第8話 運命の相手にも格差
高鳴る鼓動を抑えるように、深呼吸をする。まずは慎重になって彰人から情報を貰うべきだ。
彰人の容姿を考えれば、大抵の女子は引っかかる。順調にいけば決着は近い。
俺は彰人の恋愛がうまくいくように、全力でサポートするのみだ。
「ちなみに、俺の知っている女子じゃないよな?」
「別の高校だろうから、知っている訳がねぇよ」
「彰人が惚れるなんて、正直どんな女子なのか興味あるけど」
「あ? 陸に横取りされるとは思ってないが、興味を持たれると困るなぁ」
不味った。いつもの彰人ならすんなり教えてくれそうなものだったが、踏み込み過ぎてしまっただろうか。
これは警戒させてしまったかもしれない。
「いや……冗談だ。俺と彰人じゃ、絶対に彰人を選ぶしそんな不利な戦いはそもそもしない。知っているだろ?」
「ははっ、だよな。そういうところが陸の良い所だと思うぜ」
まあ実際のところは、俺は翠星のことが好きで不利な戦いに挑んでいる訳だが。それも勿論彰人がモテるという事実を逆手にとって勝機を見出している。
俺は堅実に物事を見れているはずだ。美徳として褒められれば、悪い気はしない。
「それで、元々接点が無いならどういう経緯で一目惚れしたんだ?」
「一週間前、PC買いに出かけてさ……ほら、陸を誘ったやつ。あれ、結局一人で行ってさ」
「ああ。行けなくて悪かったよ」
PCに多少知識がある俺に付いてきてほしいと頼まれたことがあった。
俺は外せない用事があって断った訳だが、一人で行ったのか。他に誰か誘えば良かったのに。
彰人に惚れた女子の中には、PCに詳しい奴も一人くらいはいるだろう。
「いいって。んで、帰り道に寄ったアイスクリーム屋で美味しそうにアイスを頬張る女の子がいてな」
「それで一目惚れを……?」
「ま、な……初めて目を奪われた」
「それは凄いな……そんなに可愛かったのか」
「この世にあんな滅茶苦茶可愛い女の子がいるなんて思いもしなかった」
あまりの絶賛に、唖然とする。恋する相手に色眼鏡をかけている可能性もあるだろうか。
しかし彰人は、既に翠星や千夜、篠生という容姿の優れた女子達に囲まれている。
そんな彰人の言葉は重かった。
「……興味持つなよ?」
「持たねぇーって。まあ、一目惚れの経緯はわかったよ。そこで話かけたのか?」
「いや、かけてない……が、まだ続きがあるからそんな呆れた顔をするな」
接点作らなきゃ進展がないだろう。まあ俺が早計だったならいいが。
「昨日偶然また会ったんだ」
「は? マジか」
「部活後から家に帰ったら、部室に忘れ物をしていた事を思い出して急いで取りに行こうと走ったら、道の角でぶつかった」
「ぶつかった!? サッカー部ともあろう者がおいおい」
というか、彰人の家って俺よりも学校から少し遠くにあった筈だ。
しかしなるほど、だから運命……そして今日というタイミングに俺へ相談してきたのか。
(そういえば、俺も昨日女子とぶつかりそうになったな……蛮族のような女子三人組と)
あんな連中が俺の運命の相手になんてなって欲しくない。思い出して損をした。
(前言撤回、運命なんてないな)
相手の格差に涙が出そうだ。まあ実際には回避してぶつからなかったんだけど。
「その時、これが運命なのかって思った。また会えたことにも感動してな」
「な、なるほど」
「それに、明らかに俺が悪かったのにその子謝ってきて俺の心配してくれたんだよ。なんていい子なんだって思ったね」
彰人の惚れ込んでしまっている様子に俺は感心した。なんて不気味なんだと。
「今まで俺に釣り合う女子なんていないと思っていたんだが、あの子だけは別だ。絶対に彼女にしたい」
「で、なんて名前の子なんだ? 連絡先とか交換したのか?」
「いや、それはだな……すっかり忘れていて。わからないんだ。名前も聞けなくて……」
彰人らしくない。何故、そんなポンコツに。
いつもなら華麗にイケメンムーブを発揮できるだろうに。
彰人には早く彼女を作ってもらわないと困る。なのに、肝心の彰人がこうなってしまうとは。
