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「いや?友達。」
その男子の質問に、やはりぶっきらぼうに倖は返す。
「友達ってこたぁないだろ。お前が女をラブホに連れ込まずに、ただ連れ歩いてるなんて、俺、見たことねぇけど。」
「……そうだったか?」
心なしか、倖の声音が低くなった気がした。
どうかしたのだろうか、と倖を見るも、見上げた倖は険のある目つきで無表情に男子生徒を見ている。
「お、おい、」
その倖の不機嫌そうな顔に気づいたのか、奥の方にいた男子生徒が手前の男子の袖をひく。
「ねぇねぇ、君、名前何て言うの?」
それに気づかないのか、はたまたわざとか。
手前の高校生が無邪気にそう、りんに問いかけた。
「あ、林田りん、と言います。……え、と、初めまして。」
「初めまして、だって。言い方かわいいんだけど!……でも、倖、これはないわぁ。」
そうしてりんの目線に屈み込んで、連れて歩くんだったらもうちょっとさぁ、と続けかけて倖に頭を鷲掴みにされた。
「ぐぇ、ゆ、倖、何かちょっといたい、」
「何が、ないっ、てっ?」
倖はチラリとりんに視線をやると、いててててっ、と声を漏らす男子生徒を連れて離れていこうとした。
その倖の行動に、りんは咄嗟に倖の上着の裾を掴んで引っ張る。
「ゆ、倖くん、どこに行くんです、か?」
泣きそうな顔をしておろおろとする奥の黒髪の男子を横目に見ながら、りんがおっかなびっくり倖に問いかける。
それに倖は盛大なしかめっ面で、別にどこも行かねぇけど、と口ごもった。
「ほ、ほら!安井パンでパンを食べる予定だったので、私小腹がすいちゃって!帰り道で何か食べましょう!」
と、りんは掴んだ裾を更に強く引っ張る。
すると、おろおろとしていた男子がパッと顔をあげて、コロッケ、と呟いた。
「そこの、もう少し先に行ったところにある肉屋さんのコロッケ、まじうまです!」
思わぬ所からの援護射撃に気をよくして、りんが畳みかける。
「コロッケ!……倖くん、私、食べてみたいです!」
りんの剣幕についつい力を抜いてしまった倖の手から、黒髪の男子が茶髪男子を取り返した。
そのまま、では!また!と頭を押さえて呻いている茶髪を引きずって道の向こうへと消えていく。
その様子にほっと胸をなで下ろし倖を見ると、しかめっ面でりんを見下ろしていた。
「お前はもちっと、怒ってもいいと思うぞ。」
「……倖くんは、怒りすぎですよ。」
りんの言に渋面で、行くぞ、と倖はりんを促した。
「そうですね。安井パン、残念でしたけど次回のお楽しみってことで、今日は帰りますか。」
りんが努めて明るくそう言うと、倖はピタリと足を止めた。
「……コロッケ、食うんじゃないのか。」
「あ、あぁ!そうでした!行きましょう行きましょう!」
ったく、と先に歩き出した倖に慌ててついていく。
金髪の揺れる背中を追いかけながら、そういえば、と思い出す。
友達、って、言った。
ごく自然に。
倖はりんのことを、友達、と自分の友人に伝えたのだ。
……本気で仲良くなることなどないだろうな、と思っていたのに。
そう、これは友達ごっこだったのに。
だのに終わるどころか、本当に友達なんじゃないかと、りん自身、そんな錯覚をしてしまいそうになってきている。
こうなってくると、倖との約束を果たさなければならないのでは、とも思えてくる。
仲良くなったら、いとこの連絡先を教える。
仲良くなった、の線引きをいったいどこですればよいのか皆目見当もつかないけれど、少なくともいとこの連絡先を教えたところで、それを倖が悪用したり、いとこに迷惑をかけたり、そんな心配や不安は、もうあまりない。
ということは、教えるべきなんだろう。
でも教えてしまったら、こうして放課後一緒に歩くこともなくなるのかもしれない。
少し前を行く背中についていきながら、りんは眩しそうに目を細めた。
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