第33話 空は何色か
ついにその時が来た。
いま、澄み切ったように青い空を覆いつくさんとばかりに舞い降りてくる大勢の色素生物たち。一体一体は大した強さではないが、それでもこれほど大勢で襲撃されると流石のシキモリでも辛いものがあるであろう。だが、今はそのような弱音を吐いている時ではない。蒼井は掌中の色力抽出装置をぐっと強く握りしめた。しかし、一人で立ち向かう訳ではない。隣にはマジェンタが、そしてクロハがいる。
「いいか、雑魚どもにあまり力を割くんじゃないぞ。あいつの事だ、また何か企んでるだろうからな、その時に備えて、なるべく体力を温存するように。いいな。」
二人はうなずいた。
「よし・・・覚悟はいいか!」
「うん!」
「はい!」
「ではいくぞ、転身!!」
3人はほぼ同時に転身した。シキモリ一号、蒼色巨神シアン。シキモリ二号、紅紫巨神マジェンタ、そして黒系色素生物、ブラックウィング。今ここに、三体の巨神がそろい、色素生物の軍団を迎え撃つために大空へと躍り出る。かくして、地球と色魔殿との総力戦の火ぶたが切って落とされた・・・!
・・・
「来たか。」
イエルは色魔殿の玉座の間から大勢を見守っていた。本来座るはずのジレンはあの軍団の中にいる。備え付けのディスプレイにはシキモリ達の雄姿が次々と映し出されてさながら映画を見ているようだ。シアンは
「ふふ、果たしてその省エネモードをどこまで維持できるかな・・・?」
イエルはそうつぶやくと、玉座の間を離れ、色魔殿のバルコニーへと移った。かつては豆粒よりも小さく見えた地球が、今や両腕を目いっぱいに広げても囲い切れないくらいに大きく見える。色魔殿は、今や地球の衛星軌道上で静止していた。だが、何も色素生物を送り込むだけなら何もわざわざこの船をここまで動かさなくても良い。この総力戦はクロハの見立て通り、やはりダミーであった。そこへ、一人の色素生物が玉座の間に駆け込んできた。
「イエル様!!”
「よし、さっそく地球へ向けて散布作業にかかれ。そののち、お前たちも”
「しかし、それでは色魔殿が無防備に・・・」
「どのみち奴らはシキモリ以外の攻撃手段を持たない、あっても色魔殿がそいつらごときにやられるほど脆弱では無かろう?分かったらさっさと準備しろ。」
「は、はっ!」
色素生物は自分の持ち場へいそいそと戻っていった。そして、イエル自身も色力蓄積装置を胸の中心に装着して、戦の準備を整え、玉座の間を後にした。
・・・
「このっ、このっ!!」
「そいやーっ!!」
切っても切っても、撃ち落としても、叩き落としても、まさしくウジ虫のように湧いてくる色素生物。全くこれでは切りがない。なるべくエネルギーを節約して戦っていても、流石に三人の顔に疲労の二文字が浮かんでくる。また一匹、襲い掛かってきた色素生物の首を手刀で叩ききったマジェンタが、あることに気づいた。みな、何か胸に変な装置を付けている。中央にランプのようなものが、色素生物を構成する色素に合わせて様々な色でピカピカと輝いている。マジェンタは早速二人に疑似網膜経由で報告を入れた。
『何か変な装置がついてる?』
「はい、胸の中央部に、ピカピカ光るランプが・・・」
『カラータイマーとかか?』
「いや、そんなアナクロなものかどうかは分かりませんが、とにかく注意したほうがいいかと・・・」
『分かった、とにかく二人はそろそろ色力が半分を切る、キリのいい所で自分と同系の色素の死骸から色力を吸い出して補給しておけ。』
シアンは色素生物をなぎ倒しながら、適当な同系色素生物を探した。だが、どうも適当な色素がいない。今倒したのも含めて、全て灰色の色素しかいなかったからだ。みると、自分の周りの色素生物はみな濃淡の程度は違えど、まるで今の空の色みたく全員灰色である。何やら不審に思ったシアンは、二人に通信を入れた。
「こちらシアン、周りに同系の色素生物がいない、出来れば青系色素生物をこちらに回してもらえないかな?」
『蒼井さん、こっちも同じです、いつの間にか敵がみんな灰色になってて・・・』
『え、お前らもか?俺もいつの間にか敵がみんな灰色になっちまったんだよな、まるで空の色みたく・・・』
そこまで言いかけて、クロハは絶句した。なぜ、雲一つなかった青空がいつの間にか”灰色”になっているのか?もしやと思い、シアンやマジェンタの方も見てみると・・・彼らからも色が消え、ただの濃淡の違う灰色と化していたのだ。クロハは思わず叫んだ。
「おいっ!!二人とも!!今すぐ自分の体色を確認しろ!いったい何色だ!!」