恋とはかくも恐ろしいものらしい。
「……そんな相手だと接点持つのは難しそうじゃないか?」
「それが、手掛かりはあるんだ」
「と、言うと?」
「天岸って奴、俺達と同じ中学にいただろ」
彰人から懐かしい名前を訊いた。
彰人もまた、他の女子とは違い融通の利かない天岸に苦手意識を持っていた筈だ。
「なんで今、天岸の名前が出て来るんだ?」
「いたんだよ……その子と一緒に」
「なんで声かけなかったんだよ」
「それは昨日じゃない。一週間前に会った時の方な」
「つまり、天岸とその子が友達……同じ高校の可能性が高い?」
納得のいく推理だと思った。こんな生き生きとしている彰人を見るのは久しぶりかもしれない。
「可能性が高いってか制服が同じだったから、そうに違いねぇ」
「なるほどな」
「陸はあいつと割と話す仲だったろ? 何処の高校か知らないか?」
「知らないな。でも、それなら天岸に連絡すれば解決じゃないか?」
「それだと、俺がその子を狙っているって気付かれるかもしれないだろ」
「……確かに」
学校だけを聞こうにしても、天岸からすれば「何故、そんな事を知りたいのか」という疑問が残る。
恋愛目的で近づこうとしているものが気付かれようものなら、むしろ彼女は敵に回るだろう。
「だから連絡取るとしても、前以って情報がほしい」
「そうは言われても、何か手掛かりないのか?」
「ちょっと待て……あーこれは秘密にしておきたかったんだが仕方ないな…………よし、これ見てくれ」
彰人がスマホを取り出し、何やら操作してから俺に画面を向けてきた。そこには、学校帰りの少女がアイスクリームを食べている写真が映されていた。
ただし……少女の顔はスタンプで隠されていて見えない。
「声かけてないって言ったよな? 盗撮だろ」
「まあまあ。それよりも、この制服……何処の高校のものかわかるか?」
それに関しては一目見てわかった。
俺も今朝見たものだったからだ。
「……西木場女子の制服だ」
「おおマジか! 結構近いじゃん!」
「というか、このスタンプは何だよ。そんなに秘密にしたいのか?」
「……悪いかよぉ」
彰人は照れ臭そうに頭をかきながら写真を隠した。
元からモテモテな奴が、今更青春したような顔しやがって。なんかムカッときた。
「まあ学校がわかりゃ、また会うのは難しくなさそうだな。陸の方で、天岸に連絡取ってもらえるか?」
「どういう用件で連絡すりゃいいんだよ」
「学校の垣根を越えた交流と称して何処か遊びに誘えばいい」
「そう簡単に天岸が応じると思うか?」
「食いつくだろ。こっちの面子に千夜の名前を出せば……間違いなく」
「ああ……そういえば、そうだな」
天岸香織が彰人を好きにならなかった理由を思い出した。
天岸は女の子が好きな女子だったのだ。しかもかなりの面食いで、彰人が言うほどの可愛い女子なら共にいたことにも納得できる。
その証拠に、中学の頃も彼女は顔の良い千夜につき纏っていたのだ。
きっと彰人の考える交流ならば、その子を連れてくるだろうと、妙な説得力があった。
今日の彰人は中々冴えているようだ。
「そういや、西木場の制服は学年によってリボンの柄が違うんだよ」
「そうなのか?」
「よく見たいからスマホ貸してくれないか?」
「陸、西木場に詳しいのな。ほらよ」
スマホを受け取った俺は、すぐに編集のボタンを押して加工を外すことにした。
「えぇっと、これをこうして……っと」
「おいっ陸まさか加工を外してんじゃ……ッ!」
「どうせ後で俺も顔を拝めるんだったら、隠しても仕方ないだ…………え?」
「おいおい、まあその通りだけどよ……やっぱり陸も目を奪われているんじゃないかよ。な? すっごい可愛い子だろ」
目を奪われていると言われれば、その通りだ。
でも、彰人が思っていることとは全く別の意味で、驚愕していた。
写真に写っていた少女は紛れもなく俺の従妹……美海だったのだから。
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