと俺は感じた。
「じいじどうしたの?」
「今日はスキルホルダーがもらえる日だよね?」
2人の笑顔にメジストはさらに落ち込んできた。
「あんたがやったんだからしっかりしなさい!」
「一体何があったんですか?」
俺は声をかけるとメジストは話し出した。
「わしはただ仕組みの確認をするはずだったんじゃ……」
「はい」
「それで自分の腕にスキルホルダーをつけたら取れなくなったのじゃ!」
メジストが出した右腕には金色に輝くスキルホルダーがついていた。
《伝説のスキルホルダー》
レア度 ★★★★★★
説明 世に出回るのが滅多にない伝説の純魔金で作られたスキルホルダー。魔金よりスキル玉の伝達速度が速く、魔力量が多くなる。一度装着すると持ち主しか装着出来なくなる。
持ち主 メジスト
「えっ……ってことは?」
「メジストが1つつけたから今は手元に2つしかないってことよ」
モーリンはため息をつきながらメジストの腕を掴んだ。
「兄ちゃんとお揃いじゃないの……?」
「ならオラのをにいちゃにあげるよ?」
子供達の悲しい顔と気遣いにさらにメジストは落ち込んでいた。
「まぁ、あんたの好奇心に付き合わされたこの子達が可哀想だから腕の一本ぐらい落としても平気よね?」
「いやいや、別に大丈夫です!」
うん、とりあえずモーリンならやってもおかしくないためすぐにその場で止めた。だってすでにナイフを反対の手で持っていたからだ。
「ウォーレンよ……ありがとう」
メジストはその場で何度も何度も頭を下げていた。
「えっ、誰も弁償しなくてもいいとは言ってないですよ?」
「えっ……」
メジストは俺の顔を見て驚いた表情をしていた。そりゃー、俺もスキルホルダーが欲しいし、2人とお揃いで持つことを楽しみにしていたのだ。
「おっ、俺ができることなら何でもするぞ?」
モーリンは再びため息を吐いていた。メジストも自暴自棄になっているのだろうが、言質はちゃんと取ったのでこれからもたくさん働いてもらおう。
俺としても笑いが止まらなかった。スキルホルダーなんて材料があればまた作ってもらえるからな。
「それでいつ作れるんですか?」
「……」
「まさか……」
俺の質問にメジストは答えられないでいた。辺りは静けさに包まれていたのだ。
「純魔金以外の材料が手に入らないのじゃ」
「あー! それを早く言ってくれよー!」
脳裏によぎったことが的中した。まさか本当にそうなるとは思いもしなかったのだ。
「あっ、ただ王都なら材料はあるかもしれないぞ? な?」
「うっ……そうかしらね?」
突然話を振られたモーリンは戸惑っていた。その反応じゃ無い可能性の方が高いってさすがに俺でも気づいている。
「2人が使ってくれるなら俺は……この際お揃いにすればいいんじゃないですか? ばあばとじいじだし?」
俺の言葉にモーリンとメジストは震えていた。初めて俺がばあばとじいじって言ったからか嬉しかったのだろう。
「わっ……私もスキルホルダー貰えるのね」
モーリンは俺の予想を大幅に外れていた。
「それなら俺もおじさん枠でもらってもいいか」
「ふぇ!?」
突然出てきたのはおっさんのロビンだった。今までどこにいたのかわからないぐらいすーっと出てきたのだ。
「純魔金が残っているなら大丈夫ですよ」
せっかくだからみんなでお揃いにすることにした。
俺の言葉を聞くとおっさんは笑いながら、またすーっと消えていった。あの人は人間じゃない何かなんだろうか。
俺はメジストからスキルホルダーを受け取りロンとニアの腕に装着させた。キラキラしたその目に俺は改めてスキルホルダーを作ってよかったと実感した。
ロンとニアが大きく手を振りながら去っていくその手にはスキルホルダーが輝いていた。
俺達は宿屋に向かうとちょうど目の前に年下の冒険者達が歩いてきた。
関わるのがめんどくさいと思い、俺達は外套を被って横を素通りした。
「あのポーターはどこ行ったんだ? せっかくアドル様が探してるって言ってたのに!」
「どこか別の街に行ったんじゃないか? あれからだいぶ時間が経っているからな」
「最近までこの付近にいたって報告があったから絶対いるぞ!」
「ねぁ、2人ともなんでそんなに必死なの?
私あの人のねっとりと体を見る目が嫌いなんだけど……」
「ははは、それはお目が叶ったってことだな」
何か気になることを言っていたが俺達はそのまま何事もなく通り過ぎた。
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