二人はクロハの言っている意味がすぐには分からなかった。だが、いわれた通りに自分の体を見てみると・・・色力はまだ半分近く残っているというのに、身体から色がほぼ抜け落ちているではないか。
『な、なんで!?どうして色が・・・!?』
『私もです!!クロハさん!!いったいどうなってるんですか!?』
色素生物やシキモリから色を抜くには、持ちうる色力を全て使い切らなければならない。しかし、シアンやマジェンタはおろか他の色素生物も色力を切らしていないのに灰色に見えるのはなぜか。いや、彼らどころか、遠くに見える住宅街の屋根、紅葉がまぶしいはずの山々、そしてどこまでも青かったはずの空。そのすべてから、色が消えているのだ。これはただ事ではない、そうクロハが判断した時には、すでに遅かった。
「二人とも、一旦退却だ、たいきゃ・・・」
『はは、もう遅いよ、クロハ君。』
疑似網膜の回線に割り込んできた、人を嘲うような声の持ち主は色球と共に上空から舞い降りて、その姿を現した。黄系色素生物にしてシキモリ0号、イエルだ。やはり彼も胸に何かの装置を付けている。その姿をみとめたシアンはすぐさまイエルに躍りかかった。
「イエル!!」
「待てシアン!!」
クロハの制止も聞かずにシアンは
「マジェンタ!!」
「・・・!!」
イエルはマジェンタの背後から組み付いて、義手の方の腕で首を締め上げる。
「う・・・ぐぐぐ・・・」
「おとなしくしろ、なあに、殺しはしない・・・」
「あ・・・ああ・・・」
マジェンタの体色がより灰色に近づく。色力をイエルに吸収されているのだ。それを阻止せんとシアンは雄たけびを上げてイエルにとびかかる。
「マジェンタを放せえええ!!」
「ふふ、いいのか、貴様が近づいたらこの娘の命はないぞ?」
彼女を盾にされてシアンの動きが一瞬止まった。その瞬間を狙いすましたかのように、イエルは右腕から鞭のように放った黄色鎖状光線が彼の体に巻き付いて、動きを拘束させる。
「シアン、君にも少しおとなしくしてもらおう・・・むん!」
「ぐああああ!!」
鎖を経由して、高圧の電流が体に流し込まれると同時にシアンは大きく悶えた。同時に、シアンの色力をやはり鎖経由でじわりじわり吸収されていく。そして、死ぬ寸前まで色力を吸収されたシアンは、拘束を解かれてすぐに、その場でばったりと倒れてしまった。
「あ、蒼井・・・さん・・・」
蒼井が倒れると同時に、色力をほぼ失ったマジェンタもイエルの腕の中で気絶し、がっくりとうなだれてしまった。色力を補給したくても、もはやこの色のない世界でどれが青色なのか、どれが赤色なのか判別が出来ず、たやすく補給が出来ない。間違った色力を補給すれば色力が消化不良を起こしてたちまち爆散してしまう。色力をある程度消費したうえで、何らかの手段でこの星から色を消し、補給を不可能にさせるというのが奴の真の狙いだったのだ。
「くっ・・・奴はいったいどうやって色を消したんだ・・・」
「知りたいかね?」
いつの間に背後に回り込んだイエルの言葉に、思わず振り向きざまに攻撃を仕掛けようとしたクロハであったが、イエルは両手でシアンとマジェンタの首をつかんで、盾にしている。今、攻撃を加えれば二人に致命傷を与えてしまう・・・
「おおっと、今攻撃したら二人に当たってしまうぞ?いいのかな?」
「ちいっ、汚いぞ!!」
「ははは、君と直接戦っても倒せないのは残念ながら真実だ。だが君は思わぬ弱点を持っていた、それは・・・この二人だ・・・」
イエルは二人の首筋をゆっくりと締め上げた。もはや二人は抵抗する力も無くなっている。
「やめろ!!」
「二人を死なせたくなければ、武装を解除し、両手を後ろに回して降伏しろ。クロハ。」
「なんだと!!」
「降伏しなければ二人の命はないぞ・・・さあ!」
クロハは舌打ちをして、いわれた通りに武装解除し、両手を後ろに回して降伏の意思を示した。その瞬間だった。後頭部に強い衝撃を食らったのは。
「・・・やれ。」
命令と共に、成り行きを見守っていた色素生物がクロハに一斉にクロハに躍りかかった。裏切り者、恥を知れ、今こそとどめを刺してやる、と言う罵詈雑言と共に、クロハは色素生物たちにまるでサンドバッグのごとく怒涛の攻撃が加えられる。
「ぐっ、ごおっ、んがっ、ぐえっ、がはあっ・・・」
体中にあざと言うあざを付けて、二人を人質に取られているため抵抗らしい抵抗も出来ず、見るも無残な姿になり果てていくクロハの姿を、イエルは嘲った。
地球側が、色素生物側に完全敗北を喫した瞬間であった・・・
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